そばに、いるよ @



※『No way to say』の続きです。






夜中に目が覚めた。
喉が渇いていて、なにか飲もうかと身体を起こして、自分がなにも着ていないことに気がついた。
あのまま疲れて眠ってしまったのか、途中意識が飛んだのか、そのあたりの記憶がないのでわからない。どちらにしろ、それが、ひどく恥ずかしくて、誰も見ていないのに一人で照れて立てた膝に顔を埋めた。
オレが膝をたてたせいでタオルケットがずれて、水谷の背中が見えた。
シングルのベッドでは、二人だと仰向けに寝ると体が半分落ちてしまうから、水谷は横を向いて窮屈そうに縮こまって眠っている。
そういえば、水谷は背中がすごくきれいなんだよね。
背中だけじゃなくて、水谷は曲線で構成されている。髪も目も身体の線も、声や性格までも、なにもかもが丸み帯びて柔らかい。
オレと水谷は体格はそれほど変わらないはずだけれど、余計な肉がついてるわけでもないのに、オレみたいに骨の上に皮膚が張り付いてる感じがしない。
そういうところも好き、と、水谷の少し細くなった背中を見ながら思った。
たぶん水谷も野球をやめてしまったのだ。
あんなに毎日そればっかり考えてたのにね、と少し淋しくなる。
きれいに浮き出た肩甲骨の曲線を指でなぞったら、くすぐったかったのか、なにかむぐむぐ言いながら寝返りをうってこっちを向いた。
外灯の光が入るから、夜中でも部屋の中は薄っすらと明るい。青白い光に照らされた水谷の顔を見つめた。影を落とすほど長い睫が、呼吸に合わせて微かに震える。
いつ見てもきれいな顔。
瞼にかかる髪を手でかきあげる。眉を寄せたが目を覚ます様子はない。
口角が少し上がっている水谷の顔は、なにもしていなくてもいつも笑っているように見える。幸せそうな顔だといつも思ってた。
そういうところもすごく好き。
水谷なら彼女だっていくらでもできるだろうに、なんでオレなのか、今だに不思議でしょうがない。

今も子供だけれど、もっと子供だったあの頃、いったいなにがオレたちを結び付けたんだろう?
それはいつまで、オレたちを繋いでいてくれるんだろう?
その目には映らない糸みたいなものを、どうしても信じられなくて、いつもどこか不安だった。信じきるのが怖くて、すべて水谷に傾くのが怖くて、どこかに逃げ道を作って、そういうずるさが、すれ違わせたのかな。
今は、なにもかも信じていいような気がする。信じたいと思う。

「明日は、帰っちゃうんだよね…」
学校の帰りにそのまま来たという水谷の荷物は、首を傾げたくなるほど少ない勉強道具と、財布と携帯くらいのものだった。
水谷には水谷の生活がある。そこに戻らなければならない。


離れても大丈夫と思えるのも本当。

離れたくない。それも本当。


それはどちらも、水谷が好きだということだ。











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