No way to say D ※R18



突き上げるたびに、栄口の背骨が木の床に擦れるごりっという鈍い音が微かに聞こえる。
一応脱いだ服を下に敷いたものの、栄口は背中が痛くないんだろうか。気にはなるけれど、本人がそうしたいって言うんだからしょうがない。
栄口は前からベッドよりも床の上がいいと言っていた。あのベッドが軋む音を聞くと、我に返って恥ずかしくなるから嫌なのだそうだ。

「背中、痛くない…?」
「ん…大丈夫…」
「痛かったら言ってね」

そういって動きを緩めて胸へと舌を這わせる。オレは栄口の骨が好きだ。肩とか腰とか身体の端っこの骨が好き。特に鎖骨の上が好き。薄い肌の下の滑らかな細い骨をたどるように唇でなぞる。
背中を逸らした時に浮き出る肋骨が、深く息を吸ったときに開く感じも好き。
手のひらでわき腹を撫でて、ちょっと痩せたなと思った。
それはたぶんオレも同じだ。使わない筋肉はすぐに落ちてしまう。気にかけていないと、大切なものほど消えてしまう、なんだってそうだ。

体を離して、離れたところから栄口を見た。
あちこちを触っていると身体を竦ませるからか、栄口はいつも小さく見える。それだけじゃなくて、やっぱり体が全体的に細くなっている気がする。そのことに会わなかった時間の長さを感じて、急に切なくなった。背中に腕を入れて力いっぱい抱きしめる。肩口に顔を埋めてゆっくりと深く腰を揺らした。

「ん…はっ…」
栄口はこういうことをしてても、体を震わせるくらいで、あまり声を上げるほうじゃなかった。それは今も変わりない。
でも、快感に身を捩って弓なりにしなる背中だとか、無意識に開いてしまう太腿だとか、オレやシーツをきつく握り締める指先だとか、身体を見ていれば、気持ちいいのが十分にわかる。
そんな時に閉じた唇から漏れる引き絞った喉から鼻に抜けるくぐもった高い声や、酸素を求めて開いた口から、引っかかりながら吐き出される呼吸に混じる声は、大きな声で喘がれるより、よっぽど扇情的だ。一気に身体が熱くなる。
動きを激しくすると、仰け反らせた首の小さめの喉仏がきゅっと引き攣れて動くのが見えて、思わず唇を寄せて軽く歯を立てた。

「も…イキそう?」
思うように喋れないのか、栄口はぎゅっと目を瞑って頷いた。
「んっ…オレも…」
栄口のそれに手を伸ばして、自分の動きに合わせて扱く。背中に栄口の爪が食い込む痛みと全身を巡る快感に耳を塞がれているみたいなのに、短くて早い喘ぐ声だけが響いて、追い上げられていく。
「あっ…あ、ん…うっ…!」
指の隙間を伝う生温さを感じた瞬間、頭の真ん中で引き伸ばされた糸が切れそうな感覚に、なけなしの理性で中はヤバイと思って引き抜こうとしたら、ぐっと腰を掴んで引き寄せられた。
「…!?」
びっくりして見下ろすと、肩で息をしながら、栄口が薄く目を開けてオレを見た。
「…っいいから」
と、両手で腰を抱き込まれて、そのままいってしまった。
呆然としていたオレの頭を、栄口が両手で抱き寄せた。されるがままに大きく上下する栄口の胸の上に身体を預ける。

「…まだ、このまま、オレの中に、いて」
整わない息の切れ間に囁く掠れた声。早く打っていた鼓動が跳び上がるほど強く打った。
耳をつけた胸から、早い鼓動が聞こえてくる。荒い呼吸が気管を通る音も。
「もう少し…こうしてて…」
と、栄口がオレの髪を撫でる。髪を梳くように何度も繰り返す。
オレは少し汗ばんだ胸に顔を摺り寄せた。

繋がったところからじくじくと溶かすような熱は、腰を伝い背中を上る。
どこからオレで、どこからが栄口なんだろう?
合わさった胸の湿った肌も、ぴったりとくっついたところで違う体温が混じりあって二人の体温を作っている。
こんなにもひとつになりたいと思ってしまうのに、もう離れられるわけがないじゃないか。

「栄口…」
「ん…?」
「好き、だよ」
「うん…」
ぼんやりと頭に浮かんだ言葉を口にしてみる。

「あいしてる」

頭を抱く栄口の腕の力が少し強くなり、小さな「あいしてる」という声が聴こえた。

「愛してる」

もう一度、今度ははっきりと意味を持って口にする。

この言葉でも足りない気がするけれど、たぶんほかには言葉はないんだろうと思った。
オレは手をついて身体を起こし、上から栄口を見つめた。まだ、乾かない目の縁の涙のあとを指で拭う。栄口は静かに目を閉じて、そしてゆっくりとあけた。

「だから、もう、オレを置いてかないでね」
「うん」
「一人でどこかにいったりしないでね。オレ、待ってるから」
「うん…!」

抱きつくように首に腕を巻きつけられて、また蕩けるような感覚に身を任せた。
気持ちがいいだけじゃなくて、なにもかもが繋がってる、そんな安心を求めるように。
こうやって身体に触れて、肌を重ねることも大切だとは思うけれど、なにより、気持ちが繋がっていることが大切なのだと思った。

離れられないのは気持ちだけ。身体は離れていても、流れていく時間が繋がっていることを感じられるなら、それを信じていられるなら、それは苦しくても幸せなことだ。

「愛してる」

離れている間は、言葉だけでも伝え続けるから。

オレにも伝えてよ。




「愛してる」って。








/end











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