No way to say A



校門に面した通りには大学前のバス停があって、小さな屋根の下にあるベンチに座った。

久しぶりに聞いたな、栄口の声。
出会ったばかりの頃、これから声変わりして低くなるのかと思っていた栄口の声は、高校生の間変わることはなくて、そして今も高いままだった。
高いのにとげとげしくなくて、それでいてよく通る不思議な声。あの声が大好きで、よく耳元で話してもらっていたのを思い出した。

迎えに来てくれるということは、とりあえずは会ってくれるということだ。
栄口に会える。
それは、すごく嬉しい。そしてすごく怖い。
手のひらが冷たく感じる。緊張してるんだ。
早く打つ鼓動を落ち着かせるために深く息をついた。
会ったら、なにから話せばいんだろう
謝るところから、かな。でもなにを謝ればいいんだろう?
漠然とした罪悪感は言葉にならない。

それでもずっと後悔していたこと、ずっと好きだったことだけは伝えたい。それで、さよならを言われたなら、それはどうしようもないことだと諦めようと思った。頭ではそう思っているけれど、本当は想像するだけで胸が痛くなる。

通り過ぎていく人達の、イントネーションの違う話し方に違和感を覚えながら、街の景色を眺めた。夜だからなんの建物なんだかさっぱりとわからないけれど、コンクリートのビルと、古めかしい木造の家みたいな建物が入り混じる不思議な街並み。
知らない場所だけど、ここが今栄口の街なんだなぁと思った。
見渡していて、近づいてくる自転車に目が止まった。遠くからでも、その姿はすぐ見つけられた。今もそれは変わらないみたいだ。
栄口だ…!

オレはベンチから立ち上がってその自転車に向かって走った。
自転車を降りた栄口は、ハンドルを握ったまま肩で息をしていた。あれからたいして時間もたってない。急いでここまで来てくれたのかと思うと、不安なんかより、嬉しさの方が何倍も大きい。本当は抱きしめてしまいたかったけれど、学校の前でそれはまずいと思って伸ばしかけた腕を下ろした。

「…会いに来ちゃった」
あんなにいろいろ考えていたのに、やっと出てきたのは、そんな言葉だけだった。今までのこと謝らなきゃと言葉を捜しても、見当たらなくて、ただじっと栄口を見ていた。今、目の前にいて目をそらさずにオレのことを見ている。

やっと、会えた。

それだけで胸がいっぱいで、なにも言えなくなってしまった。栄口も、なにも言わなくて、しばらく二人で立ち尽くしていた。








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