身体の奥底で燻る、熱い…其れ。
精神の奥底で燻る、篤い…其れ。
カラダも、ココロも…お前に支配されて。
自由と言う名の翼は…自らの炎に焼かれる。
―――…お前が居るなら、もう飛べなくたって構わない。
【恋の炎】
「愛してるよ、オレの姫君…」
あまり人気のない、夜闇の幕が閉じた廊下。
そう言って額に口付ければ、頬を朱色に染めて俯かれる。
「……私は…男だ…」
“姫君”と呼ばれる度に紡がれるその言葉。
その度に、オレが返す言葉も決まっている。
「性別じゃないって、何回言わせるつもり?
オレが愛してる“お前”は、オレだけの“姫君”だよ」
もう一度額に口付けて、それから短く触れるだけの接吻。
「ん…っ、こんな…っ所でか…?」
するりと腰に伸ばされた腕を抑えて、更に頬を赤く染める。
「ふふ、月夜の逢瀬には付き物だろ?
月明かりの中で艶やかに舞うお前が観たいんだけど…」
「っ…中では…駄目なのか…?」
そこまで嫌なのかと思う程、涙目になり始めた姫君は可愛くて。
―――嗚呼…弱いんだよね…その顔と瞳。
だけどずっと観ていたいだなんて、そんな事言ったら…怒られるかな?
「姫君のお願いとあっては…仕方ないね」
「っ、ヒノエ…っ!」
腰を掴んで軽々と担ぎ上げれば、驚いて抵抗し始める。
無駄な抵抗だと解ってる筈なのに…可愛いね。
「オレの姫君にご足労頂くわけには行かないからね、少し我慢しなよ」
渋々、抵抗が止む。
満足げに微笑んでも、姫君には見えていないけれど。
暗い廊下を通り過ぎ、月明かりに照らされた廊下を通り過ぎ…誰も近寄らない一室に入り込む。
そして、障子を開け放したまま、姫君の華奢な体を畳に下ろす。
「……閉めないのか…?」
「ふふ、さっきも言っただろ?
“月明かりの中で艶やかに舞うお前が観たい”って…」
「…っ、だからと言って…」
声が漏れるのを懼れてか、…それとも庭が見える開放的な視界故か…。
「オレだけ見てれば、気にならないだろ…?」
四角くて白い月の聖域に敦盛の着物が広がる。
髪を結っているが故に、まっすぐオレを見れずに他所を向いている顔。
美しい紫色の御髪を束縛から解放すれば、切なげに寄せられた眉根。
緊張でもしているのか、早鐘のような心拍。
同じ理由で、強く握られた拳。
「敦盛…」
「…んっ、…ふ…んぅ…」
服を脱がしていく間を埋めるように、甘く深い口付けを贈る。
応え方が解らず、絡め合うたびに戸惑って逃げる舌。
小さく跳ねる姿態が、光の中に曝されていく。
苦しさが極限まで達したようで、呼吸を求めて唇を無理やり離される。
「っはぁ…あ…、っ…は…」
「は…、可愛いね…」
苦しそうに荒い呼吸を繰り返す。
既に自分を隠すものが何もない事に、気づいているのかいないのか…。
「もう、勃ってるみたいだけど…そんなに、イイ?」
「っ…、…言うなっ…」
直接的単語に真っ赤になって、オレの胸を押し返す。
「…恥ずかしがってる姿も可愛いね…」
押してきた手をとり、片手で頭上の畳に縫い付ける。
そのまま開いているもう片方の手で、緩く立ち上がった敦盛の自身をなぞる。
「っぁ!…ゃっ、…やめ……ん…ぁっ」
「ほら、もうこんなに出てる。いやらしい体になったね、姫君…」
「…っだ…れの、せぇ…だっ…っ」
――まあ、オレのせいなんだけど…。
それ以上反抗する台詞を言わせないよう、先端を指で刺激し続けると、快感に弱くなった敦盛は嬌声を上げながら泣きじゃくる。
「あっ、…あぁっ…ヒノ…っエ…ぁ…っあぁ…――っ!」
粘り気のある先走りを指に残したまま、薄皮をするりと剥けば、簡単に達した。
余韻に浸って、弛緩した身体をそっと撫ぜる。
「…っん、…ヒノエ…っ」
「指入れるけど、いい?」
コクコク、と頷いてぎゅっと目を瞑る。
「ふふ…可愛い…。少し痛いけど、我慢…できる?」
「…っ」
薄く開いた涙目は、“しつこい”と言わんばかりに怒気を含んでいて。
謝る代わりに頬を伝う涙を舐めとると、擽ったそうに再び目を瞑る。
「じゃあ、行くよ…?」
「…っい、ぁ…ヒノエっ…ヒノエ…っ」
淫らに乱れる、可愛いお前。
その中は、熱くて篤くて堪らない。
オレの熱が合わさると、その熱さは灼熱の炎にも似て。
オレの翼は、魅惑の業火に捉えられて。
…自由を欲す訳でも、荒がう訳でもなく。
ただただ、愛しい束縛を欲して。
ただただ、熱い篤い業火を欲して。
ただ…この熱が冷めない事を、欲して…―――
07*01*04