先月の中旬からゴマは人生初の長期バイトを始めました。バイトを始めたきっかけは春休みがあまりに暇だったためです。
大学の学生アルバイト情報を見ていると大学に近く、時給が1200円のバイトがあったので、応募をすると、あっさり採用してくれました。ひゃっほう。
ただ、ゴマはコンビニのバイトだと思って応募したのですが、そこはドラッグストアでした。しかも、ゴマが応募したところは化粧品のみを扱い、ノーメイクで大学へ通うゴマにとっては無縁のお店でした。
なんてこった。
応募時の電話のやり取りで気付いたのですが、チキンハートのゴマは後には引けず、そのままそこへ働くことになりました。
1週間程度、別の店舗で研修をし、その後は応募した店舗で働き始めたのです。
今日はそこで働いて1週間が経過した日でした。
ゴマが商品にはたきを掛けているとスタッフのTさんが声を掛けてきました。
T「ゴマちゃんって化粧しないの?」
ゴマは化粧品売り場のスタッフの中でただ一人、素っぴんでした。
かなり場違いです。
ゴ「え?あ…えっと、興味はあるんですけど、化粧出来ないんです」
と言うより、飽き性かつ面倒臭がり屋のゴマにそんな芸当が出来るとは思えません。
興味があるのは本当だけど。
T「そうなの?じゃあ、やってあげるよ」
……………はい?
ゴ「…化粧をですか?」
T「うん!ほら、こっちに座って」
ちょ…え?
今、バイト中じゃないんですか?
Tさんはいつもの可愛らしい笑顔を浮かべ、普段はお客様が座っている椅子を引きます。そして、ゴマに座るよう促してきました。
ゴ「え、え?」
未だに状況が理解できないゴマ。
取り敢えず、
ゴ「て、店長に怒られませんか?」
一番気になることを訊いてみましょう。
この時、店長は休憩に入っていましたがいつ戻ってくるかゴマは知りませんでした。
T「大丈夫だよ〜。実習ってことにすればいいんだし!ほら、座って」
どうやら大丈夫らしい。
でも、ゴマが大丈夫じゃないんですけど。
すると、別のスタッフのSさんがこんなことを言ってきました。
S「なら、こっちでしなさいよ!こっちの方が高いし!」
T「ありがとうございます〜。じゃあ、そっちにしますね」
今、Tさんがゴマに化粧する際に用いようとしていたメーカーさんより更にお値段が張るメーカーさんで化粧をしろと言い出すSさん。
マジですか。
そんなわけで、Tさんは鼻歌混じりにゴマへ化粧をし始めたのでした。
「ファンデーション塗るね〜」
「チークするね〜」
「眉もやろっか〜」
Tさんが色々やってくれます。
それと同時に説明もしてくれますがゴマにはちんぷんかんぷんでした。
最後にグロスを塗って頂き、お化粧は終了です。
鏡で見ると異様に唇がてかてか光っていました。
…き、気になる。
無言で鏡の中の自分と見つめ合うゴマにTさんがこんなことを言ってきます。
T「これでゴマちゃん、キスできちゃうね〜」
で き ま せ ん 。
Tさん。あなた何言っちゃってんのおおお!?
心の底からそう思ったゴマでした。
T「今度は目の方やろうね〜」
…え?
今度もあるんですか。
いや、化粧は興味ありますよ。でも、これは恥ずかしい。
他のスタッフさん、にまにましてゴマのこと見てるし。
恥ずかしいんですけど。
そして、化粧を終えたゴマにSさんがにんまりと笑います。
S「うん、今度からはこれくらいしなくっちゃね!」
ゴ「あ…そうですね…」
S「あ。でも、化粧品持ってないんだっけ?じゃあ、無理か。あはは!」
そうですよ。
化粧品持ってないですよ。
あはは…。
Sさんの言葉に苦笑を滲ますゴマでした。