足の無い僕等は、いつも歩く。
刻一刻と迫る、期日に追われながらも
精一杯に毎日を浪費している。
人生なんてものは消化試合だ。
ひたすらに日々を捨てる。
そんな日々の中でも、君と1日中、寝具の上で溶けるというのは、格別なのだろう。

悪くない、そんな風に思いながら、
コンビニエンスストアから、歩いて帰る。
雨の音は、昼間の幸福を磨り減らすようで。
僕は、すっかり磨耗してしまった、
鈍い感性たちを振り絞るようにして、使い捨ての言葉を綴るのだった。





「何か僕に対して、不満とか無いの?」


「特に無いかなあ。」


「そっか。それなら良いのだけれど。」


「あ。1つあった。」


「何?」


「健康にもっと気を付けてね。君にはね、長生きしてもらいたいの。君だけじゃなくてね、私の好きな人は皆、私より長生きしてもらわなきゃ困る。でないと寂しいからね。」








昼下がりの七畳半、カーテンから染みた光が、
白い鼻筋に影を作っていた。
貴女は自分の身体の事をよく分かっていて、
僕もある程度は覚悟しているのだけれど、
いざ具体的な話になった時に、目頭を熱く叩くのは同情か憐れみか。それとも、もしかしたら、これが愛なのか。

不揃いなパズル。背骨と濃い煙草。
弦の無いギター。鳴かない猫と壊れた目覚まし。
変われない信号。人の居ない道路。
錆びてる高架橋。めめんともり。めめんともり。







「なんで泣いてるの?」


「わからない。わかんないのよ。」


「何が悲しい?」


「何が悲しいのか上手く伝えられない。けれど、とても悲しいの。」


「そうか。じゃあ、わかるまで待つよ。」


「あのね、」


「うん。」


「私、頭が悪いから、松本くんの言ってることや言いたいことが時々、わからない。そういう自分の頭の悪さが悔しくて、腹が立つの。自分の一番好きな人のことでさえ、わかってあげられない自分の頭の悪さが許せなくて、涙が止まらないのよ。」













この人はきっと、僕の傍に来るべき人では無かったのだと思う。あまりにも心が綺麗なのだ。しかし、僕も10代の頃ならまだしも、今更、手段や方法を選ぼうとも思わないので、たまたま巡り会ったこの幸運をどうにかこうにか離さぬように日々を紡いでいるのだ。そして、幸福擦るように笑う。