【前回のあらすじ】
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「美弥花の奇妙な髪型には元ネタのゲームがある?」
ガンナーお茶会でのナタリーの発言に好奇心を持った真知とシルビア。
そのゲームとは、定価の三倍以上の値段で中古が売られているPS1ソフト『serial experiments lain』だった。
そのゲーム『lain』のヒロインである岩倉玲音の髪型は確かにオルガルのメインヒロイン悠木美弥花に似ている。
美弥花の奇妙な髪型の秘密がこの『lain』というゲームにあるのかもしれない。
ガンナー三人は期待をこめてプレイを始めた。
ところが、心理学用語が頻出したり、グロ映像が流れたりと、きわめて実験的な作風にガンナー三人の口調も感化され、いつしかオルガルSSの読者層を完全に無視して、サイコミステリーとサイバーパンクの違いだの、独裁者ゲームだの、シンギュラリティだの、カズオ・イシグロだの、ろろちゃんだの、オルガルに関係のない話に終始する結果を招いたのだった。
この『lain』にはアニメ版がある。
ゲーム版よりもはるかに有名で、通常『lain』といえば、アニメ版をさす。
アニメ版を抜きにして『lain』を考察したとはいえないのだ。
しかし、あくまでこのブログはオルガルSSを公開する場であり、他作品の考察記事を掲載するスペースではない。
はたして、1998年公開アニメ『lain』はどのように語るべきなのか?
ナタリー「ということで、今回は目次を作ってみたぞ」
【lainアニメ版考察SS 目次】
(1))90年代アニメ随一の秀逸なオープニング
(2)日本ではなく世界に評価されたアニメ
(3)勇者ありすはいかにして世界を救ったか
(4)気持ちの悪い男たち
(5)宇宙は何次元?
(6)ハイパーテキスト通信プロトコル(HTTP)
(7)ビットコインと神の遍在
真知「おい!!!」
ナタリー「どうした真知?」
真知「どうしたもこうしたもあるか! 目次があるSSなんてSSじゃないだろ!」
シルビア「ビットコインとか…また読者層を無視した単語が…」
ナタリー「ふむ、どうせやりすぎるのだから、あらかじめやりすぎたと宣言したほうが良いと思ったのじゃ」
真知「ならばSSという形式で語る必要ないだろ!」
ナタリー「仕方ないではないか。
ゲーム版を語ったのだから、アニメ版もネタにしないと片手落ちというもの。
ということで、今回は1998年のアニメ『serial experiments lain』について語っていくぞ」
(1)90年代アニメ随一の秀逸なオープニング
ナタリー「1998年に公開されたアニメ『lain』について語るとき、ほとんどの人が話題にするのはオープニングのカッコ良さじゃ。
こればかりは百聞は一見に如かずということで、実際に見てもらうほかあるまい」
真知「…これは洋楽なのか?」
ナタリー「このアニメオリジナル曲だぞ。
作ったのは日本人じゃないから、通常のアニソンの構成とは異なる洋楽の展開じゃな。
日本のアニソンにはPPPH(パンパパンヒュー)のあるBメロが必須じゃが、この曲はそうではない。
だから、アニオタどもはこの曲がライブで流されても、どう反応すれば良いかわからず当惑するであろう」
真知「心底どうでもいい話だな」
ナタリー「従来のアニメOPとは異なる色彩の曲を持ってきたところが『lain』のカッコ良さといえるじゃろう」
シルビア「カラスが印象的だったけど…本編では関係するの?」
ナタリー「関係ないぞ。
カラスを描写することで、都市の生命力を表現しただけじゃ」
真知「…最後の玲音の表情は放送禁止レベルだろ!」
ナタリー「ふむ、玲音という少女の喜怒哀楽だけでなく、エクスタシーすらも表現しているのも、この『lain』オープニングの秀逸なところだ。
まさに、深夜アニメならではの背徳感ではないか? 街の裏通りに足を踏み入れるようなスリルがこのオープニングにはある!」
真知「…そもそも、アニメは深夜に放送するものではないのか?」
ナタリー「それは21世紀の常識にすぎん。
90年代のこの『lain』などの作品が、深夜アニメならではの作風でマニアックなファンの獲得に成功し、DVDを買わせることでビジネスモデルとして成り立つようになったからじゃ。
深夜放送ということで、見る層も相当に限定されていたし、一般的な話題となることはタブーとされていた時代だな」
真知「なるほど、アニオタどもが日陰者だった時代というわけか。
良い話ではないか」
ナタリー「この1998年公開のアニメといえば『カウボーイビバップ』もある。
このオープニングもカッコいいぞ!」
真知「ふむ、カッコいいな。
肝心のアニメの内容はサッパリわからんが」
ナタリー「こういう雰囲気を何より重視していたのが『新世紀エヴァンゲリオン』を代表とする90年代アニメの特徴といえる。
内容なんて二の次。
矛盾大いに結構! これぞまさにクールジャパンだ!」
シルビア「…………」
真知「クールジャパンって…言ってて恥ずかしくないか?」
ナタリー「何を言う? この『lain』こそが『Cool Japan』の火付け役の一つになったアニメなのじゃ」
シルビア「でも…1998年のアニメだよね?」
ナタリー「シルビアよ、90年代の日本アニメはクールジャパンの
本丸だぞ。
特に、このlainはサイバーパンクな世界設定のわりに、なぜか萌え要素がある。
そのギャップがウケたわけであって、『萌え』だけを前面に出したアニメにそこまでの魅力はない!」
真知「そ、そこまでいうか?」
ナタリー「まあ、90年代当時、『萌え』という単語はなかったわけだけが」
シルビア「そうなの? …知らなかった」
ナタリー「特に、このアニメ版『lain』は日本よりもむしろ世界で評価されたアニメといえる」
真知「世界でウケた? その証拠はあるのか?」
(2)日本ではなく世界に評価されたアニメ
ナタリー「アニメ作品が世界で評価されたかを知る手っ取り早い指針として、Wikipediaがある」
真知「Wikipedia頼みか! あんなの熱心なファンが大げさに書きたくっているだけではないか?」
ナタリー「いや、他言語のページが充実しているのかどうかを見ればいいのじゃ。
日本のファンが書けるのはせいぜい英語までだからのう。
例えば『lain』の項目の他言語欄を見てみよう」
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真知「ほう、いろんな言語の翻訳ページがあるのか。
日本の熱心なファンだけではない、と」
シルビア「この星マークはなに?」
ナタリー「良質な記事ということだ。
『lain』の場合、Español(スペイン語)とSvenska(スウェーデン語)の記事が評価されているということだ。
日本語を翻訳しただけの記事ではないということだな」
真知「スペインとスウェーデンに熱心なファンがいるのか…よくわからんな」
ナタリー「まあスペイン語圏はスペインに限らないがな。
ちなみに、同年の1998年のアニメ『カウボーイビバップ』だとこうなる」
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真知「こちらはイタリア語に黄色い星マークがついてるな」
ナタリー「秀逸な記事ということじゃ。
灰色の星よりランクが高いぞ」
シルビア「『カウボーイビバップ』のほうが他言語に翻訳されたページが多いね」
ナタリー「この2作品は日本よりも海外で評価された90年代アニメの代表作といわれる。
これら世界評価が気になるならば、それぞれの作品の他言語記事の星マークを参考にするといいぞ」
シルビア「ちなみに、エヴァの場合はどうなってるの?」
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真知「おお、さすがに格が違うな!」
ナタリー「ということで、lainをエヴァと並べて語るのはさすがに無理がある。
ただし、最近のアニメだとこうなる」
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↑
↑
シルビア「ハルヒやまどマギは…『lain』とそれほど変わらない?」
真知「けもフレにいたっては、世界的評価はほとんどないということか…」
ナタリー「それだけ最近の日本アニメに世界が見向きしなくなったということだな」
シルビア「世界的評価なんてその作品の面白さには関係ないけどね」
真知「もちろんだ」
ナタリー「まあ、この『lain』の場合、オープニングと雰囲気のカッコ良さにダマされて、肝心のストーリー内容にほとんど触れてないケースが多すぎるがな。
…では、これから未見者にも既見者にもわかる、簡単なストーリー解説をしてみよう」
(3)勇者ありすはいかにして世界を救ったか
ナタリー「ゲーム版でもそうだったが、アニメ版もストーリー展開に特に目を見張るものはない! それを象徴するのが、第12話以降の玲音の親友ありすの言動じゃ」
真知「おい! 未見者に配慮するとか言っておきながら、説明が投げやりすぎるだろ!」
ナタリー「まあまあ、アニメ版『lain』の場合、結末がどういうものであるかを知っておいたほうが気休めにはなるし」
シルビア「ゲーム版は…ひどい終わり方だったからね…」
ナタリー「アニメ版はバッドエンドではないぞ。
玲音の親友ありすは正しい選択をしたからのう」
真知「選択もくそも、最後のほうのありすは叫んでいただけじゃないか!」
ナタリー「それがいいのじゃ。
知ったかぶりをせずに、自分を見失わずに『わけがわからない!』と正直に口にする勇気。
それが、世界を救ったといえる」
シルビア「そうだね…玲音の望んでた世界は…明らかに間違ってるから…」
真知「そもそも、この場面に至るシナリオ展開に説得力が無さすぎだろ!」
ナタリー「そうそう、だんだん視聴者置いてけぼりで話が進んでどうなるかと思ったら、ありすはちゃんと泣きわめいてくれた。
これで視聴者も一安心」
シルビア「ゲーム版の後味の悪さに比べれば、まだ救いはあるね」
真知「こんな結末と知ったら、誰もまともに見ないだろ、このアニメ」
ナタリー「いや、材料となるネタは面白いから、その雰囲気を味わうだけで価値があるといえるだろう。
答えを求めちゃいかんぞ、このアニメに」
(4)気持ちの悪い男たち
ナタリー「さて、このアニメには気持ち悪い男たちが多く出てきたな」
真知「ああ、7話に出てきたアイツとかな」
ナタリー「VRゴーグルを常備した男にとっての女神が玲音だった。
このモチーフが、オルガルのメインヒロインの美弥花の髪型につながったと私は予想するぞ」
シルビア「ゲームと違って、玲音の髪型の説明はなかったからね」
真知「あの気持ち悪いロリコンが握っていたのが印象的だったな」
ナタリー「ふむ、かのインディアン・ロリコンか」
シルビア「ミヤカの髪型の握り方…ワタシ…わかった」
真知「マネしちゃダメだろ!」
ナタリー「今度、真知がやってやれ」
真知「絶対しないぞ! まあ若菜はやるかもしれないけど…」
シルビア「エクリスはこういうポーズ…好きそうだね」
ナタリー「ほかにも、いろんなロリコンが出てきたな」
真知「ああ、ストーカー・ロリコンとかな」
シルビア「カールって言ったっけ、あの男」
ナタリー「違うぞシルビア。
『カーーーーーール』じゃ」
真知「ほかにも、こんな定番オタクも出てきたな」
シルビア「宅配便の長髪のオトコも…顔に似合わず…サイアクだった…」
真知「あの変な笑い方をする親父もだ! 総じて男性陣は気持ち悪い連中ばっかりだったぞ!」
ナタリー「玲音はこんな男たちの女神だった。
オルガルの美弥花もこういう設定で生まれたのかもしれない」
真知「でも、美弥花はほっけダンスを踊ることで、女神視されることを拒絶した、と」
ナタリー「まあ、邪馬台国で卑弥呼亡き後に13歳少女に後を継がせたと中国の史書にあるように、この年代の少女の美しさを崇める文化はこの国に古くからあったわけだが」
真知「それでロリコンを正当化できると思うなよ、某漫画家!」
(5)宇宙は何次元?
ナタリー「さて、ここからlainの主題である情報社会の発展について語るぞ。
ゲーム版では玲音はクローン人間だと感じさせる描写が多かったが、アニメ版ではそうではないと名言されたな」
シルビア「データのノイズの蓄積により非実在少女が認知される? そんな可能性はあるの?」
真知「さすがに信じられない設定だったな」
ナタリー「そもそも、我々の常識は三次元内でのことにすぎん。
二人は宇宙は何次元だと思ってる?」
真知「そりゃ三次元だろ」
シルビア「違うよマチ、四次元だよ。
ドラえもんでそう言ってた」
真知「いや、アニメの話じゃなくて、科学的な話だろ?」
ナタリー「その科学では宇宙は10次元以上とされているのが一般的じゃ」
真知「は? 10次元以上? なにを言ってるんだ」
ナタリー「その理論を『ひも理論』という。
この理論を使えば、宇宙のさまざまな謎を解明できるらしいのだが…」
シルビア「うう、ワタシには…さっぱりわからない」
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ナタリー「いっぽうで、ホログラフィック原理というのもある。
こちらは宇宙を二次元と考える」
真知「なんで二次元なんだよ!」
ナタリー「くわしい説明をすると専門家につっこまれそうなので、とりあえずWikipediaの記事を見てくれ」
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ナタリー「…このように、世界は三次元だと考えている私たちのほうが、真実から外れてるかもしれぬのだ」
真知「つまり、私たちが知覚している次元には限界がある、と」
ナタリー「理論的にはな。
だからこそ、宗教というのもおろそかにしてはならんということだ」
シルビア「玲音のような存在も…ありえるということ?」
ナタリー「それを説明するためには、プロトコルについて説明せねばなるまい」
(6)ハイパーテキスト通信プロトコル(HTTP)
真知「この言葉では意味のわからないカタカナが頻出しているが、そのなかでもっとも気になったのが『プロトコル』だったな」
ナタリー「この単語にはいろんな使われ方があるが、この『lain』で使われているのは通信プロトコルという意味になる」
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ナタリー「この通信プロトコルでもっともよく使われているのが、ハイパーテキスト通信プロトコル、略してHTTPじゃ」
シルビア「それって、URLの冒頭の…」
ナタリー「そうそう、
www.google.co.jp のhttpじゃな。
まあ情報科学専攻生にいわせると厳密には違うとなるが、深く気にせんでもいい」
シルビア「そして、次のwwwっていうのが、たしか、World Web Wideの略だよね?」
真知「じゃあ、このアニメ版『lain』で言われている新世代のプロトコルとはどういうことなんだ?」
ナタリー「このアニメが公開された1998年は、インターネットが爆発的に普及した時代でもあった。
そのなかで、なし崩し的に採用されたhttpでのWorld Web Wideに異を唱える意見も少なくなかったのだ」
真知「第9話でザナドゥ計画というのが出ていたな」
ナタリー「これについてはWikipeidaで説明されている。
この1998年には今の我々が当然のように使っているWorld Web Wideに未来はないと考えた者もいたわけだ」
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真知「ほう、雑誌WIREDというものがあるのか。
興味深い」
シルビア「それにしても、玲音がこのwi-fi飛び交う今に生きてたら、たちまち消滅しそうなんだけど…」
ナタリー「そうだな、このアニメ以降、携帯電話が普及したときに、電車での優先席では電源を切らなければならないという風習が生まれたものだ。
『lain』制作陣も、まさかここまで電波が飛び交う時代になったとは予想できなかったじゃろう」
真知「なるほど、インターネット普及期に作られたアニメだからこそ、今のインターネットのあり方を考えるきっかけになるということか」
ナタリー「このアニメ版『lain』の未来像はこの現在とは一致しない。
そのことから、このアニメが先見性がないと批判することは簡単なこと。
しかし、本来SFとはそれぞれの作者が想像力を駆使して、その当時の恐るべき未来を具現化させるためのものじゃ。
それゆえに、1998年アニメとはいえ『lain』には新鮮味がある!」
真知「シナリオ展開は意味不明だけどな」
ナタリー「それがつくづく残念なことじゃ。
まあ、実験的作品にそのようなものを求めるのは酷かもしれぬがのう」
(7)ビットコインと神の遍在
ナタリー「最後に、この『lain』の仮説である、新しい通信プロトコルにデータを忍び込ませることにより新たな存在を生み出すという試みだが、今その考察をするうえで欠かせないのが『ビットコイン』という仮想通貨の流通だ」
真知「いきなり胡散くさくなったな。
ネット上の広告でも『絶対儲かる!』と宣伝文句が踊っているものだが」
ナタリー「このビットコインの面白いところは銀行という管理者を必要としない仕組みにある。
この仕組みを作ったのが、サトシ・ナカモトと自称する者だ」
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真知「日本人が作ったのか?」
ナタリー「いや、少なくとも日本人ではないらしい。
これまたクールジャパンの余波といっていい。
日本人名を名乗るのがカッコ良かっただけじゃ」
真知「ところで、このビットコインって…どういう仕組みなんだ」
ナタリー「簡単にいえば、取引の台帳をP2P形式にして、誰もが閲覧可能にしたことじゃな」
シルビア「P2Pって共有ファイルで使われている、あの危ないもの?」
ナタリー「今でもフツーに使われてるけどな。
とにかく、このP2Pで取引台帳が常に更新されているがゆえに、信用価値を生ませようとしたのが、このビットコインだ」
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ナタリー「『lain』でいうところのゼウス的な神である管理者不在ゆえに発展したのがビットコインという仮想通貨なのじゃ」
真知「…でも、前にビットコインが大量に失われた事件があったじゃないか? あの胡散臭いフランス人がやっていた…」
ナタリー「それでもビットコインの価値は高まり続けている。
どうも、北朝鮮など国家ぐるみの犯罪に使われているとみなされているから、投機対象として考えるのはどうかと思うがな。
肥大化する取引への危機は脱出したとは言いがたいし…」
真知「とりあえず、あのロリコンインディアンみたいな試みは現代では通用しないということか」
ナタリー「なんやかんやとHTMLもバージョン5にまでなったし」
シルビア「そのおかげでflv動画が使えなくなって、ニコニコ動画が一気に転落したとか…」
ナタリー「そういう現在の情報科学を考えるきっかけとして、この『lain』はある。
特に、当時、HTMLに代わる新しい形式を模索していた世界のオタク(geek)にとって、この『lain』は大きな刺激になったということじゃ」
真知「なるほどよくわかった。
つまり、美弥花の髪型とはあまり関係ないということだな」
ナタリー「そうだな。
オルガルSSで語る必然性は特になかったと思うぞ」
シルビア「ヤー」
【終わり】