プレザからの質問に、ウィンガルは呆れたように息を吐き出した。
「そんなに呆れなくてもいいじゃない。それで、答えは?」
長い髪を軽く払って、プレザは片方の肩を竦めた。
ウィンガルは瞳を伏せ、右から左に流す。
「馬鹿げた質問だ」
「そうかしら?よくある、究極の選択よ。あの方をとるの?あの子をとるの?」
背を向けようとしたウィンガルを、プレザは言葉で止めた。
プレザがしたのは、よくある究極の選択。
もしもの話。主たるガイアスと想い人であるカロルが、ともに崖から落ちそうになっている。
助けられれのは一人だけ。
助けられなかった方は死んでしまう。
では、ウィンガルはどちらを助けるのか。
と言うのが、プレザからウィンガルにされた質問。
プレザは興味があった。
ガイアスに絶対の忠誠を誓うウィンガルが、忠誠と恋心のどちらを選ぶのか、興味があった。
ウィンガルは微かな時間瞳を伏せた。
「助けるのは?」
「勿論、あの方に決まっている」
きっぱりと断言したウィンガルに、あら。とプレザは声を上げた。
ウィンガルは断言する。
どちらかしか助けられないのなら、助けるのは主たるガイアス。
迷いなどない。
「見捨てるのね。冷たい人」
「お前が聞いてきたことだ。冷たくて結構…………見捨てる、か」
ウィンガルから続いて出た言葉に、プレザは瞳を見張った。
「本気なの?」
「嘘を言ってどうする。話が終わったのならもう行くぞ」
当然だ。と表情を変える事なく、ウィンガルは返した。
そして、プレザの言葉を聞くことなく、さっさと歩いていってしまった。
カツカツと響かせて、進められる足音に、パタパタとした軽い足音が近づく。
「ウィンガル!」
「…………部屋から出るなと言っておいたはずだが」
「……ウィンガルが遅いから迎えに来たんだよ」
冷たくあしらわれて、カロルはしょんぼりと肩を落と仕掛けたが、理由を見つけたと胸を張った。
確かにウィンガルに、戻るまで部屋から出るな。と申しつけられていた。
申しつけられていたが、やはり誰もいない部屋に一人ではつまらない。
戻りの遅いウィンガルが、気になったのも本当だ。
「城の中で迷う者が迎えか」
「べ、別に良いじゃん!迎えが要らないなら、ボク一人で戻る」
額を押さえて、溜息混じりの言葉に、カロルは頬を膨らませて、拗ねた。
ガイアス王城は城としては、決して広くはないが、よくカロルは迷子になっている。
その度にウィンガルが、捜索にきている。
喜んでくれるどころか、溜め息を吐かれてしまい、カロルはプリプリと歩いていってしまった。
そんな背に、すまなかった。と息を吐き出して、小さな背を追う。
カロルの後ろを歩きながら、ウィンガルはプレザの疑問を思い出した。
ガイアスとカロルのどちらか一人しか助けられないなら、ウィンガルは迷わずガイアスを助ける。
迷うことはない。
ガイアスはこの国には、必要な存在。どんな事をしても失うわけにはいかない。
ウィンガルはどんな状況だろうと、カロルを助ける事はしない。
プレザの言うように、想い人を見捨てる自分は、冷たい人間であるのだろう。
「私はお前を生かすことをできない」
「?何か言った?」
「いや、何も。そんな事より戻るぞ」
ウィンガルの囁きを拾い、カロルは振り返った。
とは言え、囁きだけを拾い上げただけであり、言葉を拾ったわけではない。
振り返り、不思議そうな顔で首を傾げているカロルに、ウィンガルは小さな沈黙の後、首を横に振り、止めた足を踏み出す。
えー、なんて言ったの?と不機嫌など吹き飛んだカロルは、ウィンガルの後ろをパタパタと駆けた。
ウィンガルを見送ったプレザは、軽い息を吐き出した。
興味本位でした究極の選択。
忠誠を取るのか、恋心をとるのか。
プレザの興味み、ウィンガルはあっさりと答えた。
カロルを見捨て、ガイアスを助けると。
冷たい人。と笑ったプレザに、ウィンガルは微動だにしなかった。
だが、見捨てるのね。と言ったとき、僅かに眉を動かした。
ウィンガルはガイアスを助ける。だが、カロルを見捨てはしない。
「見捨てなどしない。あの方を助け、カロルともに落ちる」
彼は、ウィンガルははっきりと言い切った。
助けるのはガイアスだ。
そして、助けられず落ちるカロルとともに、ウィンガルは落ちることを望む。
助けられないなら、ともに死ぬことを選ぶ。
以前のウィンガルなら絶対に口にしないことに、プレザは驚いた。
その発想は、正気ではない。
それでもウィンガルは揺るぎはしない。
ウィンガルの絶対的は変わらない。だが、唯一は変わってしまった。
「重いわね」
そんな、ウィンガルの背に、プレザの呟きは届きはしなかった。
END
キャラじゃない(苦笑)
ほぼ初遭遇で、書いたんでご容赦ください。
ウィンガルの絶対はガイアスです。
唯一はカロルです。
助けるのはガイアスですが、カロルを見捨てません。
ちょっと、歪んでるよね(笑)
っていうか、そんな状態に陥らせないようにすると思う。