スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

お品書き


こんばんは

雪です。


遊戯王小説も少しずつ書き出して来ました。

が、

フウガとシズルの話しがメインストーリーとして完結する間に
サブストーリーとして幾つか話しを挟んでいくことになると思います。

(サブ)ってやつですね

メインを書くにしたがって必要な話しなのですが
遊戯王小説なのにデュエルシーンがないという…(笑)



というかそもそも
デュエルしない遊戯王
というものを描きたかったので
自分的には納得行ってるのですが…
まぁあまり期待しないで下さいませ。


ちなみに次はそろそろカードハンター編に突入させたいなぁと思ったり思わなかったり(つд`)



とりあえずそんなこんなでこれからもよろしくお願いいたします。

遊戯王小説5話 曇天3(サブ)


まだ蒸し暑い時間帯
学校から自転車で10分程こいだ所だろうか

「はぁはぁ。」

「オイ!!こっちのがはえぇぞ!」


息を切らしながら走っていたギンジとフウガは病院まであと少しのところまで来ていた。

「なんでお前がついてくるんだよ!」

フウガは道を指図された所でギンジの存在にやっと気付いた。

「いまさらかよ!てか、いいじゃねーかよ!俺だってクラスメートなんだし!」

ギンジも汗だくで自転車をこいでいる

「クラスメートって言っても俺達そんなに仲良くしてねーだろ!
後が面倒だから付いてくるなよ!」

赤信号で止まったところでフウガはしっかりとした口調で叫ぶ


「面倒って…!別にお前に迷惑かけた覚えはねーけど!?
俺はな!お前らと話がしてみてーだけなんだよ!」


ギンジも負けじと叫ぶ
その時、赤信号から青信号へと変わりギンジは先に自転車を進ませる
フウガも一瞬遅れて自転車をこぎ始める。


「お前、結局何が言いたいんだよ!」

フウガは朝からギンジに振り回されっぱなしで少しずつ苛々を募らせていた。


「さっき言った通りだっての。
お前らと話がしたいって!それだけだ。」


さらにギンジはペースを上げ
自転車のギアを2から3へと持ち上げる。


「なんで俺達なんだよ!?」


フウガがそう言うとギンジはいきなりブレーキをかける
キキィと高音をかき鳴らすタイヤから少しだけしっかりとした振動が伝わってくる。


「お前らが遊戯王やってるからだ!!」

「は?!」

自転車を止めてまで言ったギンジの台詞にフウガは思わず言葉を失う。

「俺も遊戯王をやってみたかったんだよ…。」

ギンジはいかつい見かけからは考えられない台詞を恥ずかしそうに話していく


「昔周りでやってたって言ったろ?でも俺ん家貧乏だし、こずかいも無かったから金のかかる遊びとか出来なかったんだ。今になって始めるのもどうかと思ったけど…偶然入ったカードショップで
お前らが楽しそうにしてるの見てたらなんかわかんねーけど、俺も何かウズウズして。
もう自分のやりたいこと我慢なんかしたくねぇんだよ!!」


ギンジの本音にフウガはほんの少し共感した
やりたいことをやれないことは沢山あって
今さらだって諦めてたこともフウガには幾つもあって…
好きな物を好きだって言えなかったら何をしてもつまらないんだって気持ち
誰でも同じなんだなって
そんなギンジの言葉にフウガは少しだけ笑った

「それにしたってそれ今言うことかよ?ギンジ…お前馬鹿だろ?」

「フウガに言われる筋合いなんかねーよ!!馬鹿やろー」


二人の間に少しだけ風が吹く
じめじめとした天候だったけど
不思議と嫌な感じはしなかった。


―――

病院につき、二人がナースセンターでカケルの状態を確認するとき
フウガは一瞬戸惑った。

よく考えてみればフウガはカケルの名字を知らなかった。
話すようになった時からお互いに名前を呼びあっていたからだろうことにフウガは今更になって気づくとその様子に気付いたギンジが隣からナースに話しをする。

「すいません!先ほど連絡をもらったのですが朝事故で運ばれた浅沼"アサヌマ"翔の容態はわかりますか!?」

「浅沼さんですか?少々お待ち下さい。」


ギンジの言葉にフウガは一瞬でカケルの名字を知ることになった。
「カケルって浅沼っていうのか…」
フウガはぼそっと呟くように言う。

カードをすることに名前や年齢は関係ない。
実際カードショップでデュエルを申し込まれるときも名前や年齢を話す人はそうはいなかった。
しかし、フウガはこの時程恥ずかしかったことはなかった
ギンジがカケルのことをフルネームで呼んだことに驚いたが
これだけの間一緒にいてフウガはカケルのことを何も知らないことに気づいたからだ。

「お前ら仲良いくせに名前も知らなかったのかよ!」

ギンジはそう言って笑った。

「まぁある意味友達なんてそんなもんだぜ?
名前が言えても漢字までは書けねーしな!」


そんなギンジのフォローがフウガの胸にまた突き刺さる。

と、話しているとナースが話しに割って入ってきた。

「浅沼翔さんなら手術が終わって今は病室で寝ていらっしゃいます。少しなら面会も大丈夫ですよ。」

ナースの言葉にほっと一息つく。
フウガとカケルは二人して安堵の表情を浮かべた。

「ぬぁぁあ…良かったぁ。」

ギンジはそう言うと待合室のソファーに腰かける。

「俺は疲れたからちょっと休んでから行く
フウガ先に行っててくれよ…。」

ギンジは精根尽き果てた様子でぐったりしている。
フウガはギンジにお礼を言うとカケルの病室へと向かった。


カケルの病室は3階の大部屋だった。
四人入れる病室に今は住人が一人居るだけでカケルの個室状態になっている。

フウガは部屋の中に入ると4つあるベッドの中に一つカーテンの閉められた所に向かう


"浅沼翔"ベッド脇のプレートに漢字で書いてある文字を見てフウガは初めてカケルの名前の漢字を知った。


「起きてる?」

フウガはカーテン越しに話しかける

「フウガか?入れよ?」

どうやらカケルは目を覚ましていたようでフウガを中に呼ぶ。
その声のトーンはいつもの調子でフウガはようやく心から安心した。



「起きてて大丈夫なのか?」

カーテンから中に入るとカケルは右腕と左足に包帯を巻き付けその両方は互いに固定されていた。
薄い緑の服をきたカケルの姿はまさに怪我人だったが表情は明るくフウガにとっていつものカケルだった。

「大丈夫ではねぇけど…ま、ご覧の通りってやつ?」

そう言って笑ったカケルは左手で怪我をした右腕をさする。

「無理すんなよ。とにかく無事で良かった…。意識ないとか連絡来たからヤバイかもって思ったぞ」

フウガは言うとベッド脇にあった小さな椅子に腰かけた。


「大袈裟だな。
簡単に死んでたまるかっての!
まだ新しいデッキでデュエルしてねぇだろ?」


カケルはそんな風に言ってくれたがそれがフウガを安心させる為なのだとフウガにはよくわかった。


「カケルって浅沼って名字だったんだな…。」

フウガに言われるとカケルはベッド脇のプレートを見る

「ん?あぁ。」

カケルはそれがなんだと言いたそうな顔をするが
うつむくフウガを見てカケルは言いたいことを理解したように話しだす。


「名字知らなかったか?
別にそんなこと普通だぜ?俺だってフウガの名字なんか知らねーし。俺が知ってるのはフウガは遊戯王が好きで俺のダチってことくらいだ。」


カケルはそう言って心配そうにフウガの顔を見つめる。


「俺…何も知らなかった。
カケルのこと。何かわかんないうちに一緒にいて
ただ何となく楽しくって、それだけで一緒にいた…。
意識しなくても一緒にいるのが何となく当たり前に感じてた
でもカケルが事故ったって聞いて俺、不安になった。
もっと沢山デュエルしたいだけじゃなくて、色んな話しをしたいと思った。色んな遊びも一緒にしたいと思った…。
そしたら友達らしいこと何もしてなかったんだって気づいたんだ。」


フウガは恐れていた
シズルを誘った時もきっかけは自分だった
そのせいでフウガはシズルを傷つけて、結果として全てを失ったことを気にしていた。
だからカケルともデュエルをするだけの仲に無意識に留めていた。

「寝不足で事故ったのは事実かもな」


「……っ!」


「でもな、俺はそれを人のせいにはしないぞ?」


カケルは窓から外をぼーっと見つめて話しだした。


「俺だってもっとデュエルしたいし話したり、遊んだり…
それは俺だって一緒だし。
それにフウガが遊戯王に誘ってくれたから俺達はこうやって友達になれた訳だろ?
友達になる理由が何だって構わないとは思う
でも、フウガとは遊戯王が理由で友達になれた。
それだけで始めて良かったって思ってるよ。だからそんな風に言うなよ?」


言うとカケルはゆっくりとベッドに横になる。


「……。」


「あぁもう!辛気くせー顔すんなよ!!」

カケルが言うと後ろから人が入ってくる。

「よっ!何だ?カケル元気そうじゃねーか?」

空気を読まずにギンジが病室に入ってきた。
暗かった雰囲気が一気に明るくなる。

「元気で悪かったな!
なんでギンジがここにいんだよ?」


カケルは少し面倒そうに話す。


「お前らと話す為だよ?
つか今日それ何回言えばいいんだ!」

「ぷっ…」


ギンジの言葉にフウガは思わず吹き出す。
カケルは意味がわからないと言ったように首を傾げていたが
まぁいいかと体を寝かせる。

「ギンジも遊戯王始めたいんだってさ」


ギンジの存在の不信感に口を尖らせていたカケルにフウガが一言

「ぷっ…」


「笑うなよ!俺だって今更だとは思うけどよ…
お前らが楽しそうにやってるの見てたら我慢するのも馬鹿っぽく感じただけだっての!」


ははーんとカケルが首を縦に降る明らかに面白がっている顔つきだ。


「俺、お前らが好きな物を好きだって…周りなんか関係ないって感じで羨ましかった。
だから、俺も一緒に遊戯王始めたい。俺にも遊戯王教えて欲しい。」


急にギンジは真剣な顔つきになって言い放つ。


「ギンジ…。」


最初のきっかけなんか大したことなかった。
フウガもカケルも遊戯王を始めたきっかけは友達とただ楽しくデュエルがしたかっただけだったから。
ギンジはそれを二人に口に出した。
フウガもカケルもギンジの言葉に嘘はないだろうと思えた。


「じゃあさ
デュエルしよーぜ?」


カケルは少し笑ってからおもむろに言った。

「その為に来たんだろ?
俺のカバンにデッキが入ってるからそれ使えよ
どうせ俺腕使えねーし
ギンジ代わりにやってくれよ」


「おぉ!」

カケルの提案でギンジは嬉しそうに笑った。


「フウガも!デッキ持ってんだろ?相手してくれるよな?」


カケルはフウガに笑いかける。

「新しいデッキの威力!!思い知らせてやるぜ?」

「…っ!」

フウガは思わず泣きそうになった。だがその言葉に思いに応えるべきだと感じとった。


「弱いカードで組んだやつなっ」

フウガは笑って言った。

「うるせー!自分の好きなカードで組んだデッキなら満足なんだよ!」


カケルはそういうやいなや
食事用のテーブルを広げ簡易のデュエルスペースを作る。
それからフウガとギンジはお互いにデッキをシャッフルすると互いに挨拶を交わす。


「ギンジ…。お前名字は何て言うんだ?」

フウガは思わず尋ねた

「そんなのデュエルすんのに関係ねぇだろ?
終わったら教えるって!話しはそれからだ!」

遊戯王とはそういうものなのかもしれない。

「それもそうだな…。ははっ」


二人のやりとりを見てカケルはにっこりと微笑んだ。

楽しくやって気付いたら友達になってる

「準備はいいか?じゃあ行くぜ?」

俺達はそれでいいのかもしれない。


"行くぜ!!デュエル!!!!"




続く

遊戯王小説4話 曇天2(サブ)

「悪い今日学校行けない」

たったその一文がフウガの携帯にメールされてきたが、それは朝のホームルームの時間の少し前のことだった

俺はいつものように雑誌を読んでいたがカケルから送られてきたそのメールに何だか小さな胸騒ぎを感じた。


「おっとォ!」

メールの返信をしようと携帯を操作しているとイジメ集団がわざとらしくぶつかってくる。

「わりぃわりぃ!!空気みたいだから気付かなくてさー!」

「……」

いつものように何も言わずに無視していると
様子を見ていた集団のボスがザコをかき分けてこちらに歩いてくる。

「今日はカケルは来てねーのか?」

上から俺を見下ろすその視線にフウガもキッと睨み返す

「そう怖い顔すんなよ、ただ聞いただけだろ?」

「……あぁ」

俺は集団のボスとは全く接点がなかった
実際イジメ行為もボスはほとんど関わりがなく敵でも味方でもない何とも難しい存在だったから
俺は出来るだけ関わりたくないと思っていたし実際に離れて過ごしていた。


「つーかお前さぁ…最近カケルとよくつるんでるみたいだけどカードやってんだって?」


「……」

俺には何が言いたいのかこいつの本心が分からない

そんな一瞬の間にホームルームのチャイムが鳴り響く。


「おら席に着けー!始めるぞー!
ほら銀次お前もだ!さっさと席に着け!」

俺達の会話が終わりを迎える前に集団のボス"ギンジ"は先生に怒られ面倒臭そうに席に戻る

俺は初めて先生というものに感謝したが
同時にカケルのいない今日が一瞬にして面倒なものに感じられた。


"キーンコーンカーンコーン"


教室がざわざわとしだし活気に溢れ出す
時刻は12時
お昼の時間になった。


俺はいつものように教室を出ると使われていない小さな部室へと向かう
カケルと二人でいるようになってからここで弁当を食べお昼休みの時間の限りはいつもここでデュエルをしている
学校に置いてこの部室だけが唯一の安らげる空間だった。


弁当を広げて一口目を食べるとふとカケルにメールを返信していないことを思い出した

"体調でも悪いのか?"



幾つか言葉を選んだつもりだったが
結局こんな当たり障りのない文章に落ち着く

それからまた一人で静かな空間
弁当を食べる手も中々はかどらない

そんな時だった

"ガチャ"

部室のドアが開いた
カケルが学校にいない今
開くはずのないドアが開くことに俺は一瞬警戒する


「よっ!」

誰が来るのかと不安に思ったが
そこには小さなビニール袋を持ったギンジが立っていた。


「こんなとこにいたのか
探したわー」

相変わらず少し威圧感のある立ち振舞いに少し怯んだが
俺は再び弁当を食べ始める


「おいおい!!シカトかよ」

ギンジは机を挟んで俺の反対側にどかっと座る


「何の用だ?」


「一緒に弁当食おうと思ってな
購買のヒレカツサンド旨いぜ?」


そういってビニール袋から乱暴にヒレカツサンドを取りだしむしゃむしゃと食べ始める


「朝の続きだけどよ
お前らカードやってんだって?」

ヒレカツサンドを一つたいらげるとギンジが話しかけてきた


「あぁ」

「遊戯王だろ?俺はやったことないんだけどよ
昔は周り中みんなが楽しそうにやってた」


ギンジは俺の相づちを流しながら話しを続ける

「それが何なんだ?何が言いたいのかわからないんだけど」


「まぁ…あのよ…まぁ…なんだ」


"ピリリリリ"


ギンジが頭を掻きながら何か言いかけた時だった

間が悪く俺の携帯に着信が入る。

「悪い、電話だ」


「おぉ!どうぞどうぞ!」


ギンジはにっこりと応えると椅子の背もたれに体重をかけ部屋を見回して間を持たせる



「もしもし…は?
はい…はい…カケルが!?…え?どこの…あぁ…えぇ…わかりました。」


「どうした?」


「……。」


「カケルに何かあったのか?」


「カケルが…事故って病院に運ばれたって…
急に大量出血して
それから意識なくて…ヤバイかもしれないって…」



「は?え?…」

ギンジは俺の言葉が飲み込めないのか首を傾げる

「あいつ…昨日デッキ組むって言ってた
もしかしたら遅くまでかかって…それで…事故ったんじゃ」

思考がどんどんと悪いほうへと向かっていく


「なんかわかんねーけど、行ったほうがいいんじゃねーか!?
病院どこなんだよ!」


「意識不明とか…嘘だろ?
やっと出来た友達だったのに
あいつデッキ組むってはしゃいでた
これからだって思ってたのに…俺が遊戯王なんか誘ったから…
どうしよう…俺のせいで…。」


「聞いてんのか?オイ!!フウガ!!」

「え?…」

名前を呼ばれてハッとして我に返る

「カケルがやべーんだろ?だったら今することがあんじゃねーのかよ
病院どこなんだよ?早く行くぞ!」



それから俺達はまだ食べきらない弁当をそのままに

学校にも無断で
病院へ向かうことにした。





続く

遊戯王小説3話 曇天(サブ)

「明日になったら晴れるかなぁ?」

「さぁ?大丈夫じゃないのか」

カードショップの2階にあるデュエルスペースの端の窓際席
そこが俺とフウガの特等席だ

俺がカードをケースにしまっていると窓から外を眺めているフウガにふいに話しかけられた


"親友"
こいつとの関係を簡単に表すとしたらそんな感じだろうか。


急に転校してきたこいつは何か近寄り難くてクラスでも少し浮いていた
誰とでも話せる俺でも正直あんまり好きじゃないタイプで
"独りが平気な奴"
漠然とだけどそれが俺がこいつに抱いた初めての印象だった。


フウガは転校して1ヶ月経った後もずっと"転校生"って呼ばれてた。
もちろん名字で呼ぶやつもいたけど
それはごくごく少数の限られた奴だけだった


俺もそんな中の一人で転校生を転校生と呼んでいた
基本的に無口だしあんまり関わりあいのない人だと決め込んでたし。

でもクラスの少数、そのまたさらに限られた奴は転校生を"空気"と呼んでた
あまり話さないし影が薄いためだとおしゃべりな友達から聞いた

正直そいつらからのいじめも多少なりあったらしい



だからそんな中でこいつはいつも一人だった
無表情で、いつも何か雑誌読んでたり漫画読んだり

俺達と何も変わらないことしてるだけなのに
陰湿ないじめは気づいてか気づかずかわからないけどずっと聞き流してた。
無視して絶対に怒ったりしなかったんだ


そんな姿を見て正直こいつ強いやつだなって思った。



それからまた少し経ったある日
そんな転校生でも一度だけ怒ったことがある

いじめの悪化だろうか
俺が気づいたときには転校生の鞄の中身が辺りに散らばり
転校生はずっといじめグループのやつに何か言いたそうにしてた


グループの中の一人がその荷物から一つ何か拾いあげた。

正直俺はもう見てらんなかった
クラス中が注目してて
なのに誰も何も言わないままだったから。


「こいつ遊戯王とかやってるぜ」

いじめグループの一人が言う

「触るなよ、返せ!!!」

転校生が怒鳴った
がやがやとうるさかったクラス中が一瞬の内に静まりかえる。

「はぁ?今時カードとかありえねぇし」
グループの一人がまた返す
咳を切ったようになじるいじめグループ

「いい加減に黙れよ!!誰が何したって関係ねぇだろ!!返してやれよ!!」

そんな姿がいたたまれなくて俺は気付いたら大声をあげてた

クラスはまた静まりかえる
俺はデッキケースを取り上げると転校生に返してやった

二人で散らばった鞄の中身を集めだすと
いじめグループはクラスの注目もあってかそそくさと出ていった


「ありがとう、えと、確か…」

「同じクラスの翔-カケル-よろしく…ぇーと。」

危うく転校生といいかけてどもってしまった

「俺は風雅-フウガ-…迷惑かけてすまなかった」

丁寧に返してくるフウガ


俺達はこの時をきっかけに頻繁に学校で話すようになった。

いじめを気にしてなかったこと
正直"転校生"ってアダ名は嫌だと思ってたこと
みんなとも仲良くしたかったとも言ってた。
でも話した相手がいじめグループに目をつけられたら迷惑だからと静かにしてたらしい


それから俺達は急激に仲良くなっていったがそのきっかけも遊戯王だった。

俺も小学校の頃はアニメを見たりしてて
デュエルもよくやっていたがいつからかやらなくなり
ここ数年まったくやっていなかった。

それがフウガと一緒にいるようになって
"新しい遊戯王"に興味が湧いたんだ。


フウガのよく通うカードショップ
気さくな店長
新たなカード達やデッキ
そこからまた深まる戦術

何より普段無口なフウガが楽しそうにデュエルしているのを見て
俺もまたカードを始めようと思った。


結構複雑になっていたけどフウガと店長のおかげか俺もそれなりのデュエルを出来るようになった。
どちらかと言うと強さよりは1種類のカードを使って戦うネタよりだったけど


そんな中俺は1枚のカードに出逢ってしまった
カードショップのショウケースの中
少しマイナーな1枚のカード。

俺は衝撃を受けた
どうしてもデッキを組みたくなった
フウガに話したら"弱いよ?"と、一蹴されたけど…
アニメを見ててカードが俺を呼んでるとかありえねぇしって思ったけど
まさにそんな感じだったんだ。


それから俺は速効でそのカードを買ってきた

そしたらフウガは窓から外を眺めていて一瞬振り向くとまた外を眺める

「明日になったら晴れるかなぁ?」
「さぁ?大丈夫じゃないのか?」


最近雨が続いていてじめじめしてるし蒸し暑かった
俺はあまり気にならなかったけど。


「さ、帰ってこいつで新しいデッキでも組むかなー」

「それは楽しみだ
いいデッキを期待してマスヨ」

「うるせー!余裕かましやがって!好きなカードで組んだデッキなら満足なんだよ!」


そう言って俺達は笑い合った。



次の日になっても雨は止まなかった

しかしデッキは出来上がった
あまり納得いかなかったけど
それでも帰ってから寝るまでずっと組み直して
何度もデッキをシャッフルしては切り直しシャッフルしては組み直しを続けて
結局夜中までかかってしまった

正直眠くて仕方なかったが
朝になってこうして俺が学校に全力疾走しているのはせっかく組終わったデッキを家に忘れてきたからだ。



「っくしょー!!完全に遅刻じ……っ!!」



"キキーッ!!!ドンッ!!"



いきなり体が軽くなる。

見上げていた雨雲が下になるようだった

身体中から力が抜けていく感覚

俺はまとわりつく空気と
降り注ぐ冷たい雨に打たれ

ただただ体が冷たくなるのを感じていった。






続く

遊戯王小説2 雫の色

「うわぁー!!また負けたぁ…」
「ありがとうございました」


「次は俺とだ!!デュエル!」
「はぁ…どうぞ。」


春を過ぎ桜の花びらが散る頃
引っ越してから数年がたち

俺は中学生になった。
あれからも変わらず俺は遊戯王を続けている

そんなある日、俺は小さなカードショップに立ちよった

家の近所に新しく出来たそのショップは小さいながらもそれなりの賑わいを見せている。
俺はそこで色々な人とデュエルし沢山のデッキに出会いそして勝ち続けた。

そうしているうちに店長と名乗る男に話しかけられた


「君は強いね、遊戯王はデッキを信じてカードの声を聞いて初めて応えてくれるんだ」


「はい?…まぁそうですね」

言葉の意味はよくわからないままに
調子のいい俺はデュエルを受ける

店長のデッキは聖刻デッキ
様々なドラゴンと強力なエクシーズによって俺はあっさりとやられてしまった。
デュエルに勝利した店長は笑っていて俺はその姿に久しぶりに遊戯王を楽しむというものを感じた


そんな店長に俺は不思議と嫌な気分はしなかった

そうしてデュエルを繰り返すうちに俺はそんな気さくな店長に懐いていった

俺にとって遊戯王は何より好きなものだったし
それを共感出来る大人というのは少なかったから余計に気になったのかもしれない

店長とのデュエルは毎日のように続いた

そんな中で自然と店長に勝つことが目標になっていった


そこで俺は思いきって新しくデッキを組むことにした

誰にも負けないように
じっくりと時間をかけて構成やレシピを練り直した
その間も店長とのデュエルを続けたがやはり何度挑戦しても結果は同じだった

どこまでいっても最後にたった1枚のカードを破ることが出来なかった。


それから何日か経ったある日
そのカードショップで小さな大会が開かれることになり
店長に進められるままに俺は大会に出ることになった。


俺はあまり気乗りしなかった
店長に勝てないままの自分
まだ出来上がらない新しいデッキこんな中途半端なままでいいのだろうかと不安だった

何より店長と出逢ってからは遊戯王は勝ち負けだけじゃなく楽しめればそれでもいいと思えてきたから

"勝ち負けだけのデュエル"に捕らわれたくないと思うようになっていた


しかし、出るからには勝ちたい

何よりも今の自分の実力がどこまでなのか確かめたかった
そんな二つの感情の中で俺は力を磨いた。


それから俺は大会までの数日間
前にもましてデッキ作りに専念した。

勝つ為だけに作られていくデッキそんなデッキを作るのは久しぶりだったが徐々に出来上がっていくデッキをまわしていると何より自分がドキドキ出来たしワクワクした。

楽しくて早くデュエルしてみたいと思えた。


そうして大会の当日
朝になってようやくデッキが形になった

デッキが完成したのだ
眠い目をこすり時計を見る
気付くと大会開始時間ギリギリになっていた。

俺は焦った
走って走って何とか間に合いそうだった。

その時
ドンッ"
俺は歩いていた人にぶつかってしまった
落ちたカードは道に散らばり俺はカードをなくさないよう必死に集める

その人に謝りながらもカードを集めるとデッキを1枚1枚確認しショップへと走った。

何分かしてショップにたどり着くと

大会は始まってしまっていた
トーナメント形式だったのか貼り出された対戦表を見ると
一回戦が終わって二回戦中盤にさしかかっていた

間に合わなかった
俺は戦うことすら出来なかった。俺はデュエルを見るのも嫌でその場から立ち去ろうとした。

そんな時
店長に話しかけられた。
俺が事情を説明すると
店長は対戦表の隅の方を指差し微笑んだ

そこには俺の名前があった

「フウガ君は僕の推薦だからね
シード枠にしておいたよ」

そうして俺の肩をポンと叩くと店長は主催者テーブルの方向へと歩いていく。

俺はもう一度対戦表を見る
相手の名前を確認してテーブル番号を見ると小さく"7"と書いてあった

その番号を探すと遠くのテーブルで俺の対戦相手が待っているようで俺は急いでテーブルについた。

いざデュエルが始まると俺は新しいデッキに戸惑いながらも順調に勝ち進み決勝戦に上がることが出来た。


決勝戦が始まると慣れない相手の除外デッキに苦戦しながらも何とか勝利した

初めての大会
初めての優勝
なんだか嬉しくなって俺は思わずガッツポーズを取った

観客の視線に囲まれて表彰を受けると店長から"大会優勝者限定カード"を渡された

「フウガ君なら優勝出来ると思ったよ」
店長に言われて俺は思わず笑みがこぼれる
そして"おめでとう"と言われ、俺は店長と強く握手した。


そんな時だった


店長はエキシビションマッチをしないか?と言って俺にデュエルを申し込んできた。

新しく出来たデッキ…
最強の証明
そして店長に勝つ
その為に作ってきたことを思い出す。

そのまま俺はエキシビションマッチを受けることにした。


デッキを取り出すと俺は店長に話しかけた

「店長…店長は遊戯王が好きですか?」

店長は笑っていた
そして俺の目を見て"当たり前だ"と静かに頷いた
俺もこの人に出逢って変われた
こんなにも毎日が楽しくなれた
そんな店長が好きだった。

デュエルが始まり店長の先攻
今日完成したばかりで今日初めて使うこのデッキ

なのに初めてな気がしなかった
お互いのデッキをカットしカードをドローする

構成と構築を何度も練り直した
出来上がるまでに店長と繰り返したデュエルの経験…全てが今のこのデッキには詰まっている。


店長は初ターンから飛ばしていた
ネフテ、シユウ、エレキテルからのアトゥムスそしてレダメ…流れるようなそのコンボにいつも押されていた

俺はデッキからカードをドローする


"精神操作"

アトゥムスのコントロールを得てそのままエクシーズする


"迅雷の騎士ガイアドラグーン!!"

俺はそのまま守備力0のレダメを攻撃しダメージを与えるとカードを1枚伏せてターンエンドした

「いいカードだね」


「俺だってもうやられてばかりじゃないよ」

店長は表情を変えないまま小さく息を吐く

そしてゆっくりとカードをドローした


"召集の聖刻印"


店長はデッキからトフェニをサーチする

さらに場のシユウの効果でトフェニをリリース
セットカードを割りつつデッキからエメラルドドラゴンを特殊召喚した

そしてエクシーズ召喚!

"フォトンストリークバウンサー!!"

バウンサーの攻撃にガイアドラグーンはやられてしまった。

「店長…相変わらず引きがいいね」

店長はにっこり笑って応えた

その後も場は均衡していき
決着は一向につかずにいたずらにターンだけが過ぎていく。
お互いに一瞬のスキを狙っているのがよく分かった
そうして俺が長考していると
店長が話しかけてきた


「フウガ君、このデュエル…賭けをしないか?」

俺は手札から店長へと目線を変える
それから店長は話しを続ける


「君は強くなった。僕とここまで渡り合えるほどに
だからもしこのデュエルに君が勝ったらこのショップの欲しいカードを何でも1枚上げよう」


その言葉に観客は一層盛り上がりを見せる

「だが、もし僕が勝ったなら今日君が手に入れた限定カード、そいつは没収させてもらうよ」


俺は自信がなかった
店長に勝てたことなど一度もなかった
場は均衡している
いや、ライフが減っている分だけやや押されていた。
考えていると
ふいにデッキに目が止まった
時間をかけたデッキ
初めて大会優勝も出来た
何となくだけど"大丈夫"そんな風に言われた気がした。

そして俺は店長のその言葉に何も言わず小さく"うん"と頷いた。

俺の返事に店長はにっこりと微笑みを返す。

観客は一層沸き上がっていく


「さ、君のターンだ」


言われて
俺はゆっくりとデッキに手をかける

"デッキを信じてカードの声を聞いて初めてデッキは応えてくれるんだ"
ふいに店長の言葉が頭をよぎった

デッキを信じて優勝した
大丈夫だって声を聞いた…
だからきっと応えてくれる。
そう考えると安心出来た。

目を閉じゆっくり深呼吸すると俺はカードをドローする

店長の場はがら空きだった。
ライフはまだかなり残っていたけど俺は今しかないと思った。

俺はヴェルズカストルを召喚し効果でヴェルズヘリオロープを召喚した


俺は召喚した2体をエクシーズする。

「こいつが俺を使えと叫んでる!」

"ヴェルズ・オピオン!!"

俺の新たな力
ヴェルズの孤高の竜

「いっけぇぇぇええ!!!!ダイレクトアタック!!!!!」


暫くして勝負はついた
店長は何もしなかった
いや出来なかった。
聖刻デッキにオピオンは天敵だった。
俺はそれを知っていた
何度もデュエルしたからこそ
分かっていたんだ。


負けたはずの店長は笑っていた
同じように俺も笑った
勝ち負けじゃなくてお互いにやりたいことをやって
デュエリストとして大切なことがわかっている同士だからこその清々しさがある気がした

「店長、約束通りカードはもらっていくよ」

俺はショーケースの中にあるカードを見回す
店長は座ったまま1枚のカードを見つめている

「これを使ってくれないか?」

店長は見つめていたカードを差し出す

そのカードは最後まで俺が召喚することさえさせなかったカード

"冥府の使者ゴーズ"

このカードは店長にとって
きっととても大切なカード
切り札であり
相棒であり
勝利を共にしてきたカード。
俺にはそれがわかっていた

「いや…でも!」

店長は目を閉じゆっくり息を吐くとまたにっこりと微笑む
そしてつぶやいた


「いいんだ
フウガ君にならこのカードを託せる」

俺は店長に一瞬躊躇ったが結局カードを受けとることにした。
受けとったカードを見つめると
ふと、シズルとの出逢いを思い出した。


「このカードあげるよ」
「え…でも…!」
「いいんだ、でも大切にしろよ!」

ほんの少しだけど…
俺はシズルが強くなっていった理由を
少しだけ理解した気がした。






続く
前の記事へ 次の記事へ