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僕らにまつわるエトセトラ」九號レビュー






■あらすじ■

郁と恵太は幼なじみ。
ものごころつく前から一緒だった二人は同じ時に野球をはじめ、ふたりで一緒にうまくなった。
地元では野球でちょっと有名だった二人だが、中学卒業間近の冬 郁は恵太をかばって大事故に遭い、野球はもうできないと言われてしまった。
同じ高校に進学したものの、事故以来 いつも恵太は自責の念から郁と距離を置くように。
あんなに好きだった野球部にも入らず、どこかくすぶっている恵太を郁は歯がゆく思うのだが……



■レビュー■

実はこの本で九號さん初体験でした。
惹かれた理由はわかりやすく美麗な絵柄です。
中の絵もきれいで、特に表情がいいものが多い!表題作の受けの表情が特にかわいくて好きです。男の子が照れてるの可愛い。
表紙買いでも大丈夫だと思いますー*
また お話の方ですが、こちらも良かったです。
自分が郁から野球を奪った、という気持ちから郁を避ける恵太とそんなこと何も恨みになんて思っていない、「ただ恵太が笑ってて一緒にいられればそれでいい」と思う郁の気持ちがうまく描かれていて、ラスト近くでやっと二人の間のしこりが解けるところでは思わず「よかったぁぁ」と叫んでしまいました(オイ)
モノローグの切り方がうまくて、キャラの気持ちと読み手の気持ちがシンクロしていくような 秀逸なシーンでした。
余談ですが、個人的に郁みたいなチャラチャラしてるように見えて器のデカイ男の子はすごく好きです。
生活力がなさそうなのが難点ですが(笑)

ほかの収録作品は学校の王子と呼ばれている絵に描いたような優等生と教師の情事を偶然目撃しまった無気力チャラ男の恋愛未満話「桜の巡礼」、オッサン小説家とひょんなことから彼のもとに転がり込んできた、小説家が大学時代片思いをしていた恩師の息子のお話「うつくしい日々」で、どちらもしっかりしたお話でよかったです。

特に「桜の巡礼」は続きが見たいなーと強く思わされるお話で、ダメ人間の主人公がいかな更正ぶりをするんだろうかと妄想が膨らみました笑

難をいえばどのお話もそうですが、恋愛を主眼においてるようでちょっとズレたところを描いている気がするので もっと恋愛に寄ったお話を読んでみたいなぁー。
「うつくしい日々」のほうは一応社会人主人公でしたが、オッサンが小説家というよりはただの財産もちのニートにしか見えなかったので苦笑 仕事してる感ももうちょっとあるとなお良かったかも。
とはいえ、短編集なのに なかなか読み応えがあって絵も綺麗でよかったです。
3作中2作が高校生ものなので、高校生ものが好きな方 いかがでしょう。

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「満月物語」中村春菊 レビュー







■あらすじ■
ここではない時、昔々。
絶世の美人と噂のかぐや姫という美人がいた。
姿をみせぬ姫の屋敷には、数多の求婚を断り続ける彼女を一目見るだけでも、と望む男達が訪れる日々。
そんなある日、友人の成人にせがまれてかぐや姫の屋敷に向かうことになった隆明は そこで女と見まごうばかりに妖しく美しく、けれど下品で下劣な青年の水浴びを目撃する。
ところが ひょんなことからその青年がかぐや姫であることがわかり……?

■レビュー■
BL業界ではあまりにも有名な、有名すぎる春菊さんの結構初期作品。
ASUKAコミックスの方は以前ビブロスさん(私は実際この会社が存在していた頃を知らないが)から出ていたコミックスの出しなおしらしく、表紙と巻末の書き下ろしだけ今の絵柄ですが中身は昔の春菊さんの絵柄になってます。
その絵柄ですが……汚くないです。むしろ少女漫画っぽくて読みやすいかも。
昔の絵柄のなかにも今の春菊さんの絵柄に通じる部分、特にギャグ絵なんかは変わってなくて 思わずニヤっとしてしまいました笑(私は漫画オタクなので一人の作家さんの変遷とかを見るのが好きです)
お話の方ですが、一応BLレーベルから出てますが直接的なBL表現はないです。
あれですね、ウイングスコミックスとかそんなノリ。
限りなくクロに近い灰色です。
いつかこの二人はくっつくんだろうな!という雰囲気はありつつも、ストーリーは擬似家族コメディといった感じのノリで進みます。
いろいろ好きな部分はありますが 特に、主人公・隆明のキャラクターが私はお気に入りです。
主人公の隆明はもともと真面目なお役人で宮廷のために誠心誠意尽くしていたのですが、上司が自らの不始末を隠蔽するために隆明を役人から除籍。
除籍されたことより信頼していた上司に裏切られたことにショックを受け、ちょっとした世捨て人のように山奥に構えた屋敷で無為な日々を過ごしていた。
そんな傷ついて内にこもってた隆明が、破天荒な「かぐや姫」に出会い、彼の生き方に触れる中で自分の殻を破り、再び人とつながっていく、居場所を見つける というのが本作品に流れるメインストリームで、コメディ物語の裏側に透ける物語の本筋なんじゃないかと。
そんなわけで、BLと思って買うと肩透かし食らうので、「家族コメディを読む!」と思って読むととても楽しめます。
かぐや姫と隆明を中心にした擬似家族の面々もなんともキャラが立っていて、楽しいです。
何かに疲れたときなんかに読むとすごく元気になれるお話なんじゃないでしょうか。
未読の方是非ぜひ〜
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「潔く柔く」いくえみ綾 レビュー




お久しぶりです、いつの間にか9月でした……。
遅々として家の整理が進まなくてガックリしています笑
でも明日あたりにテイルズ(ゲームです)の最新作が家に届くので今のうちに頑張ります。





■あらすじ■

カンナには幼なじみがいた。
名前はハルタ。
小さいころはすごく仲が良かったけれど、中学で少し疎遠になって、高校でちょっとだけ仲が元に戻った幼なじみが。
けれど、ハルタは死んでしまった。
カンナにメールを打ちながら自転車を漕いでいたら トラックに撥ねられてしまった。15歳だった。
薄々気づいていたし、もしかしたら自分もそうだったのかもしれないけれど……ハルタはカンナのことが好きだった。
ハルタが死んで以来、カンナはうまく前を向いていられなくなった。
心の底にいつもハルタがいる。
このままじゃだめだ、ということはわかっているけど……どうすれば前に進めるのかすらわからない。

そんな中、カンナは自分と似た傷を持つ人・ロクと出会う。

「ハルタの死」と「カンナ」と「ロク」そして彼らを取り巻く人たちの心を切り取るオムニバスストーリー。



■レビュー■


本作品の最大の特徴は数話程度で主人公がどんどん変わっていくことだと思います。

例えば1巻のACT1ではロクの友人の梶間に恋する女子高生が主人公、ACT2ではカンナ、2巻冒頭のACT3ではのちに梶間の婚約者となる梶間の先輩・瑞希が主人公。

全13巻のコミックスの中で、カンナとロクを中心にした人間模様がパズルのピースをはめていくように少しずつ埋まってゆくのが特徴です。

●●から見た「カンナは、ロクは、ハルタは」どんな人だった、ということを13巻かけて描いている感じでしょうか(ときどきメイン人物のカンナ、ロク視点も混じりますが)

いくえみさんはほんとに読みきりがうまい方で、短い物語の中にいろんな感情を詰め込むのがうまい方なのですが、いくえみさんの良さを生かしつつ長編に持っていったところがこの作品のうまいところだと思います。

作中で私が特に好きなエピソードにカンナの友人の千家という女の子を主役に据えたエピソードがあるのですが、このエピソードで千家は中西という男の子に片思いしているのですが、中西はカンナのことが好きなのです。
それに気づいた千家はカンナのことをどうしようもなく「ジャマ」だと思う。
でも、表面上はカンナの気のいい友達を演じ続けるのです。
それまでのお話でカンナが「マドンナだけど気のいい奴で、けれど最後の部分で他人に踏み込んでこない人物」として描かれているので 千家のカンナを「ジャマ」」だと思いつつも、「友達としてカンナのこと 本当は嫌いじゃない、むしろ結構好き」という複雑な心境が読み取れて非常に面白い。
人が人に抱く気持ちは決して「好き」か「嫌い」で割り切れるものじゃなくて、「好きだけど、ジャマ」「好きだけど、憎らしい」、「嫌いだけど、うらやましい」みたいに 好きか嫌いかの後に何か言葉が続くような ちょっとややこしいものなんじゃないかな と思えます。

ちなみにラブストーリーとして王道ですごく好きなのはACT5から始まるハルタに片思いしていた一恵のエピソード。
ここに出てくるキヨという男の子が私、すごく好きなのです。
いくえみさんの描く男の子はちょっと馬鹿だったりもするけど、芯が通ってて でも優しくて、女子的にキュンキュンします。加えてリアル。
いい、格好いい!ってときめくのと同時に「こんな男の子いるんじゃないかな」って思える感触があるのです。
だから、恋に恋したい女子よりもどっちかというと大人な女子がときめける男子かもしれませんね。

他にも梶間や古屋も個人的にすごく好きです笑 どうカッコイイかは是非その目でお確かめください。

メインとなるカンナとロクの物語はあまりにネタバレなので多くは語りませんが、作品のラストを飾ったカンナのモノローグを読んだ瞬間 全てが「許された」気持ちになれます。

このカタルシスを味わうために13巻があったんだ!と思えます。

タイトル通り、「潔く」「柔い」物語です。

いくえみさんの代表作となる一作だと思うので、いくえみ漫画は未読の方もぜひぜひ。


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