あの子と重ねてしまう…。
いけないこと…。失礼だとわかっている。なのに重ねて見てしまう。
「どうしました、巴さん?」
視線に気付いたのか夏美は聞いてくる。
「え?あ…ごめんなさい、なんでもないの。」
巴は笑って誤魔化す。
(なんだろう…この気持ち…。)
夏美を見ていると渚を思い出す。
自分が救いたいと感じていたのに守れなかったあの子…。
年が近いせい?感じが似てるから?呼び方が一緒だから?
「夏美さんにはお姉ちゃんって普段から呼んで欲しいなと思っただけよ。」
なんとなく言ってみる。
巴が夏美といる時の気持ち…。
勿論夏美が大好きだ。本当の妹のように可愛がっている。一緒にいて楽しいし、落ち着く。
だけど、切なくなる。泣きそうになる。
「ぁ…お、お姉ちゃん…。」
恥ずかしそうにだがしっかりと夏美は呼んでくれた。
「くす、なんで恥ずかしがってるの?」
「ぁう…。」
真っ赤になって黙る夏美。
「…あの子も…こんな風に…」
笑って"お姉ちゃん"と呼んでくれるだろうか…?
「あの子…?」
巴の呟きは夏美に聞こえていたらしい。
「ああ、ごめんなさい。」
笑って誤魔化そうとしたが夏美は逃がさない。
「誰ですか?」
「…夏美さんと近い年の女の子よ。……もう死んじゃってるけれど。」
「……」
夏美はまだ納得してないらしい。
「…生きてたら笑顔で夏さゃんみたいにお姉ちゃんって呼んでくれたのかな…?なんて…ね…」
「ふぅん?巴さん、私といるのに別の人のこと考えてたんだ?」
「ご、ごめん、なさい…。」
「駄目だよ。私怒ってるんだから。」
「そうよね…。他の人と重ねられて自分を見られてたら私だって怒るわ。嫌だもの。」
言ってて自分の過ちに気づき、巴はしまったと思ったがもう遅い。
(私、きっと夏美さんを傷つけた…。)
「違うよ、巴さん。」
そんな巴の心を見透かしてか、夏美は否定した。
「私は傷ついてないよ。もっと違う感情。…嫉妬っていうのかな?やきもち…は嫉妬と同じだよね?」
「…そう、なの…」
巴は意外な夏美の感情に驚きを隠せない。
「…本当に悪かったわ。自分でされて嫌なのにね…。許して、夏美さん?」
「…駄目だよ。お姉ちゃん、夏美って呼んでよ。」
「夏美。」
「あとね、キスして?ちゃんと口に。」
「え?」
「私の口にキスして。その私と重ねてた子より私は上が良いの。」
「分かったわ。」
巴はおそるおそる、触れるだけのキスをする。
「…ま、いっか。」
夏美は物足りなさそうにだが嬉しそうに呟いた。
―END―
(今はこれだけでも十分嬉しいから…。)