短いダークブルーの髪をした整った顔立ちの天使は目の前に優雅に腰掛けている長い銀の髪と紅い双眸が特徴的な中性的で美しい顔立ちの青年を見てはぁと深く嘆息した。
「遥々とご苦労だったな、スィーヅ」
ニコッと微笑み、彼は穏やかな声で天使の名を呼ぶ。
「……センティアから文を預かったので届けにきた」
淡々とした声で呟き、手にした手紙を差し出しながらスィーヅはじっと青年を見る。
「そうか、そうか」
内容を察しているのか笑いを堪えきれない様子で青年は笑みをこぼしつつ、受け取った。
「……失礼ながら、また、喧嘩をしたのか?」
丁寧な仕草で文を開く指先を見ながら、スィーヅは静かに呟く。
「ああ。本当に可愛いものだよ」
くすくすと笑いながら言う様は実に楽しげだ。
そして、手紙を広げてふふっと嬉しそうに笑う。
「ほれな」
そのまま広げた手紙をスィーヅに見せる。
そこにはたった一言、こう書いてあった。
『バカ!』
と。
「……普通の国なら宣戦布告ともとれなくはない文言だな」
はぁっと嘆息し、スィーヅは疲れたようにガックリと肩を落とす。
たったそれだけのことを伝えるために天界から異界(ここ)まで来たのだという事実に疲れた。
「あの女神は暇なのか」
すると、椅子に腰掛けた青年の後ろから気配を消して控えていたと思われる長い黒髪を一つに結い上げた悪魔が姿を現した。
「っ……シャレード」
思わず無表情ながらにもげっと嫌そうな雰囲気を出し、スィーヅは若干仰け反っていた。
すると、面白い玩具を見つけたような笑顔と共にシャレードと呼ばれた悪魔はスィーヅとの距離を詰める。
「ほぅ、貴様、そんなに私が嫌いか?」
紫色の双眸を細め、笑いながら見下ろすその姿からは威圧感しか感じない。
一方でスィーヅは冷静にシャレードを見る。
「逆に訊くが……ヒトの創造具を奪った挙げ句、これ幸いと言わんばかりに髪を切りとった相手を好きになると思うか?」
「ならんな」
しれっと言われ、スィーヅは深く溜息を吐いた。
「全く……来たついでにこの前の創造具を返せ。あれは、私にとって思い出深い作品の一つなんだ」
すっと手を差しだし、返すように促す仕草をする。
シャレードはその手を見つつ、不思議そうに小首を傾げる。
「思い出深い……だと? なんだ、処女作か?」
その瞬間、ピクッとスィーヅの頬がひきつる。
「……な、何故わかった」
「創造具としては色々と機能がシンプルすぎるからな。それに、本来の形が持つ色がお前の髪の色で、尚且つ、喰わせるとよくなじんで強度が増す」
再びしれっと言ってのけ、シャレードはその手を突き出し、槍を召還する。
「……それはやはりスィーヅのものだったか」
そして、静かに様子を見ていた銀の髪の青年は、クスッと笑みを洩らす。
「アーゼ、お前からもシャレードの奴に返すよう言ってくれ」
「我(わたし)が言って聞くような従順な悪魔(おとこ)だと思うか?」
ふふっと穏やかに言葉を返され、スィーヅはガクッと肩を落とす。
「その言い方は気に食わんな」
すっとアーゼと呼ばれた青年の顎をくいっと持ち上げ、シャレードはじっと紫の双眸で見下ろす。
「ふふっ、それは悪かったな。訂正しよう」
拗ねたような眼差しにアーゼは笑みをこぼした。
「言うことは聞かないが従順な悪魔(おとこ)だ」
「……はぁ」
その言葉にスィーヅは呆れたように嘆息していた。
「……いつか返してもらうからな」
「ああ、飽きたら返すさ」
しれっと返された返事にスィーヅは頭痛がした。