身近な大人
ってあんまりいないのかもしれない。
両親、教師…兄や、その友人
、が大人に分類されるなら、
それくらいしかおもいあたらない。

朝は素敵な講師との時間。
一緒に登校する事もあれば
教師室でココアを飲んだりもした。
とにかく私は彼のために早起きした。
私は彼の知らない部分を想像するのが
大好きだった。
例えば、私の知らない大学生時代、
私の知らない休日の過ごし方、
そして何より私の知らない彼女の存在。
彼は高校生の私にはすごく大人で、
素敵で、包容力があった。
身体は引き締められていて、
彼の鍛えられた筋肉は
もともと大柄な身体をより逞しく魅せた。
厚い胸板や太い腕や整った顔立ちに
見合った、美人を彼女にしているのだろう
と私は勝手に想像した。
実際は彼女は私が彼に出会った頃から
ずっといなかったらしい。
でも、私にはそう感じられた。
どこか私の彼の知らない世界に
生きているように感じていた。
そんな素敵な関係を持っているこの人に
愛されたら。と思って。
彼の前ではにこにこしていた。
気を使えるふりをして、
好意をあからさまに表してみた。
もちろん彼はすぐにそれに気づいた。
それからすぐ取り繕っている私にも気づいた。
最初は彼に私を愛してもらいたかったのに
彼を愛するように導かれていた。
彼の方がずっとずっと大人だった。
歳の差がそう感じさせる以上に
私はそう感じた。
経験豊富で、優しくて、
生きていく術を知っていた。
つらいことを忘れる方法、
嫌なやつとの付き合いかた、
他人からの愛され方。
私が知りたくて仕方なくて
でも手に入れられなくて、
苦しんでいるものばかりを
盗んでもいいよといわんばかりに
目の前に並べられた。
恋をしないわけがなかった。

言ったのは私からだった。
ただ、好きです。とだけ伝えた。
付き合いたいとか独り占めしたいとか
そんなんじゃなくて
好きでいることを認めて欲しくて。
そのとき私たちは教師室に二人きりで、
彼に、おいで。と言われて素直に近づいた。
近づいて、抱き締められた。
彼女だから、彼氏だから愛する
とかじゃない愛が欲しかった。
構造主義からではなく実存主義から
愛してほしかった。

どうなんだろう。
私はそんな愛を今、
彼から享受しているのだろうか。