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『4.エドワード』

話の勢いに流されて乗ってしまった気もするけど、さっきまで面倒な補習をさせていた張本人といま一緒にランチなどしている。

 なんでも好きなものを頼みなさい、なんて万年金欠学生に向かってカミサマのようなことを言って、オレのトレイに諭吉様を乗っけると、自分はパスタとコーヒーを頼み、さっさと空いてる席に座ってしまった。
 こういうときはやっぱり大人に見える…。普段は全く大人げないのに。
なんとなく悔しくて折目のついてない真っさらな諭吉様を握り締めた。


「なんだ、そんなものでいいのか?たくさん食わないと大きくなれないぞ。」
「ッ誰がドチビだ!…オレだって遠慮くらいすんだよ。」
「気にしなくていいぞ。デートで奢るのは男として当然だ。」
「補習のどこがデートだよ!」
「密室で二人きり。額が触れ合うほど近くで半日も過ごしたのだよ?どう見てもデー」
「ぎゃーッ!変な言い方すんな!」
「…真っ赤だな。」

 顔、とマスタングが指さしてオレは慌てて水を飲み干した。

「ッ…ゲホ、ゴホッ…。」
「大丈夫か?」
「…うん。」

 とりあえず会話が途切れたところで残りのシチューをかきこんだ。
いつもは温かくて美味しいのに、今は味もよく分からない。
とにかく早くこの男から離れたかった。

なのに。

「なあ。なんで付いて来んの?」
「駅まで行くんだから同じ道だろう。」
「先生電車だっけ?」
「…そうだよ。」
「バス停で見かけたことある…。」
「どっちも使えるんだよ。細かいことは気にするな。」
「いや気になるんですけど。ストーカーから身を守らないと。」
「おまえ…失礼だぞ。」


 ホームもそうだったが、乗り込んだ電車内はいつもより混んでいる気がした。

「なんか今日混んでねえ?」
「事故でダイヤが乱れているみたいだな。」
「そうだったのか。…ワッ、とと、ッ」
「ここに掴まっていなさい。」

 オーバーランでもしたのか急に車体が大きく揺れて停止した。

「平気だって…おわッ。ちょっ…近いんですけど!」
「仕方ないだろう。この混雑だ。あと3駅我慢しなさい。」
「だからなんでオレの降りる駅知ってるんだよ…」

 新たに乗り込んできた乗客の波に押されて反対側のドア付近に流された。
こういうとき人よりほんの少し背が低めだと損だ。酸欠状態になるし周りが見えにくいし。
それがゆっくりと電車が発車してその後は次の駅に停車しても押されることもなくなった。

(……あ。)

 よく見るとマスタングがオレの前に立って腕を伸ばしているおかげでドアとの間に少し空間ができていた。
オレが押されないように?いくらちょびっとだけ小柄だっていっても男だぜ?オレ。なんかむかつく。
それでもまあ、この体勢が楽なことに変わりはないケド。
 いつも変なこと言ってちょっかいかけてくるくせに、こういうときにこんな風に気遣ったり。

 ――ヤな奴。

 補習もあと少し。終わったら二人だけになるなんてそうないよな。
いやいやいやキモ!そうじゃねえだろオレ!おかしい。今の状態がおかしいことになってるからちょっと混乱してるだけだよな。

 早く駅着かねえかな…。

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