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何?コレ?目が開かないんですけど。超絶に眩しいよ?
窓を開けたら――青い空!青い海!青い春!いやいやいや…そうじゃなくて。
あまりに眩しくてカーテン閉めたら隣のヤツに怒られた。海見せろ!ってなんだよそれ。海なんて後で腐るほど見れるだろ。頼むから…寝かせてくれよ。
朝も早くからバスに揺られてたどり着いたところは臨海学校で使う宿、になる施設。
目の前はすぐ海でバスから降りた生徒が歓声を上げているのが聞こえる。
「あー…だめだ眠ぃ…。着いたらまずなんだっけ?」
「着替えて浜に集合だ。」
「ん?おわっ!?なんでアンタこんなとこにいんだよ?」
「引率の一人だからに決まっているだろう。ホラその寝ぼけ眼をなんとかしてさっさと着替えてこい。」
「うっせーな。分かってるよ。」
こいつはいつも突然現れる。大体いくら引率だからって担任じゃないんだから実のところそんなにオレとの接点はないはずなんだ。
先を行くクラスメートを追いかけて歩いていこうとしたときいきなり腕を取られた。
「いってッ、なんだよ!?」
なんなら着替えさせてやろうか?低く耳元で囁かれる悪魔の言葉。
オレは一瞬で体温が上がるのを感じた。それこそ沸騰しそうな勢いだ。
「なッ、おかしなこと言ってんじゃねーッ!この変態教師!」
「はいはい、嫌なら急ぎなさい。」
逃げるように部屋に駆け込み着替えを始めていた友人たちに合流する。
不規則に跳ねていた心臓をどうにか宥めすかして、嫌な汗で張り付いたシャツを脱ぎ捨てた。
「くそッ。」
休み明けからアイツはやけにちょっかいを掛けてくるようになっていた。それこそ校内でもほんの少しの人目の隙をついて気が付けば二人きりになっていたり、何より距離が近い!
さっきみたいにいきなり顔を近づけてきたりするから油断ならない。そんなことをされた後は必ず今みたいに心臓が音を立てて顔が染まるのも分かる。その悔しさといったらないんだけど自分じゃどうにもならない。
浜辺に集合して準備体操をした後は少し沖に見える島までの遠泳をするらしい。
それほど距離があるわけではないが要所要所に教師がボートでスタンバイしているのが見える。重なる波間にあの男の姿も見え隠れしていた。ぼんやりその姿を目で追っていると、いきなり真横でスタートの合図がして生徒が一斉に海に駆け込む。
大勢の生徒が泳ぎ出すものだから一瞬の出遅れがかなり泳ぎ辛い状態を引き起こす。
とりあえず集団を抜けたい。目の前は蹴散らされた波の細かい泡が広がってすでに視界は最悪。
迷わず島に向かってまっすぐ泳いでいたつもりだったんだけど、頭を上げてみればスタート前に競争しようと言っていた友人の姿も他の生徒もずいぶん離れたところに見えた。
オレ流されてるのか?そう気づいたときには遅かった。集団から一人離され島を横にみる位置まできている。教師のボートが近づいて来るのが見えたけど、同時に夢中で動かしていた足に痛みが走った。
「痛ッ…!?」
やばいと思った途端に激しい痛み。顔を上げていられない。水中に飲み込まれる。
苦しい…!息が出来な…い…――。
***
「……?」
「大丈夫か?」
背中が温かい。砂浜にいる。仰向けに寝かされているオレを覗き込んでいたのはマスタングだった。
「オ、レ…?…ゲホッ…ケホッ、」
喉と鼻が痛かった。喋ろうとすればむせて上手く呼吸が出来ない。
「かなり海水を飲んでたようだったからな。ほら、水を飲め」
「ん…」
この男がこういうトーンで喋るのは初めて聞いた気がする。
低く穏やかな声は労わるように水を渡すとオレの背中を支えて起こした。
「はー…。ここどこ?」
「おまえが溺れてたのを引き上げて近くの浜にボートをつけた。おそらくゴール地点の裏側にあたりか。…足はどうだ?」
「まだ痛いけど…平気。あ、ありがとな…、先生。助かったよ。まじ死ぬかと思った」
思わず出た本音にマスタングは少しだけ目を大きくしてオレを見た。
「おまえが素直だと気持ち悪いな」
「るっせぇッ。も、もう平気だからみんなと合流しようぜ」
「礼、とかないのか?」
「はァ?礼なら言ったじゃねえか」
「態度、で見せて欲しいな」
「態度って…な、何…だよ?」
傾きかけた陽射しを受けて細められた目。表情に影が落ち元々女子受けのいい顔がさらに彫の深いモデルみたいな顔になって見えた。
そうしてこの男が期待している答えが頭をよぎる。そう。何をオレに望んでいるのか気付いてしまった。
つい逸らした目からすかさずオレの心を見透かしたように追い討ちをかける。
「もう分かってるんじゃないのか?」
「…だ、だから何が!」
「キス、でいいよ。」
やっぱり。
夏休みとその後の補習と。初めは種でしかなかったそれ。オレ自身知らない間に育っていた気持ちがこの男本人には見抜かれていた。
元はといえば仕掛けられたようなものだったから、気付かれても仕方ないのかもしれないけど、隠しきれていなかったということが悔しい。っていうか滅茶苦茶恥ずかしい。
「助けられた礼がキスって…ぼったくりじゃね?溺れた生徒を助けるのもアンタの仕事の内だろ?」
「そうでもないな。等価交換、ってやつだよ。それとも初めてだから恥ずかしいか?エドワード」
「名前呼ぶんじゃねーよッ!って、バカにすんな!誰が初めてだって」
「エドワード」
「〜〜〜ッ」
ここには他に誰もいない。一瞬だ。一瞬で終わらせればいい。キスなんて簡単じゃねえか。もちろんファーストキスじゃないぜ。幼稚園の隣のクラスの……いや今はそんなこと考えてる場合じゃねえって。
オレは覚悟を決めた。とりあえず隣に座るマスタングに近づかなければと立てた膝を少しずつ前進させていく。
「…目閉じろよ」
「いいじゃないか勿体無い。あ、頬なんて子供騙しはノーカウントだ」
「閉じやがれっ…んなセコイ真似すっかよ」
マスタングは大げさにがっかりしたようなジェスチャーを見せてから目を閉じた。
売り言葉に買い言葉。若干のせられた気もするが自分が思っているほど嫌じゃないのが腹立たしくて。
俺はヤツの顔数センチのところで目を閉じて自分の唇を合わせた。
意外と柔らかい、そんなことを思った瞬間後ろ頭を押さえられてキスが深くなる。
「ッんぅ…」
驚いて開いてしまった歯列の合間から舌が入り込んでくる。口の中を弄り深いところまでを舐めあげられて息苦しさに意識があやふやになりかけた。危うくまた気を失うかと思ってマスタングの胸をガシガシ叩いた。
「んーーッ…ぅ」
名残惜しげにゆっくりと離されていく唇は俺の上唇を一撫でして。追った目の端に満足そうに笑うマスタングの顔が見えた。
「今日はこのくらいで許してやろうかな」
続きはまた改めて、そう告げられたとき俺はまた失神でもしていっそそのまま記憶喪失(コイツに関することだけ)にでもなれたらいいのに、と真剣に思っていた。
性 別 | 女性 |