このカテゴリの更新は3年ぶりになりますね。
ダブクロがスマホ対応で帰ってきたと知っていてもたってもいられなくなりました。
おかえりいいいいい!!!!
カナエとEDを迎えられるようにがんばります!!!
シュガトラリメイク全裸待機。
2013-6-2 15:43
※百鬼Badエンド『赤い月』後
(もしも彼が生きていたら、とかとか)
ふ、と足を止めた。見慣れた背中を見つけたからだ。
俺は「どうしようか」と少しだけ悩んでから、諦めて駆け出した。その背中を追って声を掛ける。
「百鬼さん!」
「…環君?」
手を伸ばして彼の肩を掴めば驚いた顔がこちらを向いた。あかい瞳が俺を映す。自分自身と目が合ってから、にこりと笑顔を浮かべた。
「今帰りですか?」
「そうだよ、環君は?」
「俺もです。よければ一緒に帰りませんか?」
「うん、そうだね」
彼が両手に持った荷物を持つ。スーパーの袋を持つ彼はひどく似合わないと思ったのだけど、さすがに2つとも持たせるのは気が引けるのか1つしか譲ってくれない。「いいのに」と遠慮する百鬼さんを一瞥した。
ホストで働いてる百鬼さんが地元のスーパーで買い物するなんていまだにしっくりこない。違和感ありすぎる。
思わずクスリと笑ってみたら、百鬼さんが「なに?」と聞いてきた。「なんでもないです」と返したものの、この返事に不服そうだ。そんな彼すら面白いと思ってしまう。今度は笑いを堪えたけれど。
「今日はお休みですか?」「そう。恭祐さんは出だけどね」
「じゃあ今晩はふたりですか」
「麦秋君も居るよ」
「…そうですね」
肩を並べて歩き出す。夕陽が眩しかった。
…百鬼さんが家に住むようになって2週間。もう2週間も経ったのに、俺はまだ慣れなくて、ふたりきりで居るのを躊躇してしまう。
ちらりと隣を見れば、彼は見惚れるくらいのきれいな笑みを返してくれた。
でも…この人は、あの日。
「ああ、そうだ」
「なんですか?」
「環君は好き嫌いある?」
「いえ、とくにありません」
「なら良かった」
きれいな笑みを溢す彼を見て、好きだと思う。再確認した。俺はこの人がやっぱり好きなんだ。
でもあの日、…あかい月が暗い闇に浮かぶあの日、たしかにこの人は俺の目の前で死んだはずだった。
確認はしていないけれど、電車が迫る気配があってそこに飛び込んだのだから、…死んだはずなんだ。自分を悔やんだ時を思い出す。手を伸ばせなかったと泣いた夜を思い出す。
…どうして、彼は今ここに居るのか。
麦秋は言った。「羅刹鬼だけが死んだんじゃないか」って。その証拠に百鬼さんからは人間の匂いしかしないとも言った。
ならば、戻れるのだろうか?
全てを投げ出してでも、生きていけるのだろうか。
同性であれど人間ならば、一緒に。
がちゃりとドアを開ける。
百鬼さんが言った。
「ごめんね、ずっと迷惑をかけて」
「いえ…」
「早く、記憶が戻ればいいんだけど」
人間として生きる代わりに全てを失くした百鬼さん。
俺に触れて、キスをしてくれたことを忘れた百鬼さん。
あなたが好きだとやっと気付けたのに、再会は胸を痛めるだけだった。
(あなたが好きだ)
(そんなことを再確認しては)
(あなたを助けられなかった自分を)
(呪いたくなる)
BADエンドの後の妄想とか。
この後恭祐→百鬼な展開にしてもいいんじゃないかなんて思ったんだけど止めました。収拾がつかん。
恭祐×百鬼、公式でやってくんないかな…orz←
3日に書き上げてたんだけど上げるか迷って、迷うくらいなら上げてしまえとUPしてみる。
こんなのがあってもいいじゃないか。
2010-8-12 20:54
※12話ネタバレあり
「世界は苦痛ばかりだ」
ぽつりとくちから漏らした言葉が暗い闇に溶ける。顔を上げれば星は見えなかった。この暗い空に、なんて悲しいんだろう、と思って、諦めて目の前の世界に視線を戻す。手すりにもたれたらぎしりと軋んだ音がした。
「苦痛?」
誰にも聞かれないような小さな声だと思っていたのに、隣から疑問符がついたセリフが返ってきた。なんだ、聞いてたの。そう言えば、聞こえるよ、と返ってくる。ひとりではなかったのだと当たり前のことに気付いて安堵の息がこぼれた。
「どうしてここに居るのか、なんてこと、レイは考える?」
ゆるりと視線を彼に向ければ、レイは「なんだそんなこと」と言いたそうな顔をしている。
それに気づかないふりをして言葉を続けた。
「街の明かりはあんなに騒がしい。あそこで騒ぐ奴等はみんな、おれたちみたいな人間から目を逸らすんだ」
「…」
「なんで、おれたちはここに居るんだろう」
改めて眠らない街を見つめてくちを開けば彼もそちらを見る気配がした。この廃ビルはあの街がよく見える。汚くて欲望まみれの世界を見渡して、そこに居る腐った人間たちを想像して、よくふたりで笑ったものだ。
けれどふと、その世界から分断されたこちら側を考えることがある。
居ても居なくても関係のないおれたちを考えて、力がないことに悔しくなる。
「この世界で生きることは苦痛だ」
「カナエ…」
彼がおれの名前を呼んだ。
生きるのがつらいとは思わない。明日の食事どころか今日の食事まで心配しなきゃ生きていけない生活だけれど、こんなもの、あの人が受けたものなんかよりまだまだ序の口だと思った。だから生きるのがつらいとは思わない。
強いていうなら、自分に力がないことがひどく悔しい。
なにもできない弱い人間だ、と言われているような気がしてたまらない。
手のひらを見つめた。あの人を救えなかった自分の手のひら。悲しいくらい小さい。悔しい。なにもできない、なにも守れない。
「カナエ、」
す、と横から手が伸びた。 おれの手のひらが白い肌に包まれる。
あたたかいと思って、胸が傷んだ。
「カナエはなにもできなくなんかない」
「…」
「こうやって側に居てくれてるだけで、意味があるんだ」
手のひらが、今度はかれの両手で包まれる。ああ、しあわせに生きたい。そう思う。なんてもどかしいんだ、と悲しくなる。
「…天国に行くために、右手も左手も落としたのに、このままだったらなにもなくなる」
だから、はやく来て。
誰でもいいから、ここから連れ出して。
なにもできないおれに、存在価値をください。
新宿の明かりが網膜を射す。痛くて痛くて、涙が出るかと思った。
(その“誰か”は)
(紅眼の彼なのか)
(癖毛の彼なのか)
2010-7-22 12:44