その日は、寒い日だった。
まるで絵の具で塗り潰したように均一な白い空は、全く同じ色の粉雪を降らせていた。
風に吹かれて舞う今年初めての雪は、地面に落ちればただの水になってしまうくらいの出来損ないで。
まるで俺みたいだ、なんて思った。
家に帰ると知らされたのは、最悪の知らせ。
昨日まで笑ってたのに。
大丈夫だって言ってたのに。
看取ることさえ出来なかった、ドラマみたいに上手いことなんていかなかった。
いくはずなかった、脇役にすらなりきれないレベルの俺なんだから。
最後まで一緒にすら、いられなかった。
病院で見た彼女の脱け殻には、何も感じることが出来なかった。
あまりに現実味が無さすぎて。
とんとん拍子で全てが進んでいく。
あの人間味が無い透明な病室に彼女を取り残したままで。
涙すら出ない。
俺もどこかに取り残されてしまっているのだろう。
時が過ぎても、いつまでも。
溶けない雪のように。
「私のことは忘れて」
空耳が聞こえる。
性格が悪いなお前は。
そんなこと言われたら、忘れられるはず無いのに。