その日、私はすべてを失った。

家族も友人も、婚約者も。黒服の男はそれが歴史修正主義者の仕業だという。過去の歴史を改編したがゆえに、私をとりまく人たちが消えてしまったのだ、そして審神者として能力があった私だけが改編の余波に巻き込まれず取り残されてしまったのだと。
それはとても残酷でーーー信じられなかった。
だってそうだろう、つい今朝までは確かに存在していたのだ。予定では、仕事終わりに婚約者と外で落ち合い、予約していた指輪を見に行くことになっていた。
けれど、待ち合わせ場所に時間になっても現れない婚約者。おかしいと電話をかけようとしたらーーー

「なにを、すればいいの」

言いたいことすべてを飲み込み、黒服の男に問う。分厚い書類を並べた彼は、審神者になって取り戻せばいいのだと笑った。
審神者になって付喪神を率い、歴史修正主義者との戦争に勝てばすべては戻ってくるのだと。






初期刀は歌仙兼定。初の鍛刀は今剣。チュートリアルの前に政府の式神だというこんのすけと話し合い、基本方針を決めた。
これから行うのは戦争なのだ。研修所で見せられた運営は些か生ぬるいと思うのだ。これは戦争ーーー刀を家族のように見るなど、私には出来ないし、かといって会社の部下としてみるには血なまぐさすぎる。

「最初に言っておく。あなたたちにはとても苦労をかける。ごめんなさい」

刀といえども、心を持ったものたち。温かさを求めるだろう安らぎを求めるだろう。けれどそれには寄り添えない。

「私のために、戦場で死んでください」

優しい付喪神たちは、頭を下げる私を見て、笑った。

「主のためなら、僕たちはそうしよう」
「あるじさま、あたまをあげてください。ぼくたちはかたなです、いくさのくろうとですよ!」

主のために、そう言って笑う神様たち。生ぬるいと表現したが、そういった環境になるのも頷ける。けれどそれではだめなんだ。家族を、友人を、婚約者を取り戻すためには要らないのだ。

「よろしく、私の刀たち」