「死に場所難民」47万人の未来図 看取り士が訴える自宅での幸せな最期の迎え方

講演する柴田久美子さん=平成30年、福岡市(日本看取り士会提供)
講演する柴田久美子さん=平成30年、福岡市(日本看取り士会提供)

令和4年の死者数が戦後最多の約156万人という「多死社会」を迎えている日本。厚生労働省によると、医療や介護が追い付かず、12年には病院や自宅などで最期を迎えられない、いわゆる「死に場所難民」が47万人発生すると想定されているという。岡山県を拠点とする「日本看取(みと)り士会」の柴田久美子会長は、「自宅で最期を看取ってもらえる人が増えるよう環境を整える必要がある」と指摘。「人間は必ず死ぬさだめ。恐怖心に打ち勝って向き合い、生と死を学んでいくことが、幸せな最期につながる」と訴える。

「看取りの作法」を伝える

自宅で死を迎えるために、かかりつけ医と訪問看護、訪問介護による在宅介護チームをコーディネートするのが看取り士の重要な役割だ。訪問看護は医療サポート、訪問介護は日常サポートなのに対し、看取り士は心のサポートを担う。本人や家族らから相談を受けたり、臨終に立ち会ったりするほか、「看取りの作法」を伝える。

「幸齢者」を抱きしめる柴田久美子さん。柴田さんは「人生で大切なことを教えてくださる方」という意味をこめ高齢者を幸齢者と呼ぶ=平成21年 ©國森康弘
「幸齢者」を抱きしめる柴田久美子さん。柴田さんは「人生で大切なことを教えてくださる方」という意味をこめ高齢者を幸齢者と呼ぶ=平成21年 ©國森康弘

「看取りの作法」とは、看取る側が気持ちを整え、呼吸のペースを合わせて寄り添い、体にずっと触れたり抱いたりし、思い出話などを語りかけたり静かに見守ったりして、数時間かけて一緒に過ごすための所作という。柴田さんは「大切なのは傾聴、反復、沈黙、ふれあい。看取り士はもう一人の家族という気持ちで接している」と説明する。

看取り士は民間の認定資格。日本看取り士会は平成24年に一般社団法人として設立。令和2年からは株式会社も設立し、派遣業務を行う。

全国27都道府県64カ所にステーションがあり、看取り士は2494人。その内訳は、5割が看護師、3割が介護福祉士、一般人が2割で、派遣は国家資格保有者のみとなる。

死に関することについて語り合う話すデスカフェ「カフェ看取りーと」や、ペットの看取り、警備保障会社のセコムと連携し納骨まで行う「おひとり様みまもりサービス」などさまざまな取り組みを展開している。

最期の1%が幸せなら

柴田さんは島根県出雲市出身。16年間の日本マクドナルド勤務などを経て、8年間かけ介護福祉士とケアマネジャーの資格を取得した。「暮らしの中で人を看取りたい」という活動の原点は、小学6年のときに父を看取った経験だ。

柴田さんは無宗教で「死の瞬間には、いのちのバトンの受け渡しが行われる。体は失われても魂のエネルギーが長時間かけて大量に放出され、看取る側の人に受け渡してもらえる」という独特の死生観を持つ。父が渡してくれたものは心の穴を埋めてくれるほど大きかったという。

「人生のたとえ99%が不幸だとしても最期の1%が幸せならばその人の人生は幸せなものに変わる」というマザーテレサの言葉に出会い、山陰地方で「看取りの家」を始めた。社会学者の上野千鶴子さんに強く勧められ、吉備国際大学の講師をしていた関係から岡山市で看取り士会を設立。自らも看取り士として数多くの最期に立ち会ってきた。

映画「みとりし」から。新人看取り士を横たわらせて看取りの作法を教える場面 ©2019「みとりし」製作委員会
映画「みとりし」から。新人看取り士を横たわらせて看取りの作法を教える場面 ©2019「みとりし」製作委員会

自宅死のケース5例を基に、俳優の榎木孝明さん主演の映画「みとりし」を令和元年に製作。今年は柴田さんの講演会と映画「みとりし」上映会を8カ所で開催するプロジェクトや、9月23日に奈良県大和郡山市で全国フォーラムを開催するなど、啓発活動に注力する。

自宅死17%、病院66%

厚労省の人口動態統計によると、令和3年の自宅死割合は17%、病院が66%。自宅死は昭和26年に約9割だったが、戦後復興から高度成長期にかけ生活・医療水準の向上につれ急速に低下。平成11年には2割を下回った。

一方で、「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」(厚労省、令和4年度)では、不治の病で1年以内に死に至る場合、最期を迎えたい場所は自宅が43・8%、病院が41・6%。「家族の負担にならないことを最も重視する」が最多の71・6%(複数回答可)となった。

自宅死が増えない背景について柴田さんは、「自宅に帰ると全部自分でしなければならないという思い込みや、お金がないからと最初から諦めている。ただ、新型コロナウイルス禍で面会制限が行われ、家族に見守られずに旅立ちたくないという人は多かった」と指摘する。「死に場所がなくなることへの問題意識や危機感を持って。家族らには『お世話かけるね』と話して、遠慮せずに自宅死の選択を」と話す。さらに、「国や自治体には死に場所難民の実態と、自宅死という選択肢をきちんとアナウンスしてほしい」と求めている。(和田基宏)

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