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謎(side→S.H)

暖かい温室での夢のような会議。
こんな日が年に一度しかないのは何故なんだろう。
ソーマはその事が気がかりで議題にあげてみた。
するとティエリアからすかさず指摘を食らった。

「そんなことも知らないのか?」

しかしこの場合批難を食らうのはティエリアである。
ティエリア以外この場にいる全員が知らないのだから。ティエリアはその場にいる全員から白い目で見つめられた。
すかさず顔を真っ赤にして反論する。

「そ、そんな目で見つめるなっ!」

「ったてなぁ…」

「俺たち何も知らないぜ?」


そう交互にいったのはライルとニールだった。

「私たちも皆知らないわよね?」

会長のマリナがトレミー女学院の面々の顔を確認しながら言った。
プトレマイオスの面々も同様に、ティエリアが振り向くと全員が首を横にふった。

「(僕だけ仲間外れなのか…?)」

めちゃくちゃ動揺するティエリア。それを察してニールがティエリアの肩を組んで

「まぁとりあえずみんなわからないみたいだから説明してくれよ会長さん☆」

といってくれた。

「(なんかティエリアに甘いよなあいつ…)」

そんな二人を見てハレルヤはニヤリと笑った。

「学院同士の往来が禁じられてるのに生徒会の我々がしょっちゅう会っていたら不公平じゃないか。だから年に一回なんだ」

『なんだ特別な理由はないのか』

ニールとハレルヤがハモった。

「なんだと思ったんだ貴様ら…」

やれやれと肩を落とすティエリア。

「そもそもなんで橋に鍵なんか…」

「さぁな自分で調べろ」

「(そういや会長さん資料室いけばあるとか言ってたよな…)」

ハレルヤはティエリアがそんなことを言っていたのを思い出した。

「(ここは一つ資料室に行ってみるしかないな)」

ハレルヤはまたニヤリと笑った。
議題は他にも色々と出されて無事に合同会議が終了した。

それぞれの想い合っている相手と別れを交わす最中、ハレルヤはソーマから小さく折り畳まれた紙を手渡された。

「後で開けて」

そういって彼女は他の誰に気付かれることもなく先にその場を後にした。

ティエリアは何故かミレイナといい雰囲気になっており、刹那はガンプラを持ったままネーナに追いかけまわされていてその様子をマリナが微笑みながら眺めている。
ニールはフェルトとハロと一緒に和やかなムードに包まれており、ライルはアニューと何やら楽しげに会話しておりこのまま学院を抜け出してしまそうな勢いであった。アレルヤはマリーとイチャついていて離れる気配がない。

「俺、負け組?」

ハレルヤは一瞬そんなことを思った。生徒会の熱々ムード(一部除く)を置いてその場を後にするハレルヤ。
人気がない階段で紙を広げる。そこに書いてあったのはメールアドレスと番号だった。

「!」

それは紛れもなくソーマのものである。さっそく登録する。

「よし」

けれど正直メールを打つのがたるいハレルヤは即座に電話を使った。

「声も聞きたいしな」

ピッ…プルル…

「もしもし?」

「あ、ソーマだよな?俺―」

「遅い」

二言目はとてつもなく低いトーンだった。

「え?何で怒ってるんだ?」

「もういい…何?」

「あ…あのさ渡り橋の南京錠の話なんだけど、うちの会長様が言うには資料室に行けば原因がわかるらしいんだよ。そっちでも調べてみてくれないか?」

「わかった」

「まった!何でそんな機嫌悪いんだっ」

「ハレルヤがとろいから」

そういって電話を切られた。

「だってわかんねぇじゃん…」

さすがのハレルヤもこれには泣きそうになった。

とりあえず資料室に潜入してそれらしき資料を探す。

「多分一番古い資料だよな…」

資料室は掃除されてないのか棚や資料に埃が被っている。

「まぁ誰もこないだろうからゆっくり探せるな…」

一つ一つ埃を払いながらくまなく探す。

「ねぇぞ会長ぉ〜」

ティエリアにあたっても仕方ないがなかなか見つからない。
そんなことをしていくうちに資料室はだんだん綺麗になっていった。

「うっ…けほっ」

たまらず資料室の窓をあけて空気を入れとりあえかえるハレルヤ。

「あぁー生き返るー」

資料室を風が吹き抜ける。
すると一番高い棚の上にあったただの埃の塊だと思っていたそれが、風で埃が落ちて姿を現した。

「…?」

茶色くくすんでいる古い冊子。ハレルヤはそこそこ身長が高いがそれでも棚の上に手が届かないので、窓に足を乗せて窓の上の部分を片手で掴み棚の上に片足を乗せる。

「届いた…」

資料をいったん床に落として、そおっと窓に腰を下ろして床に降り資料を拾う。

「なんであんな所に…」

明らかに人目を避けるように置かれていた。ハレルヤは眉間に皺を寄せてて資料を開く。

セピア色の資料には初代の卒業生の写真が載っていた。
保存状態が悪いせいか文章は読み取ることができない。

「男女一緒に撮ってんじゃん…」

このことからプトレマイオス学院とトレミー女学院は昔は一つだったことがわかる。

「なんでわかれたんだ…」

やはりよくわからない。でもきっと交流を最小限にとどめなければならないほどの何かがあったんだろう。

「わかんねぇよ会長〜…」

へなへなとその場に座り込むハレルヤ。
するとすぐに携帯が鳴った。ゆるゆるとポケットから取り出す。

「ソーマ?」


「そっちの様子はどう?」

「さっぱりだ…初代卒業生のアルバム発見した」

「それなら大分前に見つけた。ずいぶんてこずったみたいね」

くすくすと笑い声が聞こえる。

「資料室綺麗だからすぐに見つかった」

「くっそ…こっちは大変だったんだぞ」

まったく手のつけられていない腐海の山からようやく手に入れたと説明したら大声で笑われた。

「ごめんなさい面白くて」

「このっ…」

こめかみをぷるぷるさせるハレルヤ。

「で何かわかった?」

「いや、ちょっと見覚えのある顔があるくらいかな」


「どういうこと?」


「うちの学院に写真によく似た先生がいた気がしたんだよなぁ…誰だったかな…」

「こっちもいた、見覚えのある顔。だけど…」

「どうした?」

「いや何でもない。やっぱり手がかりなしか」

「やっぱ会長様に聞いてみっかな。探すのめんどくさい」

「よした方がいい」

「何でだよ?」

「ティエリアが教えなかったのは知られたくなかったか口止めされてるからじゃないかと思って」

「なるほどな」

表情にこそ出さなかったが言われてみればそうかもしれない。

「こんな思いもした訳だし…」

気づけばほこりまみれになっていた。

「とりあえず切り上げましょ」

「おう」

二人は各々の生徒会室へと戻っていった。

「…あれはカティ先生だ…」

セピア色になった卒業写真に写っていたのは紛れもなく若かりし日のカティ先生だった。彼女は二校の設立に関わる重要な秘密を隠しているかもしれないとソーマは考えたのであった…。


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09.秘密のティーパーティー(Side:H)

放課後のプトレマイオス学園高等部生徒会室。
だが、いつもと少し雰囲気が違う。

「よし、準備はいいな…って、刹那、ガンプラは置いて行けっ!!」
「嫌だ!!俺はこれがないと…これがないと…」
「ちょ、ティエリア、刹那、落ち着け!!」

荷物の最終チェックに追われる姿はさながら、遠足前の小学生達のようで。

「貴様等、遠足気分でいられては…」
「あっ、お菓子っていくらまで?」
「人の話しを聞けーっ!!」

釘を刺そうとした矢先、口を開いたのはもちろんライルで、会長様のお怒りに触れたのは言うまでもない。
そんな二人を横目に見ながら、ハレルヤは小さな溜息をついた。





暖かな陽射しの差し込む空中庭園。
トレミー女学院とプトレマイオス学園を繋ぐ渡り橋の上に作られている小さな温室は普段は閉め切られている。
唯一、開くのは両校合同生徒会会議の時だけであろう。
合同会議と言っても大半はティーパーティーになるのだが。

「刹那ーっ!!」
「来るなーっ!!」

うふふあはは、なんて可愛い追いかけっこではなく、命懸けの追いかけっこを繰り広げる刹那とネーナ。
それを楽しそうに眺めるのはトレミー女学院の会長であるマリナ。

「あのっ!!」
「なんだ?」
「噂で聞いたんですけど、アーデさんは…、本当にサイボーグ何ですかっ!!?」
「………」

キラキラと目を輝かせて爆弾発言を投下するミレイナとそれに小さく笑ったティエリア。

(…ティエリアが笑った!!?)

普段笑わないカタブツを横目に見ながら、ニールは口に運ぼうとした菓子を落とす。

「あの…、落としましたよ?」
「…えっ、あぁ、ありがと」

そう言って、落ちた菓子を戻して新しい菓子をニールに差し出すのはフェルト。

アレルヤはと言えば、幼なじみであるマリーと二人の世界を作り出し、ライルは例の如くナンパ。
大抵は軽く流されるライルだが、声をかけた女性…アニューは柔らかく微笑んで、面白い人、とライルを見た。

(…春、到来か、)

先程までの真面目な会議からは打って変わった花が咲いたような光景。
会議の内容は年に一回の文化祭の事についてで、唯一、トレミー女学院とプトレマイオス学園の交流がある行事だ。
いつものプトレマイオス学園の生徒会室では考えられない今の様子。しかし、自分もそれに便乗しているに過ぎなかった。

「…おい」

温室の1番隅の木に腰を下ろしながら紅茶を飲む少女に話しかける。

「何だ?」
「いや、その…お前も生徒会だったんだな」

目の前の少女…ソーマにそう言ってやれば、彼女はいつもの微笑みではなく、怪訝そうに眉間に皺を寄せた。

「…何の話しだ?」
「は…っ?」
「私は貴様と面識がないと思うが…」

えっ、ちょ、待てよ、ずいぶんと立派なフラグが立っていたじゃないか、なんて思ってみても目の前の少女からはそのような雰囲気は微塵も感じられない。

「…少し、来てもらおうか、」

そう言ってソーマは立ち上がり、ハレルヤを温室の奥へと誘った。





「おい、待てよっ!!」

カツカツ、とソーマのヒールの音だけが反響していた中でハレルヤが声を上げる。

「お前は…っ!!?」

いきなり、口許に人差し指を当てられ、たかと思えば、口の中に柔らかい感触が溶けた。たぶん、口の中に溶けたそれはマシュマロか何かだろう。白く細い指が唇から離れるのを見て、少しドキッとした。
まったく、とわざとらしくソーマは溜息を吐くと、蔦の絡まった白い椅子に腰を下ろした。

「あの場であんな風に話しをしていたらばれるだろうが」
「…えっ?」

話が見えないんですけど、と言ってやれば、くすり、と笑ってソーマは温室一の大樹を見上げた。

「私はお前の知っているソーマ・ピーリスだ」

そう言ってソーマは微笑みをハレルヤに向けた。
その優しい、けれど悪戯っぽい笑顔にハレルヤも自然と頬が緩む。

「…何だよ、はじめから言いやがれってんだよ、」
「仕方ないだろ。私とそちらの生徒会一の不良が話していては怪しまれる」
「生徒会一の不良って…」
「お前の噂はこちらの学校までよく届いているぞ」

にやり、と笑みを浮かべたソーマに対し、必死に否定しようとしても、事実であることは変わりない。
校則違反や器物損壊なんて日常茶飯事。

まさか、自分の不祥事が相手に知られているなんて思いもよらず、どうしたものか、とハレルヤは深い溜息を零した。

「…まぁ、気にしていないがな」
「えっ、」
「お前が何であれ、私には関係ない事だから」

今、目の前にあるそれだけが私の事実なのだから。

そう言った彼女は今までの中で1番凛々しい顔をしていたかもしれない。

「…そろそろ戻ろうか」
「あぁ、」

もうすぐ休憩時間も終わるだろう、と言ってソーマが席を立った時だった。
もともと、老朽化が進んでいたと思われる椅子はぐらりと傾き、ソーマごと倒れそうになる。

「ソーマっ!!」

彼女の名を呼んで、後ろから抱きしめるような形で受け止める。

「…大丈夫か?」
「あ、あぁ、」

自分の腕の中にすっぽり収まるソーマ。
今まで会ってはいたものの、直に触れたことはなかったな、なんて思っていた時だった。

「ハ、ハレルヤ…」
「何だ?」
「その…そろそろ、」
「…あっ、」

悪い!!と言って彼女を離せば、いや、別に、とぎこちない返事が返ってくる。

俺は今、何してたんだ?えーっと、ソーマを助けようとして、抱き着いて…ん?抱き着く?抱き着く…ハグ!!?ハグしちまったのかっ?!

あぁーっ!!と一人で葛藤しているハレルヤを横目にソーマはまた、くすり、と笑う。
抱きしめていた時は何とも思わなかったのに、いざ自覚させられると、心臓が故障したかのように速くなる。

(…何なんだよっ!!)

まるで自分のものじゃないようなくらい過剰反応を示す身体。
生まれてこの方、こんな事は一回もないハレルヤには理解不能だった。

「…ハレルヤ?」

ソーマに背を向けてしゃがみ込んでいるハレルヤにそっと触れれば、大丈夫だ!!と大袈裟にバックステップを繰り出すハレルヤ。

「な、ならいいが…」

いい加減戻るぞ、と長い銀色の髪を靡かせるソーマ。

「…おい、」

そう言って呼び止めて、ゆっくりと距離を縮める。

「なん…」

振り向いた瞬間に彼女の頬に手を添えてやれば、驚いたのかギュッと目を暝る。

「…葉っぱ」
「えっ?」
「また、付いてたぞ」

お気に入りの髪飾りか?なんて茶化すようにソーマの髪に付いていた葉を見せてやれば、彼女の顔はみるみるうちに赤くなっていった。

「う、うるさいっ!!」
「んな怒んなよ」

かわいい顔が台なしだぜ?なんて言ってソーマの頭を撫でれば、うっ、と小さく唸る彼女。
我ながらよくライルのようなくさい事を言えたもんだ、なんて思うが、実際に可愛いのだから仕方がない。

「さぁてと、戻るか」

そう言って、彼女の横を通り過ぎようとすれば、急に腕を捕まれたかと思うと、細い腕が自分の首に回されていることに気付いた。

「お、おいっ!!?」

慌て振り向こうとしても、顔を正面に戻されてしまい、彼女の顔色を伺うことはできない。

「…もう少し、」
「えっ?」
「もう少し…、こうして、たい、」

段々と小さくなっていくけど、ハッキリとした主張にハレルヤは耳を疑った。
しかし、どうやら都合のいい幻聴ではないようだった。

(…俺の負けだな)

結局、いつも一本取られちまう、なんて思いつつも、ハレルヤは承諾してしまった。


ばれたらどうしようか、なんてハレルヤの心配はまったくもって関係なく、生徒会の面々は二人の存在など無視して会議を再開していた。





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08.ママレードガール(Side:S)

賑やかな生徒会室を後にするソーマ。

「(そういえばまだ名前聞いてないな…今日は聞こう)」

足早に階段を降りていく。
と、その途中でソーマは何者かにぶつかった。

「っ…すみませ…」

相手を確認して驚いた。何故ならそこにいたのは…

「息を切らして走るなんて珍しいなソーマ」

「カティ先生…」

天然ばかりのこの学院ではめずらしく、鬼教師と呼ばれているカティ=マネキンだった。

「(やばい…余計なこと聞かれる前にとっとと去ろう)今は先を急いでるんで、説教はまた後で…」

そう言ってまたソーマは駆け出した。

カティの目はあっという間に見えなくなったソーマの背を見つめて目を細めた。
まるで何かを探るように。



「危なかった…」

ぜぇはぁと息をつきながら校舎の外に出たソーマ。

「あれに見つかったら今度こそ終わりだ…」

カティをまいてなおも辺りを警戒するソーマ。

「鷹みたいな目してるもの…」

茂みに身を隠しながら渡り橋を目指す。

「ついた…」

到着した頃には葉っぱだらけになっていた。

「よぉ」

そこには余裕の表情を浮かべたハレルヤの姿があった。
と、ハレルヤはソーマを見るなり腹をかかえて笑い出した。

「なっ!?」

いつも冷静なソーマもこればかりは顔を真っ赤にして反論した。

「何!?」

思わず声をあらげてはっとなり手を口に当てる。

「(まずいまずい)」

「だってよぉお前葉っぱだらけだから。かくれんぼでもしてたのか?」

「ちっ違うっ」

またもや取り乱してしまうソーマ。

「冗談だよ。ほんとかわ…」

いいかけてハレルヤは思わず顔を背けた。

「何?」

ソーマは訳がわからず首をかしげた。

「俺としたことが…(あやうく本音がでる所だった…)」

「今日は変だな」

「お前に言われたくないな…」

「そうだ名前まだ教えてなかった。私の名前はソーマ=ピーリス。皆ソーマって呼んでる。たまにピーリスって呼ぶ人もいるけど」

「俺はハレルヤ=ハプティズムだ。ハレルヤって呼んでくれ」

「へぇ〜いい名前ね」

「…」

「どうかした?」

「そんなこと言われたの生まれて初めてだからよ…その、なんだ…びっくりした」

そうハレルヤがいうとソーマはまた不思議そうに首をかしげた。

「まぁ確かに性格には合わない…な」

「っ!」

こんどはハレルヤ
の顔が真っ赤になった。

「あははっ」

けれど嬉しそうに笑うソーマを見てハレルヤは怒る気力をなくしてしまった。

「ハレルヤ?」

「ん?何だ?」

「ぼ〜っとしてるから…どうかした?」

「別に何でもねぇよ」

ソーマの笑顔に見とれてたなんてハレルヤは口が裂けても言えないだろう。

「そうだ…刹那大丈夫?」

大丈夫かと聞かれるとあまり大丈夫ではないが…ハレルヤはとりあえずその言葉は自分の胸にしまっておくことにした。

「大丈夫だろあいつガンダムバカだから女には見向きもしないって」

「ふふっそうか」

「…」

まただ。ハレルヤやソーマの笑顔に目が釘付けになった。
そうこうしているうちにあっという間に鐘がなった。


「もう時間?ハレルヤといると時間が経つの忘れる」

そう言ってソーマは少し寂しそうに微笑んだ。ハレルヤはそんなソーマを見て何故か嬉しくなった。

「明日また会えんじゃん」

可愛いやつ。本当はそう言いたいけれど言ったらソーマはどんな反応をするだろうか。
今度さらっと言ってみようと決意した。

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07.甘美なるドルチェ(Side:H)


いらいら、にやにや、おどおど、ほのぼの…まさに、その表現が1番今のこの空間…プトレマイオス学園生徒会室には合うであろう。

「あぁーっ!!仕事しろ、貴様らっ!!」
「いやいや、してますよぉ」
「してないだろ!!ケータイ取り上げるぞ!!」
「あっ、ティエリア、これは?」
「そこに置いといてくれ…って、刹那、もう紐通しはいいぞ」
「…トランザムしていないと…俺は、ダメになってしまう」
「意味がわから…逃げるなディランディ弟!!」
「うわっ、」

今日も今日とて、そんな調子の生徒会室。
真面目に仕事をしているのはティエリアとアレルヤ、ディランディ兄ことニール。そして、何かを忘れるように手を動かす刹那。
ディランディ弟ことライルは逃げ出そうとしたところを鬼会長様に捕まり、押し倒されたような状態なのだ。

「…さぁ、観念しろ、」
「くそっ…、てか、今の格好、エ…」
「万死っ!!!!」
「ぐはっ!!」
「…懲りねぇなぁ、万年発情期も」

はぁ、と溜息を尽きつつも、ニヤニヤとした顔でライルを見てやれば、うるせぇ、と返される。

「ハレルヤ、貴様も仕事し…」
「しましたよ、仕事」

そう言って、自分の横に出来た資料の山を見せてやれば、豆鉄砲を喰らった鳩のような目でこちらを見ていた。

「…何だよ」
「いや、貴様が仕事をするなんて…」
「俺様はやれば出来る子なんだよ」

じゃ、と手を挙げて生徒会室を出ようとすれば、ティエリア…ではなく、刹那に袖口を捕まれた。

「ハレルヤ」
「何だ?」
「…少し、付き合ってくれ」
「…あぁ?いいけど、」

ハレルヤの了解のサインを受け取ると同時に、刹那はトランザム状態を保ったままのスピードで生徒会室を後にした。

「な、何なんだ…」

残された生徒会メンバーは唖然とした様子でそれを見ていた。





場所は変わって化学室。

「で、何のようだ?」

タイムリーブでもしようってのか?と尋ねてみれば、違う、と首を横に振る。

「ハレルヤ、単刀直入に言う」

珍しく真剣な面持ちで口を開いたかと思えば、彼の口からはありえない台詞が。

「…俺と付き合ってくれ」

…はっ?

至って真面目な刹那。
それに対して間抜けな声を上げるハレルヤ。

まてまて、俺は男。刹那も男。俺達は健全な高校男児。ハム公じゃないんだから、こんな事はありえない。うん、ない!!

「…ハレルヤ?」

一人で脳内会議を繰り広げるハレルヤをキョトンとした顔で見つめる刹那。
結論は出ている。断るのを憚る理由など何もない。

「刹那、」
「何だ?」
「悪いが、俺にそんな趣味はない」

よし、言った。
そう思って心の中でガッツポーズを取るも、目の前の少年からはまた驚きの一言。

「俺だって、そんな趣味はないぞ」
「…はっ?」
「…これを見てくれ、」

そう言って差し出されたのは刹那のシンプルな黒いケータイ。

「…はいはい、なるほどな」

差し出されたケータイの画面に表示された一通のメール。
差出人は不明。
件名は『ネーナ・トリニティでーす!!』。
しかもデコメつき。

「コイツにアドレスを教えていないのに、昨日からメールが来るんだ」
「………」
「放っておけば止むかと思って、放置してみたんだが…」
「………」
「止むどころか、増えてく一方なんだ」

どうにかならないか、と思って考えついたのが、今の状況だろう。

「で、俺はホモです、と言おうとしたわけだな」
「…あぁ、」
「まぁ、大抵の女子には効くだろうな」

大抵の女子には、と付け足してやれば、またキョトンとした顔になる刹那。

「…そいつは腐女子だ」
「ハレルヤ、知ってるのか?」
「知ってるも何も、ミハエルの妹だし…」
「…そう、だったのか、」

というか、事の発端は俺だし。
などと内心、申し訳なさでいっぱいだ。
直接、教えたわけではなく、ミハエル経由なのだが、やはりこんな純情ボーイを巻き込んでしまった責任は重たい。

「…なぁ、刹那」
「何だ?」
「明日の合同会議の時に、向こうの学校のメンバーと仲良くなれ」
「は…っ?」
「無理矢理でもいいから好きなやつ見つけろ」

我ながら無理難題を押し付けたと思ったが、目の前の純情ボーイはこくりと頷いた。

「…そうすれば、救われるのか?」
「あっ、あぁ、」

たぶん、と言うのは喉の奥に戻しておく。
まさか自分の好奇心という名の軽率な行動がここまで被害を招くなんて思っていなかった。

「…そろそろ戻ろうか」
「だな…って、悪い」

ハレルヤはちらりと時計を見て刹那に詫びる。

「先に戻ってくんねぇか?」
「…?別に構わんが…」

刹那の返答を聞くや否やハレルヤは急いで化学室を後にする。
残された刹那は訳もわからず、生徒会室へと戻ることにした。

禁断の恋に発展しなくてよかった、なんて思ったりもしたが、今から行う事の方が禁断の恋に近いのではと頭の隅で考える。
しかし、どうしようもなく甘い関係にハレルヤは自嘲気味に笑い、例の渡り橋まで走った。





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06.平穏(Side:S)

いつもと変わらぬ生徒会風景が垣間見える私立トレミー学院。そしてそこにはいつもにもましてニヤニヤしているネーナの姿があった。

「気持ち悪い」

無口なフェルトが口を開いたかと思えばいきなり毒舌を吐いた。

「何よー?」

ぷくっと頬を膨らまして此方を振り向くネーナ。

「別に…」

フェルトはネーナを一瞥すると黙々と書類に目を通す作業に集中した。

「感じわるー」

「(お前には言われたくないだろう)」

ソーマは心の中でそう呟いた。

「ネーナは何故あんなに嬉しそうにしているのかしら?」

天然ばかりの生徒会室の中でもナンバーワンの天然である会長、マリナは首を傾げた。

「さぁ?」

普段はあまり笑わないソーマがくすりと笑みを溢した。

「ソーマ何か知ってるのね?」

「…」


笑顔を向けるだけで何も答えないソーマ。

「教えて下さらない?」

マリナは楽しそうに尋ねてきた。

「やつの行動を見てればわかるんじゃないか?」

「行動?」

マリナはネーナをしばらく見つめてみた。ネーナは一生懸命メールを打っているようだがマリナにはそれぐらいしかわからなかった。

「特にいつもと変わってないようですけど…?」

そんなマリナを見てソーマはまたクスッと笑った。

「まぁ!ソーマのいじわるっ」

温厚な会長様が珍しく腹を立てた日であった。

「(貴方は今どうしてる?)」

ソーマは橋の向こうに広がるまだ見ぬ光景を思い浮かべ静かに目を閉じた。

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