2008年9月8日 08:22
六は23題《6.小道具・下》<文留> (キサキ)
こちらのサイト様から素敵なお題をお借りしました。
登場キャラ:文次郎+留三郎。
下は文留ちっくだよ!とか宣言しておきながら、ちっとも文留っぽくない件。
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6.小道具・下
自室に戻らない留三郎が何処にいるかは、すぐに見当がついた。
昼間、留三郎を見つけたあの場所。
用具倉庫の陰で、留三郎は一人月を見上げていた。
「……おい」
「文次郎、か」
一瞬、声を掛けるのを躊躇してしまった。その背中には、声を掛けてはならないような雰囲気がある。
おそらくこの場所は、例の先輩との思い出の場所とでもいったところなのだろう。だから、昼間ここを訪れたとき、俺と小平太は拒絶されたのだ。
立ち入るな、ということか。
「形見、なんだってな。あの木槌」
言った瞬間、留三郎がはっと目を見開く。そして、小さく舌打ちしたあと、伊作のやつ余計なことを、と呟いた。
「……昼間も言ったと思うが、俺は怒ってないからな。別にわざとやったわけじゃないんだろう?」
そう言って、留三郎は明らかに裏無理矢理に作ったであろう表情を俺に向ける。
あぁ、らしくない。わざとじゃないから怒れないのだと伊作は言っていたが、もしこれが形見などではなく別の何かであったなら、わざとであろうとなかろうと、留三郎は既に自分に殴り掛かっていたはずなのだ。いつものように喧嘩して、後腐れなくこの件については終わっていただろう。
なのに、壊したものが形見であったばっかりに、留三郎はいつものペースをなくしてしまっている。普段とは違う雰囲気に、どう接していいのか分からなくなる。
怒りよりも、悲しみが勝っている故に、か。
ならば、怒りの方を煽ればいいだけのことだ。
「嘘だな」
「何が」
「本当に怒ってないってのか?大事なモン壊されたのに?」
「わざとじゃないのに怒ったって仕様がないだろう」
本当は。怒っていないわけがないのだ。
大切な物を壊されて。それがわざとじゃないからと、そう簡単に納得出来るものではない。
「その程度か」
ピクリ、と留三郎が反応する。
「お前の大事な形見とやらは、所詮その程度のものなのか」
「……何だと?」
大切な形見を、延いてはその先輩をも侮辱するかのような発言に、留三郎が僅かに憤りを見せる。
「つまり、わざとじゃなけりゃ許せてしまう程度のものだったってことだ」
「……黙れ」
「大体んなもんを後生大事に持ってるんじゃねぇよ。うじうじしやがって…らしくない」
「煩い!お前に…ッ」
そこで留三郎は口をつぐむ。が、何を言おうとしたかは容易に見当がついた。
お前に何が分かる、と。
「あぁ分からないな」
こんなお前など知らない。だから、分からない。
わざと嘲るような口調で言うと、留三郎がギロリと俺を睨んだ。だが、まだ手は出ない。
あと一言。
「ズルズル引き摺るくらいなら、壊れて丁度よかったんじゃないのか?」
言い終えた瞬間、俺は一歩後ろへと後退さった。先程まで自分がいた場所に、留三郎の拳が突き出されている。
あぁそうだ、その顔ならば知っている。俺はニヤリと笑った。
「この方が分かりやすいな」
「お前、とりあえず十発ほど殴らせろ」
「出来るモンならやってみやがれってんだ!」
「上等だこの野郎!」
それから、暫くの間。俺たちは、言葉もなくただ殴り合った。
伊作には冗談めかして一方的に殴られろと言われたが、勿論わざと相手に殴らせてやるほど俺は優しくなんてない。それに、これがいつもの俺たちの形だ。
そうして、どれほどの時間が経っただろうか。
殴って。殴られて。
どちらともなく手を止めて、そのまま互いに背を向けて座り込む。
乱れる呼吸も、流れる汗も。ズキズキと痛む身体も、全身を包む倦怠感も。それらは全て不快なもののはずなのに、心は何故かすっきりとしている。
「……なぁ、バカ文」
「何だアホ留」
互いに、呼吸を整えながら口を開く。
少しの間を置いてから、留三郎は再度口を開いた。
「俺は、あの先輩を越えられるか」
トンっと。その背中が俺に預けられる。
その重さは、不思議と不快には感じない。
「越えなきゃいけないんだ。あいつらに、同じ思いはさせたくないから」
堅い声。少しだけ、張り詰めた気配が合わされた背中から伝わってくる。
あぁ、例の先輩は、留三郎の中にかなり厄介な爪痕を残してくれたらしい。
自分もいつか同じ風になってしまうのではないかと。後輩たちに同じ思いをさせてしまうのではないかと。
それが、不安か。
「越えればいいだろ。お前は生きてるんだ。いくらだって越えられる」
越えて。越えて。
俺たちは、まだまた先へ進める。
まだ、立ち止まるには早すぎるだろう?
ニッと笑って後ろを振り返ると、同じようにこちらを見ていた留三郎と目が合った。
それから、俺につられるようにふっと笑って。
「あぁ、そうか…。そうだよな」
何かが、氷解する。
あぁこいつ、こういう顔も出来るのか、と俺はこのとき初めて知った。
掛けられた体重はそのままなのに、背中に掛かる重みが軽くなったような気がした。
「そういえばお前、明日の放課後は暇か?」
「何だ急に。特に用事はないが?」
「よし。なら町まで付き合え」
は?と俺が返すと、留三郎が背後で笑ったのが背中を通して伝わってきた。
その声はどこか楽しそうで、先程までの重苦しい雰囲気など微塵も感じられない。
「木槌。勿論弁償してくれるよなぁ?」
ニヤニヤと笑いながらであろう、告げられた言葉に、俺ははああぁ!?と声を上げて立ち上がる。と、急に背後の支えをなくした留三郎が後ろへガクンと傾いた。
「てめェ…急に立ち上がるな!」
「うるせぇ!誰が弁償なんかするかこのバカタレが!」
「ほぉ?お前は自分が壊したものを弁償することも出来んのか」
わざとであろうとなかろうと、壊したのはお前だろう?
続く言葉に、俺は言い返すことが出来ない。確かにそれは事実だからだ。
しかし、だからといってこいつの言いなりになるのは癪というか何というか。
「壊したやつが弁償するのは筋だ」
「うぐ…っ」
しかし、今回ばかりは分が悪い。
それから暫く揉めたのち、帰りに団子でも奢ってやる、という留三郎の発言で、俺はとりあえず弁償することを了承したのだった。
やはりこいつは少しぐらい大人しい方が、可愛げがあるのかもしれない。
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明日の放課後は文留でデートだね!みたいな。
そして嫉妬した伊作が文次郎に延々と愚痴攻撃を浴びせればいい。
り、理不尽!(笑)
留さんは後輩相手になら怒ってても我慢しそう。
同輩相手でも文次郎や小平太辺りじゃないと手は出ないんじゃないかな〜と思う。
文次郎と留はこのぐらいの距離感が好きです。拳で語り合う!みたいな。
いや、イチャラヴしてる二人も大好きですがね!(何)
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