2008年8月31日 08:37
六は23題《6.小道具・上》<文,小,留> (キサキ)
こちらのサイト様から素敵なお題をお借りしました。
登場キャラ:文次郎+留三郎+小平太+α。
短篇の
二ノ舞の設定を踏まえて。
まぁ読んでなくても全然OKです。長くなりそうなので二つに分けました。
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6.小道具・上
あれは不可抗力だ。わざとじゃない。顔を合わせれば喧嘩の仲の俺たちだが、故意にあんなことをするほど自分はあいつを嫌っちゃいないし、また陰湿でもない。
そもそも気付かなかったのだ。俺はあのとき、小平太と喧嘩をしていた。理由などもう忘れたが、おそらくは委員会への予算のことが原因だろう。
近くで留三郎が素知らぬ顔で倉庫の壁を修理をしていたのは知っていた。知らなかったのは、その後に起きたことだ。
先にバレーボールをアタックしてきたのは、間違いなく小平太の方だった。俺はその玉をレシーブして、小平太が何故かトスしてきたので、俺は何とはなしにその玉をアタックし返してやったのだ。
そのバレーボールが何処へ飛んでいったかなんて見ちゃいなかった。次に小平太が俺目がけて拳を突き出してきたのだから、よそ見をしている暇などなかった。
そこからは、小平太との取っ組み合いの喧嘩がはじまったわけなのだが。
あらぬ方向から飛んできた拳に、俺は突然殴り飛ばされた。予想もしていなかった攻撃に当然受け身を取ることなど出来ようはずもなく、そのまま真横へ吹っ飛ぶ。
と、留ちゃん?と言う小平太の声が聞こえて、犯人が留三郎であることを知った。この野郎よく分からんが本気で殴りやがったな!張り倒してやろうと起き上がるが、しかし既に留三郎の姿はそこにはなかった。
振り返ると、去っていく留三郎の後ろ姿。多少の違和感を覚えつつあれやこれやと文句を連ねてみるも、留三郎はその言葉に乗ることはなく、そのまま去っていってしまったのだった。
事件はその翌日に起きた。
「潮江先輩!どうしてくれるんですか!!」
廊下を歩いていると、出会い頭に突然怒鳴られた。しかも後輩に、だ。
わけが分からず何がだと問うと、四年ろ組の田村三木ヱ門は涙ながらに言った。
「潮江先輩の所為で食満先輩がユリコの台座を修理して下さらないんです!あぁ僕のユリコがあぁっ!!」
「留三郎が?いやちょっと待て、その前に何故それが俺の所為になる?」
「用具委員に聞いたんですよ!潮江先輩が食満先輩の大切な仕事道具を壊したから、食満先輩が仕事出来ないんだって」
「は?」
本気で身に覚えがなくて、何とも間抜けな声を出してしまった。
仕事道具を壊した?いつ?どこでだ?もし仮に田村の言うことが本当だったとしても、修理道具など学園に予備がいくつかあるはずだ。仕事が出来ないなんてことはないはずだが…。
そんなことを考えていると、ばたばたと複数人の足音がこちらに近づいてきた。
「潮江先輩!食満先輩が部屋の戸棚を直してくれません!!」
「潮江先輩!なんてことしてくれたんですか!!」
「潮江先輩!食満先輩に謝って下さい!!」
「潮江先輩の馬鹿!」
「潮江先輩の阿呆!」
「潮江先輩のギンギン!」
「だー──もうっ何なんだお前らは!」
わらわらと集まってきた後輩たちから一斉に集中放火を浴びせられ、一先ず黙らせるために大声を出す。が、それで一応は黙る後輩たちではあったが、今度は白い目を向けられてしまった。
なんとなく居た堪れなくなって、少しは自分で直したらどうなんだ!と言うと、そこにいる全員が声を揃えて。
「「だって食満先輩にやってもらった方が壊れにくいんです」」
留三郎、お前忍者じゃなくて大工になれ。
頭を抱えたくなった。
「おい文次郎。どうしてくれる」
「……仙蔵、お前もか」
否、頭を抱えた。
とりあえず事情が分からなければどうしようもない。これ以上後輩に怒鳴られたくはないし、もしも己が本当に留三郎の仕事道具を壊してしまったのだとしたら、知らん顔し続けるのも気分が悪いというものだ。
それに、心当たりがないわけではなかった。もし壊したのだとしたら、それはおそらく、前日に小平太と喧嘩したとき。
あのとき、留三郎は何の前触れもなくいきなり己を殴り飛ばした。しかも、あれは手加減なしの本気の拳。常の留三郎なら、先に一言二言あってもいいはずなのに、だ。
食堂でたまたま用具委員の後輩を見掛けたので、話を聞いてみることにした。本当は留三郎本人に聞きたいところだったが、何故か今日に限って一度も顔を会わせていない。
「あぁ、それ多分あの木槌のことだと思います」
「木槌?」
「俺は見てないんですが、しんべヱが昨日、食満先輩の道具箱の中に壊れた木槌が入ってるのを見たって言ってましたから」
どうやら、己が留三郎の仕事道具を壊した、というのは本当だったらしい。しかし、ここでまた疑問点が浮かぶ。
木槌ならば、学園側にもいくつか用意されているはずだが…。
そもそも、この後輩の話を聞くに、壊れたのは留三郎の私物の方の木槌だ。ならば、当然用具委員会へ支給されている方の木槌は残っているはず。それなのに、留三郎は後輩からの修理の依頼を断っている。
というか、あの後輩馬鹿の留三郎が後輩の頼みを断るなどあり得ない事態である。
「先輩、あの木槌かなり大事にしてたみたいなんすよね。えぇ、それはもう大切に」
「な、何だその目は!」
「別に。では失礼します」
その後輩は白い目で俺を一瞥してから、一応は頭を下げて食堂を出ていた。俺は溜息を吐く。
留三郎が後輩馬鹿なのは最早周知の事情であるが、どうやら用具のガキの方も、相当に先輩馬鹿らしい。
それから俺は、留三郎を探して心当たりをあちこち探し回った。あいつの行く場所など大体決まっている。用具の修理に出掛けていないのならば尚更だ。
そして、用具倉庫の陰で漸くその姿を見つける。
しかし、そこには先客がいた。
小平太だ。
「留ちゃん本当にごめん!あのバレーボール、私が文次郎にトスしたものなんだ」
「だからもういいって。怒ってないから」
「本当に?でも留ちゃん…」
「後輩たちに頼まれた修理は明日ちゃんとするよ。今日はただ、そういう気分じゃないってだけだから」
「そうじゃなくて!」
「文次郎も。そういうわけだから、気にするな」
少し離れた場所から二人のやり取りを聞いていたのだが、どうやら気付かれていたらしい。もっとも、隠れているつもりもなかったのだが。
俺が二人に向かって一歩踏み出そうとしたところで、留三郎が気にしなくていいからもう行け、と言った。
あぁ、これは拒絶だ。
いつもとは、何かが違う雰囲気。違和感。
でもその原因が何処にあるのかは分からない。
いっそ、俺の仕事道具を壊しやがって、と食って掛かりでもしてくれれば、いくらでも対応のしようがあるというのに。
いつもとは違うから、対応の仕方が分からないのだ。
だから、俺と小平太は、言われた通りにその場を離れるしかなかった。
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『二ノ舞』からの流れでこの話なので、大体皆様察しはつくかと思われますが。
小道具のお題で思い浮かぶのがこの話しかなかったんだぜ。
下は多分文留ちっく。伊作も下で登場です。
ちなみに用具の後輩は作兵衛。
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