2009年10月29日 21:42
六は23題《14.はじめての×××》<六は> (キサキ)
久々にお題でも。
一年生の頃の、お互いから見たお互いのお話です。
一年生の頃はまだ二人共同室じゃなかった、という設定の下、どーぞっ↓
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14.はじめての×××
背には風呂敷。
中身は落とし紙。
これを廁に補充するのが、僕に与えられた本日の仕事だ。
保健委員となって三日ほど。
まだ慣れていないからと、任されるのは簡単な仕事ばかりだけれど。
それでも、僕にとっては大きな仕事なんだ。
廁に紙がないと困るもんね。
「あ!」
なんて考え事をしながら歩いていると、突然身体が前のめりに傾いた。
どうやら、地面に転がっている石に躓いたらしい。
あ、転ぶ!と思って、目をぎゅっと瞑る。
…けど、いつまで経っても衝撃は訪れない。
「おい」
「……へ?」
背後から、声。
ぱちりと目を開けて、そういえば何かに後ろへ引っ張られてるのに気が付いた。
「これ、支えてる方も結構辛いんだけど…」
「え、わっ!?ご、ごめんっ!」
後ろを見ると、誰かが風呂敷包みを引っ張っていて。
確かにその体勢は辛そうだったから、僕は慌てて体勢を立て直そうとしたんだけれど。
「うわぁっ!?」
「えっ、ちょ、おい!?」
結局、転んだ。
勿論、後ろの子も一緒に。
急に動いたから、足がもつれちゃったんだ。
後ろの子は、それに引っ張られてしまったらしい。
「…〜っお前!」
「ごめんごめんごめんなさいっ!わざとじゃないんだってば本当ゴメンっ!」
「あーもー……お前、確か伊作っつったっけ?」
「あ、そういう君は同じ組の留三郎くん」
まだ入学して間もないから、同じ組の子でも完全に把握しきれていない。
でも、確かこの子は運動が得意な子だった気がする。
あと、転びそうになった僕を助けてくれたから、きっと優しい子。
まぁ、結局転んじゃったんだけど。
「…お前さ、なんで風呂敷手放さないの?」
と、その留三郎くんが心底不思議そうに聞いてきた。
普通あの場合、風呂敷手放して身体支えるために手を前に出すだろ?って。
あー確かに…普段ならそうするんだろうけど。
「だって、中身は落とし紙だもん。もし地面に落として汚れでもしたら、みんな使うときに困るでしょ?」
「…そうかもしんねーけど、お前、勢い良く顔面から地面に激突するところだったぞ?」
「でも、これをちゃんと補充するのが僕の仕事だから」
それに、転ぶのは慣れてるしね。
笑いながらそう続けると、留三郎くんは変な顔をした。
あれ、もしかして可笑しなヤツだと思われちゃったかな…?
「伊作って、変なヤツだな」
あぁっやっぱり思われてる!
でも、そう言った留三郎くんは、本当にただ可笑しそうに笑っていただけだった。
それは、印象的な笑顔。
この時はじめて
お前のこと
放って置けない奴だって
そう思ったんだ。
* * * * *
向かう先は医務室。
入学以来、未だお世話になったことのない場所。
「失礼します」
ガラリと戸を開ければ、途端薬品の独特な匂いに出迎えられて。
顔を顰めながら、先生いますかと尋ねるよりも先に。
見覚えのある顔がこちらを向いた。
「あれ?留ちゃん」
「あ、伊作。そういえばお前保健委員だっけか。…先生は?」
「先生も先輩も今はいないよ」
そこには、最近仲良くなった級友が、一人だけ。
もう少しで戻ると思うけどどうかしたの?と問われて。
取り敢えず、まず用件を話すことにした。
「同じ部屋の奴が風邪ひいたみたいでさ、薬もらいに来たんだけど」
「同じ部屋って……あぁ、そういえば今日元気なかったもんね」
風邪薬ならこれだよ、と小さな包みを渡される。
受け取りながら、ちゃんと保健委員してるんだ、なんて失礼なことを考えていると。
―――ぐいっ
「おわっ!?」
突然、出した手を引っ張られた。
「な、何だよ急に…っ」
「ちょっと留ちゃん、ここ怪我してるじゃないか!」
「…怪我?」
怪我なんかしたっけ?
全く身に覚えが無い。
半ば怒鳴るように言われて、大人しく視線をずらしてみれば。
そこには、若干青く変色している自分の腕があった。
「あぁ、これのことか。昼休みにバレーして遊んだだけなんだけど…それがさ、ろ組チームに馬鹿力のヤツがいて、」
「ならどうしてその時に医務室に来なかったの!」
「え…だって、こんなの別に大したことな…」
「大したことですっ!」
俺が言おうとした言葉はことごとく遮られてしまった。
目の前には、真剣な顔をした伊作の姿。
こりゃ『保健委員してる』どころの話じゃないな、なんて考えていると。
「あ!」
「なっ、おい引っ張んなって…」
「ここにも怪我してるじゃない!」
「だーもうっ!それは昨日のだからいいんだよ!」
「全っ然良くないっ!これは何が原因?」
「……い組にムカつくヤツがいたから喧嘩した」
言うまでは手を放してくれなさそうだったから。
渋々と言ったら、あからさまに大きな溜め息を吐かれた。
ちょっと待ておい。
まさか世話の焼けるヤツだとか思われてんじゃないだろうな。
言っておくが悪いのは向こうだぞっ!
「留ちゃんって、しっかりしてるようで案外そうでもないよね」
だーっやっぱり思ってんじゃねーか!
でも、そう言った伊作は、嫌な顔をするでも無くただ笑っていただけだった。
それは、印象的な笑顔。
この時はじめて
君のこと
放って置けない奴だって
そう思ったんだ。
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お互いにお互いのことを「こいつしょうがないなー」とか「自分が付いててやらなきゃ」とか思ってるといい。
伊作の方はそう思われてる自覚があるけど、留さんの方は伊作にそんな風に思われてるとは気付いてないといい。留さんきっと自分のことしっかり者だと思ってるから!(笑)
でも、そう思ってるのは本人たちばかりで、実は相手が付いてなくても一人でやっていけるという方向性でもいい。
必要としてるのは相手じゃなくて自分の方、みたいな。
おおっとダメだこれ以上妄想を膨らませると二人の友情が歪む!
何故自分が妄想するとこう歪んで行くのか。
歪んでない友情も好きです!(説得力皆無)
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