2011年4月9日 15:55
六は23題《15.フォロー担当》<六は> (キサキ)
注:学園卒業後&お互い別々に活動している設定。
さてはて、何年ぶりのお題だっていう(爆)
何か心暖まる明るい感じの話を書こう→そういや最近六は書いてないよ!→じゃぁ以前から考えていたネタを開放しよう→音楽を聴きながら細かい内容でも練るか→心暖まるコメディータッチな話を想定していたはずが曲に引っ張られて違う雰囲気に。
分かったこと:作業用BGMは計画的に。
いや、書きたかった話自体は変わってないんですけどね!
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15.フォロー担当
―――あぁ、青空が綺麗だなぁ。
遥か上空の景色を仰ぎ見ながら、善法寺伊作はほんの少しだけ現実逃避をしていた。
事の始まりは、今より遡ること少し前。ぽかぽか陽気に誘われて、正規の道から逸れて森の中を散策して回っていたときのことだった。
突然、視界が揺れたのだ。
足下が消失したような感覚があって、それから―――。
気が付いたら奈落の底だった。
…分かりやすく言おう。
つまり、落とし穴に填まったわけだ。
「はあぁ…あり得ない。僕もう“卵”じゃないんだけどなぁ」
“卵”を卒業してから早幾時が過ぎている。既に正式な忍者として活動をしている身だというのに、未だに落とし穴に填まるとは如何なものか。
ちっとも成長しちゃいない。大きく溜め息を溢す。
こういうとき、真っ先に自分を見つけて、悪態を付きながらも助けてくれた人がいたのだけれど。そういえば、もう随分と長いこと“彼”には会っていない。
“彼”は今、一体何処で何をしているのだろうか?
「駄目だなぁ。いくら待ったって、もう来やしないってのに」
学園を卒業してからも、こうして穴に落ちるのは一度や二度ではなかった。落ちる度に自力で穴を抜け出して、その度に一抹の寂しさを感じていた。
けれど、何時までも“彼”に頼り切りではいられない。
“彼”を待つ悪い癖は、もう直したのだ。
「…伊作?」
―――と。
突然降ってきた懐かしい声に、穴を出ようと縁へ伸ばしかけた手が止まった。
声を追うように降り仰ぐ。
目を見開いた。互いに。
そこには、あの日から少しも変わらない“彼”の―――食満留三郎の姿があったから。
穴の下から君を見上げる僕と、穴の上から僕を見下ろす君と。
暫くの間、呆けたように互いの顔を見つめ合って。
漸く相手から放たれた第一声は、耳にタコが出来るくらい聞き慣れたものだった。
「お前、性懲りもなくまた落ちたのか?」
「っぼ、僕だって別に好きで落ちてるわけじゃないよ!」
変わらぬやり取りに、懐かしさが込み上げる。
「はいはい。卒業してもこれってどういうことだ?――ほら、手ェ貸せ」
「落ちる回数はちゃんと減ってます。――あぁ、悪いね」
「減らすんじゃなくて無くせよ」
「それが出来れば苦労はしな―――あ、」
「あ?」
手をしっかりと掴んで、穴の側面に足を掛けた瞬間。
―――ずるっ。
滑った。
それはもう、豪快に滑った。
どれくらい豪快かというと、掴んでいた手の主を穴の中に引きずり落とすくらい豪快に、だ。
ズルズルズルルルルー―――べちゃっ。
「…………。」
「あー…えーと、うん。ゴメンナサイ」
―――目は口ほどにものを言う。
正にそんな感じの視線が、痛いほどに突き刺さる。
ここは素直に謝っておいた方が無難だろう。足が滑った段階で手を離せば良かったんだろうけれど。
正直に言うと、離さなかったのは故意だ。
だって、離したくなかったから。
結局君は、最後には笑って許してくれると知っている。
だからかもしれない。余計に甘ったれてしまうのは。
「―――っはぁ…、やっと穴から出られた。ったく、お前の所為で俺まで土まみれじゃねーか」
「だから本当にごめんってば。……って、ちょっと留、その左腕の包帯どうかした?」
「あぁ、これ?三日くらい前に仕事でやっちまったんだけど、何か見てもらった医者が悪かったらしくてさ、中々痛みがひかないんだよな」
「ええっ?ちょっと見せて」
適当なところに留三郎を座らせて、腕の包帯を巻き取ると、そのまま携帯していた道具で治療を始めた。
「全く何処の薮医者に見てもらったんだか。君は相変わらず無茶ばかりしているのかい?」
「あー…これでも学園にいた頃よりは気を付けるようになったんだけどなぁ」
「そうなの?それはいい心掛けだけど」
「傍に治すヤツがいないからな。お前がいるから大丈夫って、無茶する悪い癖は直したよ」
そう言って笑った君の顔が、少しだけ寂しそうに見えた。
「僕も、穴に落ちたときに君を待とうとする悪い癖は直した」
互いに沈黙する。
けれど、それは一瞬のことだった。
「ま、お前が直しても俺がこうして助けに来ちゃ意味ねぇけどな」
「君が直しても僕がこうして手当てしてたら意味がないよね」
同時にぷっと吹き出して、久々に二人して大声で笑い合った。
どんなに悪い癖だと直しても、結局僕ら二人して世話焼きなんだから。
本当、どうしようもないね。
「そういえば、留はどうしてここを通り掛かったの?」
治療に使った道具を片付けながら、ふと不思議に思って留三郎に聞いてみた。
新たな包帯が巻かれた腕を、確認するように動かしながら、留三郎が言う。
「天気良いいから森の中でも散策しようかと思って。そしたら大きな穴に出くわして、そん中にお前が落ちてた」
「『落ちてた』って君ねぇ…」
「事実だろ?そういうお前はこんな所で何してたんだよ」
「いや、僕もぽかぽかして気持ちいいから、森の中でも散策しようかなって思って…」
「なんだ一緒か」
「何だか運命を感じるね」
「じゃぁまた会うかもな―――お前が落とし穴に填まったときに」
「君が怪我して困ってるときに?」
冗談めかしたように笑いながら言う。
多分、本当にそうなりそうな気がした。
―――このまま別れても、きっと大丈夫。
不安はない。それだけの絆があると、知っているから。
「次会うときは敵だったりして」
「ねーよ。俺はお前の敵にはならない」
「うん、知ってる。僕も君の敵にはならない」
「ああ、知ってる」
卒業したって、それは。それだけは変わらない。
だから、笑顔で。
「じゃぁ、またいつか」
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相手のフォローが無ければ無いで(一抹の寂しさはあるものの)生きていくことは出来るんだけれど、相手のフォローはしたい…そんな感じの二人。
卒業からどれくらい経っているかは、皆さんのご想像にお任せします。
数ヶ月単位でもいいし、年単位でもいいと思う。
因みに初期の段階では、
二人が別々に学園に遊びに(?)来てバッタリ…っていう設定ですた。
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