!友人との会話を元に作った、ぼんやりとした設定の小説です。こへ滝は夫婦・三しろ金は息子。


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「「うわああん!お母さーん!」」

息子の四郎兵衛と金吾が泣きながら私に突進してくる。また、旦那の暴君が始まったのだ。
私はとっさに幼い二人を腕の中に匿い、そして、私はもう一人の息子に視線を投げた。

「危ない!三之助―――!」

しかし、時既に遅し。旦那は三之助の頭上高くまでジャンプすると、にやりと不敵に笑い、
彼の腹部目掛けて強烈なアタックを放った。私は両手で子供二人の目を覆い隠す。

「いけいけどんどーん!」
「うわあああ!」
「「お兄ちゃあああん!」」


* * *


「――だから、三之助を狙うなと言っているでしょう!」

私は旦那を正座させ、行いを責める。彼は良くも悪くも子供のような思考を持つ人で、
子供たちとバレーボールで遊んでは本気でアタックを打って怪我をさせる。
伸びている三之助に付き添う四郎兵衛と金吾は半泣きだが、この光景は日常茶飯事だ。

「だって、四郎兵衛と金吾は滝が庇うじゃん。三之助しか的がない。」
「そもそも、バレーボールは相手にボールを当てる競技ではありません!」

この台詞も何度言ったことか知れない。本音を言えば、私は三之助も守りたいのだ。
しかし、誰かが犠牲にならなくては他が救われない。長男の三之助はその役を買って出たのだ。

私が怒る度に旦那は謝るけれど、いつも平謝りである上に、すぐにけろりと立ち直り、
「もうしない」という約束だって一度も守ったことがなかった。私の怒りは限界に達していた。

「……します。」
「ん?」
「我慢の限界です!離婚します!子供たちは私が育てます!」

旦那は大きな目をぱちくりとさせた後、傍で絶句している子供たちを一瞥して、再び私に視線を戻した。

「子供たちを育てたのは私だ。なんで滝が育てるんだ?」
「育てた?、子供たちの面倒なんてひとつも見て来なかったじゃないですか!」
「お金は私が出してた。」

あんまりな言い方に私は愕然とした。子供を育てるとはそういうことではない。
しかも彼は私が育児に追われてきたことを、子供たちを懸命に育ててきたことを、認めていないのだ。

堪忍袋の緒が切れるとはこのことだろう。私は足早に子供たちの元へ向かってしゃがみ込むと、
三之助を揺すって強引に起こした。そして、旦那に背を向けたまま言葉を続けた。

「子供たちと出て行きます。」

三之助を介護して起き上がらせ、ショックで泣き始めてしまった四郎兵衛の頭を撫でる。
金吾は末っ子だけれど四郎兵衛よりしっかりしているから、泣くことはせず、けれど心配そうに私を見上げた。
私は安心させるべく優しく微笑んでやる。すると彼は小さな手でぎゅっと私の袖を握り締めてきた。
それを私に着いてくる決心と受け取ると、へたり込んでいる四郎兵衛を立たそうとそちらへ手を伸ばした。

「そんなことは認めんぞ!」

瞬間、金吾が視界から消えた。とっさに旦那を振り返ると、彼は軽々と小脇に金吾を抱えていた。
金吾は必死に暴れているが、彼にとってそんな攻撃は痛くも痒くもないようだった。彼は歯を剥き出して笑う。

「金吾は私が貰う!」
「金吾!」
「お母さあん!」

あの金吾が、いつも涙を堪えてきた金吾が、本気で泣きじゃくっている。私は取り返そうと躍起になったが、
体力勝負で旦那に勝てたことはかつて一度もないのだ。結局、まんまと金吾ごと玄関から逃げられてしまい、
自宅には私と三之助と四郎兵衛と、金吾の悲痛な叫び声だけが残されたのだった。私は、途方に暮れた。






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