おりんばあさんと彼女を助けに行ったきり丸が心配だからと、父上は私をきり丸たちの元に遣わした。私を護衛に呼んだということは、父上はきり丸におりんばあさんを守る能力がないと分かり切っていたということだ。それならばきり丸に依頼などせず、最初から私に依頼をすれば済む話じゃないか。しかも聞けばわざわざ授業中にきり丸だけを呼び出し、いつも一緒の乱太郎たちには声を掛けなかったらしい。数がいれば忍たまでも太刀打ちできる可能性があったというのに、父上は何故きり丸だけを危険な目に合わせるようなことをしたのだろうか。そこまで考えて、ある可能性が思い付いた。別れ際の父上の言葉を思い出す。―――不甲斐ない、親にこんなことをさせやがって。てっきり今回の仕事の話かと思ったから、父上に仕事を回して貰わなくとも依頼は舞い込んでいますよ、と冷たく返して部屋を出てきてしまったのだが、まさか、

「利吉さん、どーしたンすか? 顔がタコみたいに真っ赤っすよ。」

父上は私にきり丸に会う機会を、良いところを見せる機会を、関係を深める機会を、わざとくれたのではないか。そう思い当たってしまえば過去の父上の不可解な行動が全てそれに繋がって行き、私はきり丸に顔を見せられないくらいに赤面した。嬉しさよりも恥ずかしさが勝る。私の秘めた恋心が、まさかよりによって父上にバレていたなんて。俯きながら顔を真っ赤にして多量の冷や汗を流す私にきり丸は、熱でもあるんじゃ、と狼狽えている。私は一方の手で火照った顔を隠しながら、その小さな手を強く掴んで握った。そして指の隙間からきり丸の目をしっかり見ながら、大事な一歩を踏み出した。

「確かに熱があるみたいだ。この近くに私の宿がある。きり丸が看病してくれたら、とても助かるんだけど―…」



(ここから先は、私一人で成し遂げてみせますよ。今もなお美女と呼び声高き母上を、父上が射止めたように、ね。)






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