「まだ七松先輩が卒業したことを引きずっているのか。」

滝夜叉丸は、六年生が卒業してからというものの好戦的でも自慢げでもなくなった。七松先輩の底抜けの明るさを重ねているのか昼間は何時間もぼうっと太陽を眺め続けているし、夜になると布団にうずくまり声を押し殺して泣いていると綾部に聞いた。

「七松先輩なんて野蛮なだけだった。なぜそこまで固執するんだ。」

おまえのライバルは私だろう、昔のように私を見てくれ。そう言いたかったけれど、そんな甘い言葉を出せるほど私たちは好い関係ではなかった。と、不意に肩に鈍痛が走る。気付けば、縁側に腰かけていた彼が私の肩を力いっぱい掴み上げていた。

「貴様に何が分かる!先輩を侮辱するな、ふざけるな!」

そのまま私の肩を突き飛ばしてすいと私の横を通り過ぎていく彼に、私は謝ることも引き止めることもできなかった。私は、彼に自分を認めて欲しいあまり、敵―彼の最愛の人―を貶し、先輩が彼に不適切な存在であるかのように言ってしまったのだ。

愛する者の大きさがどれほどのものであるか私は分かっていたのに。愛する者に手の届かないもどかしさは私がいちばん分かっていたのに。私が苦しいように彼だって苦しい筈だったのに。結局、私は私がいちばん可愛くて、彼を傷付けてしまったのだ。



(本当に野蛮なのは私のほうだ。)






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