営業妨害のビスタを怒涛のおまけ攻撃で追い返し(ハンバーグやらコロッケやら、そりゃあ大量に)、どうにかこうにか食堂を切り盛りするおれたち四課は今日も大きなトラブルなく繁盛時を乗り切った。内勤の奴らは十二時から十三時までが所定の昼休みだから、十三時を過ぎれば外回りをしてきた営業部―二課―の奴らが何人か来る程度だ。それは今日とて例外ではなく、話し声から察するにフロアには客は十人といないようだった。

 この時間帯はおれたち四課の昼休みのタイミングでもある。総出で休憩を取り厨房を空ける訳にはいかないので、後片付けを終えた順に休憩に入り、小一時間休んだら次は明日の仕込みを開始する、というシステムだ。今は中堅どころの奴らが十余名でまとまって昼食を取っていて、どうやら今日合コンに行くらしく、何を着ていくか席順はどうするかだなんて下らなくも微笑ましい話題にわいわいと花を咲かせていた。のだが。


「あーあ!四課の奴らは好きな飯作ってりゃ金貰えンだからいいよなァ!」

「おれたちは汗水垂らして営業してきたってのに、四課は合コンの話だもんな!」

「四課も二課も同じ給与なんて、やってらんねー!あいつらバイトで良くね?」


 突如フロアから厨房に向けて投げられた罵声に、部下たちは談笑や作業をぴたりと止め、一斉におれの顔を見る。血の気の多い若手の部下は、顔を真っ赤にして今にも飛びかからんばかりに怒っている。それを両手で抱きかかえるようにして抑え込み、おれは口元に人差し指を当てて静かにするようにと皆へジェスチャーを送る。些か不満げではあるものの手中の男を頷かせ、他の部下たちにも目配せして皆が首を縦に振ったのを見届けてから、おれは壁に身を寄せてフロアの連中から気付かれないようにして外部の様子を伺いに行く。

 すると、やはりおれの勘は当たっていたらしく、そこには八人しか人影が見当たらなかった。一体誰がこんな下劣な真似をしたのかと小窓に顔を貼り付けてよくよく面子を確認すれば、その中央に古株の男―二課課長代理ティーチ―を見付けた。おれと奴は、決して仲は悪くない。それと、見知った顔が、三人。四人も知らない顔がいること、課長代理のティーチがいることから、おそらく新人の引率でもしてきたのだろう。


「ゼハハ。そういや、四課と言やァ知ってるか? 課長のサッチ、あいつァ縁故なんだぜ。」

「えっ!ウチに縁故採用なんてあるんすか!?」

「いや、普通はねえさ。ただ、あいつは社長の甥で、孤児になったところを社長に拾われてなァ。つまり一緒に育てられた副社長とも兄弟同然、って訳だ。特例適用には充分な理由だろ?」

「あ、おれ、それ新聞のインタビューで読んだことあります!確か、副社長も孤児だったところを社長に拾われたんですよね。そのお陰で今やこんな大企業の副社長だもんなぁ…。」

「あーあ。おれも両親いなけりゃ課長だったかも知れねーのかー。」

「ギャハハ!おまえ親殺してくんなよー!? ぼくは孤児です、育てて下さーい、ってか!」


 聞き捨てならない言葉に、身を潜めていたことも忘れてドアを叩き開けてフロアに躍り出る。大きな音に何事かと振り向いた新人たちが、おれの姿を認めて笑顔を凍り付かせて顔を真っ青に染めるのを、ただ冷やかに見下ろした。






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