それから、マルコとエースが距離を更に縮めるのはあっという間だった。何処で待ち合わせているのか知らないが共に出社し、共に副社長室で仕事し、共に国内はおろか海外にまで出張し、共に同じメニューでカフェテリアで食事し、共に退勤して夜の街へと消えていく。気付けば、おれとマルコの時間は週末だけになってしまっていた。

 最初はエースのべったりぶりにヒいていた連中も今や見慣れてしまって何も言わない有り様で、最近ではおれがエースのいない間を狙ってマルコとサシで話そうもんなら「エースは何処行ったんだ?」「今日は可愛い恋人は休みか?」などと逆に心配される始末なのだから、恋人であるおれとしては、もうたまったもんじゃなかった。

 入社式から日に日に疑いは強くなるばかりだ。いくらマルコが浮気をするような奴じゃなくて、エースが抜け駆けをするような奴じゃなくても、流石にこれはデキていると思わざるを得ない。マルコがおれに何ひとつ説明してくれないのが、何より一番堪えた。おれは情けないことに、恋敵であるエースの口から全ての情報を得ていたのだ。




「で、おれも気付かなかった穴を簡単に指摘してくれやがってよい。本当すげえ奴だと思わねぇかい?」

「ああ、そうだな。」

「今まで対等に言い合える奴がいなかったから、刺激になるよい。競争意識、っていうのかねい。」

「そりゃ良かった。」


 酒の力を抜きにしても、最近マルコは随分と饒舌になった。ただその口から出るのはエースの話題ばかりで、おれはちっとも面白くない。こんな会話で美味い酒が飲める筈もなく、おれはマルコの彼への賛美の言葉を聞き流せるようになる為だけに、好きでもない安酒を呷って酔いを求め続ける。こんな発泡酒、旨くもなんともないのだ。

 おれが何も聞かないし言わないから、きっとマルコはおれがこいつとエースの危うい関係を知っているとは夢にも思っていないのだろう。エースもいちいちおれと話した内容をマルコに明かすような野暮な奴じゃない。だからこそマルコはおれに平気でエースの話を振ってくるのだ。……おれが、腹に何抱えてんのか、全く知らずに。


「仕事が楽しくて仕方ねェんだ。休日が勿体ねぇくらいだい。こうやって時間を持て余してる間にも───、」


 ―――“時間を持て余している”。確かにただの宅飲み、されど、二人きりで過ごせる貴重な時間、だ。流石に聞き捨てならず、酔った勢いに任せてちょうど飲み終えたばかりの缶をテーブルへと叩き付ける。するとマルコは肩を大きく跳ねさせ、なぜおれが怒っているのか全く分からないと言わんばかりの間の抜けた表情で視線を寄越した。

 エースがずば抜けて優秀で、マルコがこうして褒めるに価することはよく分かっている。だからおれが様々な面で引き合いに出されず腹が立っても、エースのことばかり話されて嫉妬を覚えても、何も言わなかったのだ。

 それをマルコは、おれと過ごす唯一の時間を彼の話で埋め尽くすだけに留まらず、「休日が勿体ない」「時間を持て余している」などと時間自体を非難し、更にエースと過ごすことを望むのか。じゃあマルコは何でおれと付き合っている? 大事なことは何も話して貰えず、仕事で頼りにもされず、一緒にいたいとも一緒にいて楽しいとも思われず───、


(―――おれは、マルコの何だよ?)






-エムブロ-