なに言ってんの?おまえなんかに恋愛相談がある訳ないじゃん、と兵太夫の顔に深く刻まれた皺がありありと物語っている。自分自身、そんなキャラじゃないことはよーく分かってる。だけど事実なんだ。仕方ない。


「その、伝七が左吉についていけないっておれに泣きついてきてさ。おれを相談相手に選んだのは左吉と仲が良いのと、左吉に負けず劣らず…えと……サ…ドの兵太夫と付き合えてるおれなら解決策が…って……こと、らしくて。」


内容が内容だけに両腿の上で拳を握り締めたおれは、ちらちらと兵太夫の顔を確認しながらしどろもどろに説明した。最初は口をへの字にしていた彼だけど、おれが事実を最後まで告げ終わると脱力した様子で布団へと身を投げる。


「なんだ、じゃあぼくと左吉の勘違いだったって訳!?」
「あ、当たり前だろ!おれが好きなのは兵太夫だけ!っ!」


勢いで言ってしまったが、にやにやと笑っている兵太夫に気付き、おれは今更ながら口を抑えて赤面した。やっぱりおればかりが彼に夢中なんだ。初めて好きと言って貰えたけれど、あれも勢い半分だったのかも知れない。また掌で転がされて──


「…あーあ。おまえの顔がちらついて、左吉と本番できなかったんだよね。…責任取ってくれる?」


……ううん、きっと兵太夫も同じくらいおれを想ってくれている。勘違いで憤怒しても浮気できなかったくらいに。勘違いで傷付いて大泣きしてしまうほどに。勘違いで酷いことをしたおれを許してくれるまでに。

歯を見せて意地悪く笑うその耳が赤いことを認めて、おれは優しく兵太夫に覆い被さり口付けた。あまりに愛しくて思わず微笑みを浮かべれば彼も同じく微笑む。こんなに幸せな口付けは初めてで、この日おれたちが泳いだ布団の海は、今までで一番心地良いものとなった。





後日。兵太夫は伝七から団子の差し入れと共に腕がもぎれそうになるほどに握られた手をぶんぶんと強く振られて心底感謝されたという。兵太夫が左吉を縛り上げたお陰で、ドS一徹だった左吉はMの良さも覚えたらしく性癖が一般的なものに落ち着いたらしい。

しかしそれはおれとて同じことで、初めて身の自由を得ながら兵太夫を抱いたあの日以来、相変わらず彼はドSで傍若無人なものの、おれの抱き方もまんざらではなかったらしく行為中に縛り上げられることは一切なくなったのだった。



かくして二大ドS騒動はめでたしめでたしで幕を閉じたのである。






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