「あれ、孫兵。なんでまたおれの先回りしてんだ?」
「……。三之助が同じとこぐるぐる回ってるだけだろ。ちなみに、さっきも言ったけど、学園はあっち。」
「おかしいな。さっきあっちに行ったんだけどな?」

恋い焦がれている孫兵とふたりきり(まぁ毒虫はたくさん居るけど)なんて理性が保たないから、早々にこの場所から退散したかったんだけど。どう頑張って離れようとしても、おれの意識に反してこの足が自然と赴いてしまうのは、かならず孫兵のところなんだ。

「…おかしい、おかしいよ。なあ、孫兵。おれ、おかしいんだ。なん…で、」
「三之助、なに泣いて、」
「おれ、おまえがどうしようもなく好きなんだ。体が、言うこと利かなくて。頭では分かってるのに、」







「……ごめん。ぼくは、竹谷先輩のことが──」







おかしいのはおれの方向感覚なのか、叶わぬ初恋に打ち拉がれた心なのか。

ぐるぐる空回っているのはおれの行路なのか、孫兵への届かぬ想いなのか。







この日、おれは初めて本当の迷子になった。






-エムブロ-