俺は夜中、急に感じた違和感に眠りから醒めた。全くと言って良いほど身動きが取れないのだ。金縛りか悪い霊の仕業だと思い、確認するため薄らと眸を開く。すると眼前に居たのは予想外にも同室者の伊作だった。

「…伊作。なにして、」
「好きだよ、留三郎。」

そう言って口吸いをされたものだから、俺は珍しく些か混乱した。伊作が俺を好いているのは薄々感付いていた。手足の自由を奪われていることから察するに、こいつは強引に俺の身体を奪う気なのだろう。

「待て、俺は男を抱く趣味は──「うん、知ってるよ。留三郎は男に抱かれる趣味だものね。」

涼しい顔で俺の寝間着を脱がしにかかっている伊作から平然と告げられたその言葉に、俺は金槌で思い切り頭を殴られたような衝撃を受けた。なぜ、いつ、どうして、知られた?

「…文次郎に。頼まれてた薬が出来上がったから部屋に届けに行ったんだよね。そしたら今日は夜間訓練だって部屋を外してた留三郎が文次郎に組み敷かれているんだもの。驚いちゃった。」

あはは、と朗らかな口調で吐かれたその言葉は、全く笑っていない眸によって却って俺に恐怖を植え付けた。俺が伊作にそう嘘を付いて文次郎と交わったのは──つい昨日のことだ。

「ねえ。随分とヨガってたようだけど、そんなに文次郎のモノは気持ち良かった?」

いつの間にか寝間着の大部分を脱がされ、体全体を覆っていた其れはもはや二の腕を隠す役割しか果たしていなかった。俺は身の危険を感じ、力いっぱいに暴れる。

「い、やだっ!文次郎、文次、郎…っ!」
「なんで文次郎の名前を呼ぶのさ。今から留三郎を抱くのは私なのに。」
「やめ、ろ!いやだ、触るな!っ、」
「なぜ泣くの。文次郎が同じことをした時は悦んでたじゃない。なんで、なんでなんでなんで!どうして!?」

わあっと伊作が絶叫し、俺が錯乱し、温かな液体が床に落ちてばたばたと厭な音を立てた。それはじわじわと広がっていき、部屋の床と俺の胸に一生消えない染みを作った。そして、きっと、伊作の胸にも。



(あの晩ほんとうに辛くて泣いていたのは俺か、それともお前だったのか、)






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