「孫兵。俺は、お前の一番にはなれないのか…?」
「ええ、なれません。もちろん、人間では先輩が一番好きですよ。でも、ジュンコ達には適いません。」

正直な気持ちを吐露すれば、見る見るうちに先輩は泣きそうなほどに眉間を寄せて情けない顔になる。

「な…にが、足りない。孫兵の為なら、できることは何でも、できないこともできるよう頑張るから!」
「ありがとうございます。でも、充分です。先輩は僕なんかには勿体ないほど格好良いし、尽くして頂いてるし、先輩に足りないところなんてありません。」

これは、本当です。先輩は僕に、全てを与えてくれました。優しさはもちろん、毒虫以外…人間への愛しさや切なさや恋しさを教えてくれたのも先輩でした。

「じゃあ、何…で…。」
「どうしても、です。ごめんなさい、理由は言いたくありません。こんな恋人でごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさ…っ。」

先輩が、僕だけの毒虫ならば良かったのに。そうすれば、一時も離れず側に居ることだって叶ったし、他の人のところへ行ってしまうんじゃないかとか、任務から帰って来なかったらどうしようとか、こんな風に悩むこともなかったのに。

僕はきっと、本当は貴方が一番好きなのです。でも失った時を考えると怖くて恐くて畏くて、それを、現実を認められないのです。





(そして僕は今日も明日も、先輩は虫じゃないから駄目だ、と尤もらしい言い訳を掲げて、この恋に歯止めを掛けるのでしょう。)






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