「今日の試合、全て三振にしたら付き合ってあげるわ。」

ばかみたい。隼人と同い年の子供が、殺し屋の私に告白だなんて。愛し合うってそんなに簡単な事じゃないの。あんたが私より野球が大事な事くらい知ってるのよ。

山本武の出番。彼は観客席に一人で座る私に目配せをしてからバッターボックスへ入る。次の瞬間には悔しいくらいに見事なホームラン。ほらね、あんたは私より、

「姉さ…ビアンキ!」

もう帰ろうと腰を上げてグラウンドに背を向けた途端、掛けられた声。驚いて振り返ると山本武がバッターボックスに立ったまま此方を真剣な表情で見上げていた。

「すんません。やっぱり俺、野球が好きなんです。嘘でも手ぇ抜くなんて出来なくて……でも姉さんも野球と同じぐらい、この世でいちばんいちばん大好きなんです。」

見ていられなくて私は直ぐに走って学校を立ち去った。鼻の奥がつんとするのは、目頭が熱いのは何故かしら。あんなばかに惚れてしまった自分は、もっと大ばか。






-エムブロ-