「源ちゃん、」

ス、と小気味良い音を立てて戸が開く。瞬間、声の主で在る百舌姉の持って来てくれたお粥の香りが鼻先を擽った。

悲しくて哀しくて仕方がない時でも腹が減るなんざ不謹慎で面倒な身体に嫌気が差したけれど、腹が減っては何とやらだから、取り敢えず俺は俯けていた顔を上げて飯を喰らう事にした。

丸一日振りに口にした飯は、塩気が、強い。滝の様に流した涙が知らずと口内に入って、渇いたのかも知れない。

「…なあ、百舌姉は清蔵と昔からの知り合いだったんだろ?」

「ウフフ。そうね、」

ふと、正座して柔らかく微笑んで居た彼女が、泣くのを堪える様に眉間に皺を刻みながら畳へと視線を落とした。

俺の知っている百舌姉は何時もあっけらかんとして明朗で気丈で、初めて見る其の弱々しい姿に俺は些か狼狽した。

「……誰より強くて狡猾で、同時に誰より弱くてお人好しで、」








『ほんとうにばかなひと』



─おまえが、
俺達の全て
だったのに。







-エムブロ-