遊星にょたの死にネタなので、大丈夫な方のみつづきからどうぞ
昔、ジャンクの山から拾ったひとつのUSBメモリーに残っていた歌を遊星は口ずさむ。
歌なんて興味は殆どなかったが、彼女の声が好きで長い間聴いていた時期があった。それも日々の中から興味も薄れ記憶の端にずっと置き去りにしてしまっていた。けど、メモリーの中にたくさん詰まっていたウィスパーボイスの響きに惹かれるところがあって好きだった。その曲が体の中で流れる。それを何度も、何度も同じフレーズを口ずさみ、外へ流した。
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♪ ♪
遊星はひんやりとした外気にはぁ・・と、息を吐く。いつからこうしていて、いつまでこうしているのだろうか。誰も入ってこない簡素な部屋は西日に傾くオレンジの光だけを受け入れ遊星を照らし出す。このまま、夜がまた来るのだろう。長くこの部屋に居すぎた彼女にはもう、時間の感覚がなかった。昨日まであった確かな記憶もその光と溶けて無くなってしまったようだ。大切な仲間、大切な親、大切な・・そんなものなかったんだ。遊星はただ、この穏やかな部屋にそぐわない血の匂いに無関心を続けていた。
裸の体、血の溢れるそこは子宮を無くして大切な未来を産むことはなくただ、無機質な物と同じになってしまった。散々犯され、果てには狂った男に精処理に使われたソコを鋭利な刃に喰われてしまった。
遊星はもう考えなかった。涙は流しつくしてシーツに奪われて乾燥する。泣いたって元には戻らない。じくじくと今も続く痛みに熱も引かない。体は寒いのに、ソコだけが熱を持って遊星の生きる気力を奪う。
きっと、もう少しで血を流しすぎて死ぬだろう。なら、この部屋で歌でも歌いながら死ぬのも悪くない。大切だったモノたちは咽を通り、フレーズと共に消えていくならそれでもよかった。きっと、自分の中で埋もれてしまうくらいなら外に出して消えたほうがいいんだ。悲痛な悲鳴も、辛苦の痛みも全部歌と一緒に響いて流れてしまえ。
(――ジャック)
全て吐き出して残ったのは愛する者の顔だけだった。幼い頃から共にいた彼は今は遠い存在になってしまった。いや、これからずっと遠くなる。彼は俺の居なくなった世界をどうみてくれるだろうか。少しでも寂しさを感じてくれるだろうか、オレと出会ったことを後悔しないだろうか。
オレが居なくなってもジャックは生き続けるだろう。
「あ、ぁ!・・ッ、」
ジャックを思い出した途端、感情が涙となって、嗚咽となって遊星から溢れ出す。まだ、生きたい!
まだ、ジャックに何も伝えてない。いや、クロウにも、鬼柳にも、今まで一瞬でも共に生きていた皆にまだ、伝えていない。何よりも、人としてこんなとこで死ぬなんて嫌だ。まだ、もっともっと生きていたい。
こんなところで死にたくない、死ぬわけにはいかない!
遊星は熱と痛みに震え、力尽きていた身体を引きずりドアへと腕の力だけで向かう。ベットから落ちた身体がゴトっと鈍い音がしたがそれでも遊星は這ってドアに身体を近づける。もう少し、もう少しだ。此処から出れればきっと助かる。自分が引きずった後に生乾きだった血が掠れて轍のように残る。脚に絡まったシーツも気にせずに目の前のドアノブに手を伸ばす。起こした下半身が断末魔を上げるように激しく痛んだ。その痛みに遊星は小さく嗚咽を漏らす。苛々しながら痛みを訴える身体に叱咤した。こんなモノいらない。切り落としてしまいたいくらいだ。片方の腕で全体重を支えて必死に腕を伸ばす。
ガチャ
「・・ッ!」
ガチャガチャと、なんどもドアノブを捻って体重をドアに乗せる。押しても引いても開かない。なんで、どうして。ここから出られることを前提に考えていた遊星にとってそれは絶望の何ものでもなかった。重い鉄の二枚板のドアに思いっきり叩く。
「誰か、だれかいないのか!鬼柳、クロウ!」
そこに向かって咽が潰れるほど叫ぶ。ガンガンと傷に響くほどに扉を何度も叩く。嫌だ、死にたくない!頼む、誰でもいい。助けて欲しい。頼むー――・・
「ジャック、・・あいたい・・、」
たった数分で遊星は力尽きて扉の前でずるずると崩れ、倒れた。
風に乗って聞こえる
あどけない鍵盤の
西日に染まる部屋は
オレンジの いろ
意味のない言葉を 繰り返し くりかえし
零しては
ジャックが笑って拾ってくれるのを待ってる
もう、半分以上も思い出せない歌詞とフレーズに遊星は最後の力で耳と目を手で塞ぐ。
こうすれば口ずさむこともできない身体のなかで歌が閉じ込められて響いてくれる。燃えるような美しい空も、清と静かに満ちる海も見えなくていい。なにもかも失うはずなのに、身体は不思議と歌で満ちている。
怖くはあった。けど、既に白も灰色も見分けられない目を開けているよりも閉じて歌を聴きたかった。
瞼の闇の中でジャックを思い出しながら抱かれてる自分だけを残して遊星は息を引き取った。
もっと、愛してると言っておけばよかった、な・・
莟のままで朽ちてゆく花は
夢さえもう見れない
咲くことはないの
Opusより
カレンダー
プロフィール
性 別 | 女性 |
年 齢 | 34 |
地 域 | 東京都 |
系 統 | ギャグ系 |
職 業 | 芸術・デザイン |
血液型 | O型 |