ファニー・ヒル








真っ白い窪地に悼む、ねっとりと高湿度なピンクの綻び。
実際、その象徴が眼に映っているわけじゃなかったが、縦にも短い割れめの扉の奥には、すでに脳裏に記憶してしまった禁断の花びらがあった。
神楽の身体の奥にひっそりと息づくその湿った部分に、銀時は自分でもどうしようもないほどの愛着を感じている。
何度抉り犯しても恥じらい深いその白い割れめは、花というより蕾のままでそこにある。何度も何度も絶頂に突き落としても、怒張を捩じ込んで初めて開く蕾──。


綺麗になったそこは、湯上りのせいか、はたまた激しい行為のせいか、少々真っ赤な発色を見せていた。
恥ずかしげもなく、それこそ惜しげもなくさらされる絶景…。またしても喉が鳴った。
じっと見つめていると唾液まで湧いてくる。喉が、首の後ろが、じわりと熱くなってくる。
立て膝の状態でゆるくM字開脚にされた太腿のつけ根…、そこにどうしても視線が向かってしまう。
味わった快感を思い出してか、腰の奥がまたズクズクと疼いてきた。
先ほど吐き出した自らの情慾は……、あの白い美肉の中──、あの隠された赤い秘花の奥、さらには打ち震える少女の胎の最奥にまで存分に解き放ったというのに。まだ…足りないというのか。
あれだけ何度も何度も口でも己自身でも味わい尽くしておいて…。
これではまるで底なし沼。 終わりも未来も知覚できない、ドライエクスタシーのようだ。
重度のドラック中毒者が夢見てやまないという、あれだ。気絶できなくなった女の果てしない絶頂感覚に似ているというが…。
まさしく先ほどまで自分が神楽に強いていた苦しみと紙一重の快楽―――なのだが…、銀時はその認識をどこか抜けた鈍感さでかわしながら、本来の葛藤を続ける。


(──おいおい、たいした深層心理じゃねーの…コレ…?)


もしかしたら、快楽や悦楽といった根源的な欲望だけではないのかもしれない。少女に感じる自分の劣情とは…。
愛情とは別に、抱けば抱くほど、もっと歪な、例えるなら…そう、少女のそこに、妄執にも似た恋着を感じている自分がいる。簡単にいえば“夢中”なのだと思う。さすがに「お前のそこに夢中なんだよ」なんて、真顔で言えやしないが、大切に摘みとり、自らが割り開いたそこに、異常なまでの愛おしさを感じているのは確かで…。
そうして、どれだけ汚しても、嬲っても、弄くっても、いつまでも白く恥じらい深いそこに、あまりに執着している自分に畏れている。


三メートルほど先に見える白い縦スジからようやく視線を解いた銀時は、開け放ったままになっていた冷蔵庫の中を覗いた。
屈みこんだ姿勢がヒヤリとした冷気に包まれる。火照った身体には気持ちよかった。疼きが少し治まったようにも感じた。


「何がいい?」


自分にはキンキンに冷えたビールを一つ取りだす。
安ホテルなのに、それなりにバリエーションは揃っていた。ジュースだけでオレンジに…りんご…パイナップル…と数種類ある。


「なんかいっぱいあるぞ」
「……すっぱく…ないの……」


かすれた声が甘い余韻を浮き立たせる。


「喉、痛いか?」
「 う゛ん…」


今度は恨めしそうな声の調子に、思わず笑った。


「帰りにのど飴でも買ってやるよ」
「ハッカは……きらいアル……」
「フルーツ味のもあるから」
「マジ…でか」
「あぁ……で、何がいいんだ?」
「あまーいの…」


どうやら返事するのも億劫らしく、銀時の背中越しにスルスルと肌とシーツが擦すれる音が響いてくる。
パタっと何かが落ちた音がしたと思うと、「…ん…」としどけない吐息もつづく。立てている膝にさえ疲労を感じたのか。
背後のベッドにくったりと寝転がる少女の様子が目に見えるようだ。


「の゛ど……カラ…カラ…」


仕方なくジュースをひとつ選んだ。とりあえずピーチジュースにしてみる。果汁100%とある。ねっとりしたしつこさはあるものの、火照った喉には優しい味だろう。


「ぎん…ちゃん…」
「ん?」


振りかえると、案の定、くの時になって寝ている。
予想通りの結果に、当然、口角があがった。


「ちょっと、寒い…」
「もうちょっと冷房ゆるくするか?」
「…ん」


見えなくなった秘裂には多少の損失めいたものを感じながら、それでもやはりホッとする自分もどこかにいるらしい。
近くにあったテーブルにビールとジュースを置き、温度を数度調節しながら、銀時は腰に巻いていたタオルで、ジットリと濡れた手を拭った。
設定画面を見ると二十四度。風呂上りといっても狭い部屋にはこれでも少し寒すぎる…か。ピピピと連続して温度を上げる。
すると、


「暑すぎるのはやーヨ…」


いまだ余韻に引き摺られたままなのか、神楽が甘えた声で制止してきた。

『やーヨ』

行為中にも散々聞かせてくれる神楽独特のイントネーション。でも普段…、肌を合わせていない時に紡がれると妙にこそばゆくなってしまう事がある。平常時は「嫌アル」と、はっきりきっぱりしっかり毒舌口調で言ってくれる神楽が、銀時に対して拗ねたり、恥かしい行為を拒んだり───といっても本気で嫌がる時との区別は曖昧で、無視して続行してしまう時も多いが…───二人っきりでいる時にこうした…甘える口調を、無意識にも使ってくれるのは、やはり男としては本音をいえば、かなり嬉しい。
スレているようでスレていない。こうして銀時と付き合い、身体の関係を結ぶようになっても、神楽自身は女の計算高さとは無縁だった。時に、幼い子供が駄々をこねるような、銀時が思わず閉口するような我がままを平然と言ってのけたりする時はあっても…。


「ほら」
「…ん」


ピーチジュースを目の前に差しだすと、彼の手によって丁寧に清められた少女は、しどけない格好のままトロリと瞑っていた瞼を開けた。横着にも自分からはいっさい伸ばそうとしない小さな手が、緩慢にひくりとシーツの上を擦る。
仕方なく、ストローを差したジュースを持たせてやる。


「こぼすなよ…」
「今さらアルそれ」


またしても、恨めしそうな口調で言う。
紙パックのなか、トロリとした白濁のジュースがちゃぷんと揺れるのが妙に生々しい。
銀時は気をそらすように視線をベッドの下へやった。だが、ベッドの下には、数刻前、銀時が無理矢理むしったシーツが打ち捨てられていた。いくら安ホテルだからといっても、これでは後々注意書きが置かれるようになるかもしれない。


まぁ…要するに…だ、それほどシーツの汚れが激しかったということ。


大きなベッド自体もズレが激しく、右後方に20センチは飛び出している酷い状態だった。どうせ金を払っている部屋だし、といえばそれまでだが、でもいちいち直すのは億劫で、銀時は染みになっていない箇所…なるべく神楽にさわれる範囲のベッドの隅に腰を下ろし、白く滑らかな少女の背中を眺めた。
カバー無しのベッドは濃いチャコールグレーの下地一色で、そこに寝かされた細い肢体はまだほんのりと桜色に染まっている。
ぐったり投げだされた四肢から立ちのぼるのは、微かに空気を曇らす湯気。ホカホカ…といった表現が良く似合う。
コクコクと咽喉の鳴る音に、もう一度神楽を見やった。


「美味いか?」


飲みながら首を傾げる仕草がつたない。


「やっぱ甘すぎる?」


少し考えた後、今度は首をふって否定する。それも稚い。


「…ん、…ちょっとだけ、 濃いアル」


湯冷めしないようにとベッドの縁に追いやられていた薄い掛けシーツを引き寄せた。が、何を思ったのか、いったん神楽からジュースを取りあげた銀時は、それを手で追おうとした彼女を強引に腕に抱きあげシーツの上に乗せてしまった。そして蓑虫のようにくるりと巻き込み、ぽんぽんとシーツをさする。


「これで風邪ひかないだろ」
「ジュース飲めないヨ…」


…あ、そっか。


「ほら」


シーツごと自分の膝の上に横抱きにして、苦笑いながら、可憐な唇に飲み口を寄せてやった。
銀時自身喉は渇いてはいたが、やはり優先順位は少女への労いが第一になってしまう。


「…ん…んっ……ぅんっ……」


喉を鳴らして勢いよく飲むようすを、静かに見守る。


「ゆっくり飲めって」
「…ぅん……ぅん……」
「ほら…」
「んぅぅ……」
「咽るから」
「ん…んっ…んっ…」
「こら!」


言うことを聞かないので一度離す。


「っけほッ……ゲホ…ゲホ…!」
「あー言わんこっちゃねえ」


口許を拭ってやる。べたつく親指を舐めると、舌の上には予想以上の甘さが広がった。
我知らず眉が寄った表情のまま、都合よく嗜めた。


「また風呂に入る破目になんぞ」
「ぎんちゃんが遅いからイライラするネ」
「急ぐ必要ないんだから、ゆっくり飲めばいいじゃねーか」
「喉渇いてる時はゴクゴクいきたいアル」
「じゃ、自分で飲むか?」


そう訊ねると、神楽はしばし黙ったあと「やーヨ」と唇を尖らせてきた。
下唇が拗ねたようにキュッとすぼまって上唇に隠される。


「飲ませて欲しいなら素直にそう言って…」


ため息交じりで答えると、さらに拗ねてしまったらしい。






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08/18 16:40
[銀魂]




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