「銀ちゃんが人を簀巻きにしたんデショ」


桃色に染まっりきった頬がプイっと横へ向いてしまった。もちろん銀時の胸元から反対側へ。
また少しこそばゆい気持ちが浮上して、オプションで──このままもう少し苛めてみるのも楽しいかな……なんてことも思う。
でも機嫌は損ねたくない。できるなら甘えさせてやりたい。もっと、素のまま、神楽が望むままに…。
その性格以上に複雑な生い立ちも原因してか、肝心の部分では強がってばかりで他人に甘える事を知らないまま過ごしてきた少女には、普段からこうして甘えさせてやることが大切だと、それが自分の役目だと、銀時は思っている。
慣れさせておけば、いざという時に神楽の弱音ごと包み込んでやれるだろう。取りこぼすことなく。いや…何一つ取りこぼしたくなどないのだ、自分は。だから、出来ることなら精一杯甘えさせて、時に人に頼りきることも大切だと知らしめたかった。
そこまで考えて、銀時はいつもながら自覚せざるを得ない自らの心の裡を受け止める。
……大概、惚れている。
もう自分でつっこむ事さえ煩わしいほどに。ちゃんと認めている。
もはや自分の心が完全にこの少女に跪いているのはわかっているのだ…。


「ほら…」


ぶっきらぼうながら先に折れてやった銀時は、もう一度小さな口許にジュースを運んでやった。
するとおとなしく唇を開きながら、じっと自分を見つめる瞳が二対。


「…なーに?」
「ホントは、銀ちゃんが飲ませたいんデショ」
「………」


咄嗟に息を止めたのは、脳内で変換された愚かな言葉たちと対抗するためか。


『―――…銀ちゃんのを飲ませたいんデショ?』


…一瞬そんなふうに聞こえた自分が怖ろしい。いや、ホント。

「何を?」とはさすがに返せず、一人ノリツッコミの勢いでぶんぶん否定に走る。もちろん脳内で、だ。
しかし、ふしだらな事を考えたバチがあたったのだろうか…。


「あ、そっか。これも一種のリアルままごとアルな……」


何を納得したのか神楽は一人うなずきだしている。


「……は?」


ついていけなくて思わず声が上擦った。さすがに先ほどの名残もあったが…。


「だから、私が銀ちゃんのお人形ってことヨ。 …ほら…ちっちゃい子が人形と一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たり、強引に食べ物詰め込んだりするダロ? それと一緒ネ。大人になってもそんな倒錯癖のある男っているらしいし……」


だから銀ちゃんもたまにこうやって私をネコ可愛がりするアルナ。なんかちょっと普段とのギャップについてけなくなる時もあったけど……これで納得アル。しかも、こんな歌もあったよネ、なんて言って歌いだす。


「青〜い目をしたお人形さん♪  星海生まれのセ〜ルロイド〜、星海生まれのセ〜ルロイド〜♪」


クスクス微笑う。いや、笑われてる…のか?


「………………神楽」


「ん?」
「…冗談 だよね?」
「ウン」


即答されて、安堵以上に虚脱感が上まわった。
遊ばれるのはいつものことだ…。それは認める。そしてもう慣れた。だから許す。
……しかし、しかしだ! 無自覚ながらも神楽から放たれる言葉の毒は、時に想像を絶する場合がある。
今回もそうだ。…だいたいが、いい年した大人の男が恋人を人形遊びの延長として扱うなど…酷い…性的障害だろう…。
もしくは現実を受け入れられず、勘違い甚だしい認識能力の欠如により作り上げられた逃避野郎といったところか。……。
いくら冗談だからといってそんな特異な例に当てはめられた銀時の受難は計り知れない。
酷い。あまりに酷い。
悪気はないのだとしても、酷すぎる。悪気がないからこそ、さらに罪深い。


…とはいえ───…、人形のような精巧さを誇る神楽に言われると、いっさい銀時に非はなくとも、一種の罪悪感に苛まれてしまうからよろしくない…。理不尽とはこれまた然り。
もしかしたら自分の奥深くにそういった願望があるのではないか……なんて、一瞬、思い込まされそうになる不毛にも囚われて―――…。
あながち、ぐちゃぐちゃに蕩けきって肉人形のようになった神楽を平然と貪ってしまう時もあるので、全否定は出来ないのが銀時も心苦しいところではあるが……。









「あのねぇ……」


それでも、危うく変質者の気持ちを理解させられそうになった今回は…さすがに…。


「おま―…
「銀ちゃん、ジュースっ」


言いかけた言葉は淡く開いた桜色の唇によって遮られ、そしてこれまた無意識なんだろう、桃色の舌をいささか突き出すようにして銀時を見上げてくる。
そんな神楽に、銀時はどうしようもないほどの業の深さを感じずにはいられなかった…。
子供っぽい仕草のなか、舌だけが淫らに光って見える。薄く小さな桃色の先端がくいっと曲がって、上前歯にくっつく。
特別、自分がそういう目で神楽を見てしまうからだろうか?
だが、その絶妙なアンバランス加減は、打算なしの天然ゆえハマッた時の衝撃がことさら大きなものとなる。
恥ずかしながらストライクゾーンだった神楽のそれに、もはや銀時のつまらない文句など続くはずもない。


「ちょーだい」


膝の上に横抱きしている神楽がまた舌を出す。
今はサーモンピンクを取り戻したこの小さな舌が、苺のように赤く熟れるのを銀時は知っている。その熱いヌメリが自分の舌に絡みつく感触を鮮明に覚えている。時に銀時の肩口に噛みついたり、首に噛み付いたり、背中に、足に、…。そして、
アレを慰撫するかのようにチロチロ舐める。その感触を憶えている。


「銀ちゃん?」


男を知った少女だから淫らに見えるのか、これが計算ずくなら悪魔に等しい。


「ジュースは?」
「ぁ、おぉ………あー…でも、もうぬるくなってんじゃねーかコレ……新しいの飲むか?」
「ミルクは人肌が一番アル」


ニヤリと意地悪く笑う鼻先を、銀時は今度こそお仕置きとばかりにキュッと摘まんだ。


「まだ言ってんのかオメーは」
「だって、銀ちゃんってからかうと面白いネ」
「っるせーよ」
「かわいい(笑)」


銀時がぐっとつまる。


「…ばか」
「照れてるアルナ?」


照れてないから。


「…ッ……ばか」
「っていうか…早く。 …喉…カラカラヨ…」


ひとつあからさまにため息を吐いて、ゆっくりと飲み口を傾けた。


「ほら…」
「ん…」


開いた口内にトロトロと濃厚な液体が吸い込まれていく。
今度こそ大人しく銀時に従った神楽は、そろりそろりと流し込まれるジュースをゆっくりと味わう。




部屋と中身との温度差で、缶の表面にいっぱい水滴をつけたビールをそのままに、銀時は神楽に潤いを与え続けた。
傍から見れば、まるで親鳥が雛に餌をやっているような光景。そこには濃密な官能が隠されている(ようにも見える)。
恋人同士において食べ物を食べさせるといった一連の行為は、心理学的にも性交に象徴される事がしばしばある。
官能と結びつけられても何ら反論はできないのだ。
…ただ、神楽に出会って振り回されながらも世話を焼く行為に慣れてしまった銀時には、他人から見ればゲロ甘な行為であっても、彼にとっては自然な行為であったりする。もはや甘やかすこと=与える行為には慣れきってしまっていた……。
といっても神楽限定ではあったが…。
それは、与えられることを臆することなく受け取れるだけの成長を、彼女が遂げたということでもある。
江戸に来て、銀時と出会って、こうして他人である誰かに大切にされる心地よさを知り、他者からの影響を受けて、自分の内面を作り変えていけるだけの余裕が生まれたのかもしれない。
―――ただひとつ言えば、与えられるその上で、奪うようにも貪られるのだ。
どろどろに甘やかし、ぶっきらぼうながらも与えるのは当たり前…みたいな愛情で包み込む。そのくせ、時に幼い彼女が畏れるほどの行為を強いては奪っていく。それも平然と…。
コントロールが不可能なわけではない。要するに落ちていくのを自覚しながら、抗わないだけだ。抗えないから。
自らの行為に酔うように貪るのも、また銀時という男だった。
毒をもって毒を制すとはよく言ったもので、その一点に関しては実は神楽以上に猛毒を振るっているといっても過言ではないのだ。
そして、自分の行動を反省しつつも、それが猛毒だと自覚が無いのだから、彼もとんだ困り者ではある所以であろう。


といっても銀時は、何も初めから男の欲望を突きつけるようにしてこの少女を抱いたわけではない。
これでも初めは、壊れ物を扱うようにそっと、そっと触れて、出来る限り優しく抱いていた。


触れることすら怖かったほどなのだ。まさに…そう、細くて、白くて、綺麗で、どこをとっても繊細で、そうしないと本当に砕け散ってしまいそうだったからだ。
でもいつの間にか行為はエスカレートの一途を辿り、地球人より些か頑丈な体ということもあって、今じゃ幼子のように泣きじゃくり、瀕死の小動物を思わせる悲鳴を吹きこぼす神楽を見るたび自制が効かなくなっている。
この大胆で不遜な態度が異常に良く似合う彼女に、心底まいっている。
ギャップが激しすぎるのも原因だと思った。何より、普段の神楽と、行為中の神楽は、あまりにも違う…。
たとえば、今もこうして銀時の前でしどけなく仰向けになったままの神楽は、いくらぐったり疲れているといっても、専横な態度を改めない。


「銀ちゃん、ちょっと暑いヨ…」


ピーチジュースを飲み終わったその口が満たされた表情のなか、甘い吐息とともにひらめいた。
シーツのなかで数度身体を捻った震動が、銀時の腕にもダイレクトに伝わる。


あぁ…改めて思う。


可愛いなって。










fin






最初、パス認証制にしてたんですが、エロ度の基準が自分でもめちゃくちゃだなと思ったのでやめました。ラブラブな事後ネタって恥ずかしいんですよね。裏にupしてたんですが、表でもいけるかなって。



08/18 16:40
[銀魂]




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