曖昧な冷ややかさ








就職しやす、俺。
と、沖田の唇が動いたとき、神楽はささやかに小首を傾げた。


「就職するって……まだまだホストで稼げるのに、どうしてそんなこと急に言いだすアルか」


神楽は半ばあきれて目の前にいる男にそう尋ねた。


「いつまでもホストなんてやってられねェでしょう。 そろそろちゃんとしねーとなって…ねィ」


神楽が黙っていると、沖田はニヤリと笑って続けた。


「もちろん、あんたが辞めないで欲しいって頼めば、俺ァずっとここにいやすぜ?」


沈黙を、自分が売れっ子を失くすのを不安がっているというふうにでも取られたらしい。


「いいのヨ、私のことなんて気にしなくても。就職するっていうんなら、別に止めやしないわ。就職が決まったらお祝いしてあげる。 スーツとか、まともなのある? 買ってあげよーカ?」

「………」


うろたえたような顔になった沖田に、神楽は嫣然と微笑みかけた。


「なぁに?」
「これ以上、世話になるわけにはいかねーよ」
「あら、遠慮しなくていいのヨ。 私の気持ちなんだから」
「そういうんじゃなくて……」


ソファに腰掛けた沖田は、しばらく膝の上で指をこすり合わせ、睨むようにして神楽を見あげた。


「男の意地みたいなもんでさァ」
「……意地?」


またしても首を傾げた神楽に、


「だから…っ、女に世話になってばかりいられねーだろィ。 俺、男なんだし」
「……そうアルか? だって今までホストとして散々稼いできたのヨ、オマエ」
「でもこれからは少しずつ、普通の奴になろうって思ってんでィ。 いろいろもらいすぎたりしたら金銭感覚狂っちまうし……」


沖田は大きな眼を見開くようにして神楽に語りかけてきた。


「ほんと、いらねーから」
「そう。 えらいアルネ」


神楽が微笑むと、


「…そんな子ども扱いみたいなことも、言わねェでくだせーよ。 俺、ちゃんとこれから普通に社会人になるつもりだし…」


沖田はそう言うと、カウンターに座る神楽の足もとにひれ伏し、美しい足の甲に接吻けた。
神楽は、このひねくれた信望者の唇を笑って赦した。






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04/22 19:25
[銀魂]




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