ジョゼと虎と魚たち -1-







ポーチになっている玄関先の欄干に座って、神楽は傘を片手に、チリン、チリン…
と足を揺らしながら通りを窺っていた。
スカイブルーに、鮮やかなピンクのチェリーが入ったカクテルグラスのプリントや、白い筆記体の英文字が全面に施されたチャイナドレスは、短い裾がフレアシルエットで、アメカジな可愛らしさと少しの色気にあふれている。素足には同じみのシンプルな黒いチャイナ靴を、その足首にはさりげなくチョーカータイプのアンクレットを飾りつけている。水色のサテンのリボンに、金色の小さな鈴のチャームがぶらさがったものだ。先ほどから微かに聞こえる鈴の音は、少女の踵の上から奏でられたものである。
美しい薄紅色の髪には、服と同じスカイブルーのサテンが可愛いお団子カバーがかけられていた。フリルのところにこれまたチェリーピンクの細いリボンを下で結ぶかたちだ。風に吹かれるたびにリボンの端がふわふわゆれている。全体的にもかなり目立つスタイルだったが、むしろドラマチックで、この少女にはよく似合っていた。
道行く人々の何人かはそんな愛くるしい神楽を見つけては、微笑んだり、少しねちっこい視線で見上げたりして、たまに声をかけたりする者まで出てくる。


ふと、少女の瞳が鏡をはったように美しい膜を作った───。




「…銀ちゃん!」




角を曲がってきた男に、欄干から落ちそうになるのもかまわず手を振っている。
半日ぶりに会えたこの瞬間から、たちまち空白の時間が繋がってゆくようだ。


「自殺ごっこヨ! 受け止めないと死んじゃうからナ♪」
「ちょっ…ちょぉおオオオオ!!」


建物の下に着くまであと数メートルといったところで、神楽がぴょんと飛び降りて、慌ててキャッチした銀時の腕のなかでキャッキャッと笑った。


……頼むから、周囲の目もちょっとは気にしてくれ…と言いたい。


いくらだらしない性格だからといっても、やはり外聞は大切だと銀時は思うのだが…。
このどこまでも自由奔放な少女は、周囲の驚愕の目や白けた空気といった痛々しい現実など意にもせず、今さらだとそれも笑うのだ。確かに今さらだなと、銀時も苦笑ってしまう。
神楽をそっと地面に下ろした彼は、周囲の奇異な視線の中で、自慢の幼妻(といっても許嫁だが)を見下ろして手を繋ごうとした。家までの短い距離だったが、スキンシップは見せびらかしたい。だが、それを無視して、神楽はその場にとどまっている。


「どした?」
「散歩」
「ん?」
「散歩行きたい」
「えー…」


徹夜仕事から帰ってきたのに、この我儘は酷いんじゃないのと思ったが、神楽がオシャレしてることを考えると、銀時は嫌な顔はできなくてうっすらと微笑った。


「いいよ」
「ほんと?」
「どこ行きたい?」
「わかんない!」
「とりあえずブラブラするか?」


そう言って、銀時が通りに歩き出すと、


「うん♪」


小さな鈴の音が今度こそあとから尾いてきた。


「……おーい」
「うん?」
「隣来いよ」
「やーヨ」
「………」


まさか今さら照れてる訳でもないだろう。振り返ると、神楽が楽しそうに銀時の歩いたブーツの後を正確に辿っている。


「何してんの…」
「尾行ごっこ♪」
「…ったく、ホントに好きだなその遊び」
「うん♪」


とりあえず神楽が上機嫌なのが嬉しい。歌舞伎町を抜けて、それから向かう先を考えればいいかと思っていた銀時は、神楽をそのままにさせてゆっくりと歩いていった。







美しい夏のあやうさ








more
04/23 16:58
[銀魂]




・・・・


-エムブロ-