君が天使だったらよかったのに







なまじ男のプライドなどてんでわかっちゃくれない。
どこまでも純粋に、ひたむきに、一途に、想う。
想われた方にとっちゃたまったもんじゃないんだ。


(ああいう女を愛すると、苦しいだろうねェ…)




聞こえてるよ、おまえらの声。






"Sorry" like the angel heaven let me think was you.







「しかしあの子も綺麗になったもんさね」
「あん?誰」
「ときどき女の私ですらドキリとしちまうよ」
「だから、誰」
「神楽だよ。アンタもそう思うから心配なんだろ?」
「…──」
「もう十五歳かい。すぐに子供ってのは大きくなるもんだねェ…」


ただ含みのある一言をおいて、お登勢は口を噤んだ。

成長期にある神楽を思い出し、実の祖母のようなことを言うこの階下の女主人は、銀時に困ったように目を細める。
これまた実の息子のように自分に目をかけて世話をやいてくれるお登勢は、じっさい彼自身よりも銀時のことをわかっているのではないかと時々おそろしい。


言いたいことはわかる。身内贔屓の欲目じゃなく、同性から見ても、さぞかし神楽は美しく成長しているんだろう。本当に、そう思う。昼間、開店前の店を手伝わせるようになった神楽を、誰よりも女扱いしてやっているのはこのお登勢なのだ。
じっさい給料など支給されたことのない神楽に、おこずかいと称して駄賃さえ与えている。それでお洒落なものでも買って、ちょっとは女らしくしなと、年頃の娘を慮っている。どうしても男二人では限度がある気遣いに、そうしていつも見守ってくれている。
お節介なババアだと、あらためて銀時はフンとそっぽを向いた。…おもしろくない。
神楽に初めて女の日が来たときも、神楽に初めて上の下着をつける注意を施したのも、男としてやりづらい教育はすべて保護者代わりの銀時に代わってお登勢が助けてくれた。神楽もそんなお登勢を慕っているし、むしろ一番怒らせると怖い人間だと理解しているため、銀時よりもよく言うことを聞く。だから銀時には言えないようなことも、彼女には言っているのだろうと、そう思うと少し複雑な気分もして、なんとなく彼女が神楽を褒めるとき銀時は落ち着かないのだ。


例えるなら、何ともいえない申し訳なさと、気まずさ。
家族同然なのに、限りなく他人に近い。家主という肩書きがあるぶんだけ、悪質と言える。


だからこそ、その一言一言にも余計敏感になってしまうのかと。



最近、底知れない不安を抱いている。
失ってしまうもの、失ったものの大きさの輪郭を、これまでになく感じ取ってしまう。



ああ嫌だ。

胸騒ぎがする。




『───銀ちゃん、バイバイ』



そう言うや否や来たときと同様に、颯爽とこの場所を後にする神楽を、自分は止める術もないだろうから…。


不安と焦燥。


神楽が去った後残るのは、何だろう。
張り裂けるような孤独と、日常…?


けれどそれは、今の不安なんかに比べたらずっと些細なことのように思える。
自分の根底を覆すような、本質的な恐怖を、嫌というくらいにひしひしと感じた。
だれでもいいから、嘘だといってくれればいい。
気のせいだよ、そういってくれる相手が欲しい。
誰も、彼も、皆がそろって、知ったような目をするものだから、途方に暮れる。


だって、どうすればいい。
俺が神楽を繋ぎとめれば、誰もそんな目で俺を見ることはなくなるのだろうか。失望を見つめるような、そんな目で俺を見ることはなくなるのだろうか。はじめて、何も応えられない自分を憎み、同時に哀れんだ。


会うヤツ、会うヤツが時おり同じような目で銀時を見つめる。きっと、悪気はないんだろう。けれど、その負荷は言うまでもなく銀時を苛む。彼らの反応は、自分の鋭い察知能力を掻い潜るには、拙すぎた。切実故に、辛辣に、銀時の心に上手に傷をつけていく。
そんな悲しい目をして、本当は一体、誰を哀れんでいるんだろう。訊ねてみたいような気もするが、きっと望んだ応えは返ってこない。
知りすぎることは、罪だ。
それを、皆、痛いくらいに知っているのだ。




いつかくるその時
サヨナラの為に










fin




みんな、神楽ちゃんが居なくなった後の銀さんが目に見えるんだろうなぁ……と。

"Sorry" like the angel heaven let me think was you
「天国の天使が私に教えてくれたの、かわいそうなのはあなただった」




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02/09 18:50
[銀魂]




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