土方は立ち上がり、自分の肩までの背丈の神楽を見下ろした。そうして苦しげに、微笑った。こみ上げてくる熱いものが、やや肉の薄い彼の頬に、深い、愛情の窪みを造っている。白い歯が剥き出にされた、だが声のない、むかし銀時がしていたような、胡桃を歯で割る人のような微笑いだ。寂しい微笑いである。
土方は、薄くて体に纏いつくようなシャツを嫌い、暑い盛りでも厚地の木綿のものを着ている。それは彼をよく引き立てるなりであって、それが彼の身についた、生来の美的感覚の現れであるのを、神楽はどこかぼんやりと認識していた。彼は厚地のシャツに、これも厚い隊服のズボンを履き、外出をする時には、しまってある上等の革のバンドを締める。厚地のシャツのために、逞しさが強調されて見え、また誠実は、温かいというより厚い、といった方が当たっている彼の心情は、その厚い木綿の襟の間から見える厚い胸板に、いつも深くしまわれているように見えた。
神楽はしばらくの間、立ち去るのが厭な様子で、そのまま、魔のような目で土方を見つめていたが、ふと、少し熱くなっているような、泣いたためにちょっと膨らんでいる唇の端を、幽かに吊り上げて、小さな微笑いを見せ、土方の目を覗くようにすると、背を向け、後も見ずに駆けて行った。
土方は、薄いカナリア色の夏服の神楽が見えなくなると、ベンチに腰を下ろしたが、ひどく疲れたように思った。甘い花の香りのようなものが、無意識のような中で漂っていたのが、再び燃えはじめた炎のように土方を襲い、土方はしばらくの間、膝に肘をつき、俯いてじっとしていたが、暗い額を上げ、唇を固く結ぶと、立ち上がって公園を出た。


この小さな事件は、土方の胸の中の熱いものに火を点け、ようよう、鎮まっていた彼の胸の中を荒らす結果となった。
土方にとって強い刺激を持ち、誘惑の罠に充ちていたこの場面は、その夜も、あくる日も、また次の日も、幻のように土方の前に現れて、当分のあいだ土方を苦しめた。
だが土方は耐えた。
この、土方にとっては火の場面ではあっても、神楽にとってはほんの小さな出来事に過ぎない一場面は、やがて土方の胸の中にだけ、深く落ちて沈んで行って、彼の胸の中の大切な宝石かなにかのようになって、残るだろうと思われた。事実、そうなりつつあることが、神楽から聴いた簡単な話から、様子を察した銀時の目にも明らかであった。


神楽に、哀れみというものを教えようとした銀時の試みは、その後幾分の効果を現わしたかのように見えたが、それはその当時、神楽の態度が幾らか変わったようにみえた位で、結局は、曖昧模糊の内に終わったようである。神楽は生来、自分自身のこと以外は頭に思い浮かべても、すぐ忘れてしまう人間だった。
神楽は、銀時に厳しい目で見られた瞬間、銀時は自分のやることなら、どんなことでも許してくれるのだという、生まれぬ前から持っていたような自信がぐらついて、驚愕したものの、その日の内に、前より以上の強い自信を抱くようになった。
神楽は、当分の間、銀時の見る前でだけ態度を変えていたのだが、銀時はどうやらそれに気づいているらしいのにも拘わらず、前にも増して自分に溺れている。銀時はそんなズルさをも一つにひきくるめて、自分を愛しているのだ、ということを神楽は覚った。狡猾をもひきくるめて、神楽を愛する、というよりむしろ、そんな神楽に、かえって、より以上の溺愛を深めてきていることを、神楽は見て取ったのだ。










fin





Clean Bandit/Solo
抱かれたいのに、わたしは失意の中にいる
泣いているのに、体は求めている
触れたいのに、誰もいない
ここには、わたし一人



Japan Editionの舞子さんが踊るPVが好き。





07/16 18:54
[銀魂]




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