アドルフ







肉体的な愛が精神的な愛と結びつくことはごく稀である。
一個の肉体が他の肉体と結合するとき、精神はいったい何をしているんだろう?

縁もゆかりもない二個の肉体が結合することは別に珍しくはない。それに心の結びつきだってよくあるらしい。
だが肉体が自分の精神そのものと結びついたり、肉体が精神と激情を分かち合えるなんて、はなはだ稀なことだ。そう思っていた。








どうしよう、地獄におちそうだ








心に描いている願望とか、理想どおりに現実を作り変えてしまう信じられないほどの人間の才能に、銀八は自分でもすこし唖然としていた。




……やってしまった。


やってしまったのだ。
とうとうしでかしてしまった。
だが、ためらわずに自分の真実をすでに受け入れている。
そのためには、たとえば銀八にとってきわめて大切なもの、神楽と神楽の愛の行為自体を、その考えのために危険に曝してもかまわないというのだ。
彼は神楽を歪められた形でしか想像できないのだと、再度自分に言いきかせた。
この実行は時には銀八の心を掻き立てもするが、多くの場合、神楽を不快なほとんど嘔吐を催すところにまで追いやってしまうだろう。




ひどく残酷で愉快な気分で、少なくとも銀八は神楽が、こういう自分を受け入れてくれてよかったと思う。
そうでなかったらどうなっていたか…

自分でもよくわからなかった。


数時間前──。頬を紅潮させ眉をよせた悩ましい少女の顔を銀八は眺めていた。
彼はその顔の上に掌を置いた。さながらいろいろと向きを変えたり、ひっくり返したり、粉々に砕いたり、圧し潰したりすることができる物体の上に置いたように。
その顔がほんとうにひっくり返され、粉々に砕かれたがっている物体のように、銀八の掌を受け入れているような気がした。
彼は少女の頭を横に向け、それからまた反対側に向けた。
こうして何度か頭の向きをかえているうちに、、、



───それは不意にビンタに変わっていた。



一回、 二回、 三回……



神楽は声をあげて泣き、叫び声をあげはじめた。
でもそれは苦痛の叫びではなく、恍惚の叫びに近かった。
神楽の顎が銀八に向かってせり上がってきた。彼はその顎を打ちに打った。
そのうちに顎だけではなく、青い乳房まで彼に向かってきたのを見て銀八は神楽を打った。腕を。腰を。乳房を……。
背中を。お尻を。
脚を……。



すべては終わった。
そしてこの荒廃をもたらす甘美な行為も、ようやく終わりを告げた。
神楽はすっかり疲れ果て、ベッドと交叉するような格好でつっ伏していた。少女の真っ白な背中には、指や爪の線の痕、大きな紫色の痣、血の滲んだ歯型、さらに下の方に、お尻や腰には、打ち跡が延々と赤く蚯蚓腫れになっていた。



銀八は立ち上がった。よろめきながら部屋を横切り、ドアを開けて浴室に入った。
水道の蛇口をひねって冷たい水で顔や手や身体を洗った。

頭を上げて鏡の中の自分を見ると、その顔は薄ら笑いを浮かべていた。
そんな顔つきを──薄笑いを浮かべながら──目にした銀八の薄笑いは笑いに変わり、とうとう吹き出してしまった。
それからタオルで身体を拭い浴槽の縁に腰かけた。
彼はほんのちょっとの間でいいからここに独りでいたかった。
そして急に訪れた孤独というこの得難い快楽の瞬間を、心ゆくまで味わい、心の底から歓びに浸りたかった。


神楽のことは愛している。
ひどく、愛しているのだ。


こんなものが愛であってたまるかと思うが、実際こういう愛しかたしか出来ない自分に気がついた。
自分でももうわからないのだ。
正しさなんて端から求めていなかったが、これが正しいとは絶対にいえない。


銀八はこのおかしな苦しみをどうしても軽くすることができなかった。


神楽への愛について断言したことを、彼女に信じてもらえて幸せだったが、その幸福感を外にあらわす術がすぐにはわからなかった。










fin
愚かにも愛を実践した男。



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02/23 18:28
[銀魂]




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