シナゴーグと真珠の樹







そろそろ桜の花が散りかけていたが、しばらくの間、神楽は吐き気というより疲れを覚えることが多かった。
常に何でも消化するほどの強い胃腸の持ち主だと思っていたが、その割には近頃よく、むかつきを覚えるのだと銀時に訴えた。
春になる前に、ようやく粋に着こなせると思った──銀時の観世水が描かれたお古の着流しを──お登勢が、神楽のサイズにと新調して作りかえてくれたのに、少女は腹が出つつあることに少しだけブルーな気分になっていた。
妊娠に気づいてからも、考えることといえば、せっかくの可愛い服が着れなくなりつつある、そんな理由で年若い神楽が安穏とメランコリックな気分になるのを、銀時はどこか微笑ましく思っていたりもする。


「おっぱいが、また大きくなるし。いいモン…」


神楽が自分で自分を慰めるのを、銀時はとりわけ愛しく見つめている。
もっとも、用心すべきであったと銀時自身は、自戒すらしなかったのだが。


だいたい神楽は、子供ができるということについて、実に楽天的で、あまり動揺もしなかった。
神楽は知らないが、世間一般の男がみな銀時のようでないことも、この場合明白だ。
そうした事態に対して、覚悟ができていないなど想像できない──というのではなく、ふてぶてしいほどの信頼で、銀時がどうにかしてくれると絶対に思っていた。だからほとんど直ちに、決心がある形をとる前に、決めていた。
神楽は赤んぼうを産む決心をした。
最初のうちは赤んぼうに名前をつける衝動を抑えていたが、その子に“銀楽”という名前をつける決心は
、すでにそれは運命で決まっていた。


坂田銀楽


この子が大きくなって、もしその名前でいじめられたら、と銀時は心配しているが、ふたりの子供にかぎってそれはないと周囲のほうが笑っている。


夜になると、神楽は和室の窓を開けて、腹部をさらけだし、月の光に身をささげる。
故郷の魔窟にある、死んだような不穏な静けさの中で育った神楽は、幼い銀楽を早いうちから、美しい地球の月光にさらして清めるつもりだ。



「──約束するネ。世界中の人たちに、やさしく囁かせるから」



神楽はおだやかな声でいう。
そんな神楽に跪きながら。
銀時も抱きしめた両手を神楽の腹部にあてて、やさしく囁き、子供の返事を待つ。



(約束するよ、世界中の人たちに、やさしく囁かせるよ。)









私は、愛は花だと言おう
(そして、あなたはまだその種よ)








fin
だから早く逢いにきて。



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09/13 15:48
[銀魂]




・・・・


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