猛獣使いがあたまをライオンの口につっこんだ
ぼくはただ
二本の指を
上流社会の喉につっこんだだけ
こいつ ぼくに噛みつくいとまもなく
効果てきめん
げろげろと
虎の子の胆汁を
いささか吐いた


───フチーク







Fauvisme








後にも先にもあんな物騒な娘にはそうそうお目にかかれないだろうし。
言動、行動、むしろ存在自体が逐一腹の立つあんな男もこれ以上は勘弁だ。


ひとことで言やァ、そんな感じだろうな、あの2人は。
どちらも自分にとっちゃあ厄介極まりないってことで。
















「───あ、チャイナさん、久しぶり」
「おう、ジミー今日も地味ってるナ」


あの事故から二週間、ようやく調書取りに出頭してきた二人組みが屯所に顔を出した。だらしない銀髪の方は、近藤さんが受け持つそうで、ちっこい方はやっぱり関係のある俺が担当らしい。
が、あいにくこっちは先に仕上げねーといけない書類の作成中だ。
だいたい出頭しろと言ってからもう一週間は経っている。
来るのが遅すぎだろ。…間違いなく警察ナメてるよね、こいつら。


「まだアルかー」
「…静かにしてろ」
「早くしろヨ」
「もうちょっとだ、大人しく待ってろ」


躾のなってない仔娘は、手持ちぶさたで俺らの職場で待たされている。通した取調べ室の、空いていた俺の隣の席に腰掛け、足をぶらぶらさせている。
そこに、先ほど山崎がお茶と茶菓子を持ってきて、“優しいお兄さん”よろしく笑顔でご奉仕…始めた。
出頭人に茶菓子を出すなど異例のことだが、生クリームたっぷりのホールケーキを見たその顔が案の定、ぱぁぁっと明るくなる。…笑うと、可愛いんだよな、こいつも。気を許した奴とか、動物でないと笑顔の安売りはしない性質(タチ)らしいが。


「子供の特権だな」
「うっさいネ、マヨラー。 やんないアルヨ」


早速もらった餌をくわえながら皿を囲い込む。バカか。
そんなもんより価値あるもん見せつけちまったことに気づきやしない。だからガキだってんだ。


「おにーさんからお菓子もらって喜んでる止まりじゃなァ」


はぁーっと溜息をつくと、さすがにムカッとしたのか、


「何だヨ、お礼にチューでもしろって言うアルか? 自分がして欲しいからって、あんま私みたいな子ども煽んじゃねーヨ。ロリコンが」


───この餓鬼。 てんでニブのくせして、無自覚な突っ込みがキツすぎんだよ。


「言ってろ。俺はお前が大人んなったってパスだ」


咥えたままの煙草に火を点けそうになって、やめる。仔供の隣じゃな。こいつも一応女なわけで、これ以上いろんなところが成長遅れたままだと可哀相だし。そんなこと言ったら、ぶん殴られそうだが。


「あれー? 面食いな副長にしては即答ですねぇ。将来有望ですよチャイナさん」


いちばん上の苺を頬張りあとはもくもくとケーキに夢中の仔娘を横目に。…まだ居たらしい、山崎がツッコンでくる。いつも思うが、こいつは一言多い。


『ウチの血気さかんな奴等は、みんな言ってますよ。あと2、3年したら楽しみだなって。旦那みたいに今から唾つけときゃァ…そりゃあ将来は自慢できるだろうなってね。ま、んなことしたら殺されますけどね』


今度は声を潜めて邪気なくニコニコ笑ってくる。
その人のいい笑顔に騙されて泣いた女が何人いるかなんて俺の知ったこっちゃねーが。こいつがそれなりに惚れた腫れたに弱いということは知っている。俺以上に、手が早い。だからこそ言えちまうんだろうな。 …いや、そもそもそれ以前にお前ら警察だろ。世間を敵に回すような変態発言はおおやけにすんなっつってんだろーがいつも。
ちろっと部屋を見回し、神楽がケーキに夢中なのを再確認。あといる連中はどってことない。それでも、少し声を抑える。


『……あのな、俺らはこーいう仕事してるんだ。プライベートでくらいこの殺伐とした稼業のことは忘れてェだろ』
『……はぁ。 でもそれとチャイナさんに何の関係が?』


有りも有り、大有りだ。


『女はしとやかなのがいい』
『えー、副長ってアレですねー、型から出れないタイプですか?』
『凶暴な女はどれだけ顔が良くても俺ァ願い下げだ』
『…あー、まぁ……でも、副長の言いたいことって要はこーいうことでしょ。俺らの血生臭い感じなんかわかんなくて、「警察って一体どんなお仕事をされているのかしら?」 とか、わくわくした目で、花のように笑う娘とか……良いですよねぇ(デヘヘ』
『…おまえこそ、ナニその少女趣味。花畑で追っかけっこでもするつもりか?』
『良いっスねぇ。そういう、萌えかわい〜のも好きですよ、俺』
『……お前もうあっち行ってろ。キモい』
『なんスか、副長が言い出したんじゃないですか』


いや、確かに言ったけど……んなトロそーなメンヘラ女のどこがイイんだか。わっかんねぇー。ま、こいつの女の趣味なんかどーでもいいけどな。

椅子に寄りかかって、ハァーと二度目の溜息を溢すとこの部下はまた…。──チッ。仔娘の方をちらっと見て頬を弛ませやがった。
…分かってねーなァ、お前も。
そりゃあ俺たちみたいな男にゃ、女以外、夢見られる場所なんかないわけで。そう目立って出世するとも思えないこんな場所で、汗水たらして働いて、いざって時は体張って。つかの間の休息ぐらいひとときの夢を見たいっつーのは俺だってそうだ。誰だってそう思う。でも─…
───と、ここで餌を完食した神楽が皿を山崎に差し出した。


「おかわり欲しいアル」
「…ねーよ」
「ジミーに聞いてるネ」
「だからもうねえっ」


もう一度しかめっ面で念を押した俺に山崎も 、「ごめんね」 と肩を竦める。
だいたい、このホールケーキはさっき突然やって来たこいつの為に、隈無(部下)がひとっ走りして買いに行ったものだそうだ (俺が命令したわけじゃないからな言っとくが)。時刻も夕方に近かったせいか、屯所から一番近いケーキ屋ではすでにソレひとつしか残ってなかったらしい。 つーか、んな大きなケーキ丸ごと食っといてお代わりってお前、どんだけふてぶてしいんだよ。


「これだから、女のあつかいに慣れてない奴はダメなのヨ。ケーキぐらいホールで十個は買っとくべきアル。女をウチに呼んだ時のこれ、鉄則ネ」
「何だよその“ウチ来る?”みたいなノリは。ここは屯所だぞ。そしてお前は出頭人!」
「はぁ…、“ふくちょー”みたいな彼氏持つと、私生活でもいろいろダメ出しの嵐アルナ、きっと」
「……。」


くわえ煙草をピコピコいわして抗議の意を示すが、効き目は無さそうだった。


「もういいヨ、お前は永遠に中二の夏でも彷徨ってろヨ」
「つーか何の話だよ!」
「アハハハ、中二ですって副長」


〜〜〜っ山崎ィィィ!!


「お前も仕事サボッてねーで早く戻りやがれっ!」
「ケチケチすんじゃねーヨ。男は明日食う米が無くたって、どっしり構えてなんぼアル」
「どっかの天パと一緒にすんじゃねえっ」
「銀ちゃんとお前は一緒じゃないアル。似てるって言われるからって調子乗ってんじゃねーゾ。失礼な奴アルな。一緒にしようがないネ!」
「ああそうだな!」


それには間髪入れずに相づちを打ってしまう。それはもう、反射的に。


「アハハ、副長もなんだかんだ言って、旦那のこと認めてるんですよね」


…んーなんじゃねーよ。


───違うんだよ山崎。 ……まあ、オメェには永遠に分からんだろうな。
そう心の中で思ってからすぐに、神楽への調書を始めた。どうやら銀髪の方が先に解放されたらしい。







02/12 18:01
[銀魂]




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