野獣主義 -2-






宇宙科学の最先端──メガロポリス江戸なんて言われても、天人ってだけで見下す連中はまだここにはウジャウジャいる。
だがこの毒舌娘は、その天人からも畏れられる、まさに邪悪の権化の末裔。───というのは些か言いすぎだが、宇宙のあちこちで伝説化している夜兎の悪弊を耳にすると、それ程でもないような気もしてくる。
だいたい父親が“アレ”だし、そういうのも、また悪評のタネになりそうなもんだが、上司もまた“あの男”だもんで、その横着なぶっとび気質と、ふてぶてしい傍若無人ぶりには、ただただ賞賛を贈る以外無い。
修正不可能。という……もはやこいつを知る者は諦観の一途を辿る他ないのだ。ある意味、そのトラブルメーカーを世話している“あの男”はソレだけで役に立っているわけである。


───いや、まあ…この娘の手綱さばきも、見事なもんだとは思う。


あの厄介な男と頻繁に降りかかってくる災厄の数々と。ああもまともに『四六時中』付き合える輩など、真選組の副長を務める自分にだって考えられない。考え たくもない。従業員その2の眼鏡にしたって、定期的に息抜きに長期休暇でリフレッシュしているはずだ。何故なら身が持たないから (by ストーカー上司談)。
そして、街を歩けば、ひときわ他者を混乱させずにはいられない憎たらしいほどの容姿。それでいて平然とゲロまで吐く破壊工作と、どこか隙のあるように見えて、何気に孤高で、憐憫を撥ね退ける小さな背中。
その幼い小さな悪魔が、なぜか非常に素直に懐き慕っている男が、これまた対照的にゆっるいシミッたれた三十路の年中プー太郎で、金欠ギャンブル狂のロクデナシの愚図なオッサンだったりするから、その犯罪色がなおさら際立つ…てわけだ。
だいたい近所の住人にまで邪推されるわ、好色な目で見られるわ、という状況が、年頃の娘にとって不衛生以外の何物でもないことだというのに、その噂の相手が表立って庇い立てしないことに、土方はときおり落ち着かないものを感じる。
ちょうどささくれの出来たときのような、じれったさと不愉快の表れだ。
仔娘もまた言い訳しない。むしろ時おり煽るような出まかせを愉しみ、口さがない醜聞を咎めない。(内心満更でもないのは定かではないが)。
ま、とりあうことで問題を深刻化させないための鷹揚な対応だとわかる。自分にもそれくらいは解る。
しかし一方的に、おさない女の品性を貶められているのに、それでもまるで瑣末事のように素知らぬ顔をする保護者の無責任な態度が、当事者でも何でもない土方には歯痒くて仕方のないものだった。
護ってやりたい、とは、言えない立場と承知していても、全身であの男を心から慕う娘の態度が、その侮蔑を受けることに傷ついていないとは思わない。
それはまったく野暮な噂で色付けされるものではなく、些か歪な執着はあるものの、信仰にも似た純粋な部類に属すのではないか。
彼らにいわゆる関係があるのかどうかは知るところではない。
そうと言うには男の娘のあつかいには、あまりにも年頃のソレに対する容赦というものがないし、相対する仔娘の色気の“い”の字も顕れない徹底した悪ガキっぷりに、女の甘さは微塵も感じられない。
けれどないと言い切るには、二人の絆は強すぎて、ありふれた可哀らしい慕情など吹き飛ばすほどに獣めいた匂いがする。
彼らはよく自分たちのことを“家族のようなもの”などと言い表すが、決してそれだけじゃないような気がしないではないのだ。
もちろんのこと、すべての人間関係が明瞭な説明のつくものではないから、それらは引っ掛かりがあっても、否定されるべきではない。
まあ、それはさておき。




絶滅危惧種のメス、夜兎の女。
歌舞伎町で万事屋稼業を営む三人組の紅一点。
オーナーの男が星海坊主から託され面倒を見る、とんでもないジャジャ馬娘、十四歳。
見た目だけは華奢で上等な娘なんでつい忘れがちになるが……毒舌チャイナ娘の本質は、力──凶器そのものなのだと。
知らなかったわけではないが、改めて思い知らされた出来事───。




あれは、二週間前だった。ここ数年で最大規模の市街テロの計画が発覚した。
タレコミによって、計画達成に至る前に拠点は叩いたものの、地下の下水道沿いに数名が逃亡した。奴らがその間に爆発物を仕掛けた可能性があった。
何処に仕掛けのたか、仕掛けられたとして、時限装置はいつにセットされているのか。
全くわからないチキンレース状態で捜索が始まった。
迷路のような地下水道──。連中はよほど入念に構造を頭に叩き込んでやがったのか、ドブネスミみたいに姿が見えたと思っては消え、当然武装で抵抗もするから、こちらにも少なからぬ怪我人を出してくれた。だが、いかんせんアチラが劣勢。次第にボロボロと捕まり始めたが、肝心のことを知っている中心人物はまだいなかっ た。


そんな中で起こった悲劇だ。


追い詰められたテロリストの残党が、見せしめにと爆弾の有無を示すためにも、とうとう市内のとある一ヶ所を爆破してくれた。しかし───運悪く…そこは歌舞伎町の端にある胡散臭い万事屋などという、これまた犯罪臭いメンバーが生息する住居の真下の下水道だったわけだ。
奇跡的に階下のバアさんと従業員は出かけていたから良かったものの、一階部分はそりゃもう綺麗さっぱり吹っ飛んで、骨組みになった柱で辛うじて支えられた 二階部分の傾斜に、生存者二名を確認した。死んどきゃいいのに生憎その危険人物二人組みは、「けほっ」 と面白おかしく粉塵を吐き出すだけで全くもって無事だった。


で、要はここからが問題だ。


自分の家を滅茶苦茶にされた住人がそれに憤らないはずがない。
案の定、烈火のごとくブチギレた鬼神ふたりは、駆けつけた真選組に厭味たらたらここぞと暴言を吐きまくって、お前らがちゃっちゃと捕まえねーから市民が危険に脅かされるんだとかなんとか、「この無能チンピラ警察がッ!」 と最後に一咆え、独自で犯人を捕まえるべく地下水路に降りて行った。完全武装したテロリスト相手に木刀一本と、愛傘一本で…。
「おいィィィっ!一般人がしゃしゃり出るんじゃねーよ!!」
そう言ったのは後の祭りだ。

しかし本来ならあいつらの事など構ってる場合じゃなかったが、自ら危険に飛び込んだとはいえ仔供を放置して─── というかあの加減を知らないトラブルメーカーのクソ餓鬼と銀髪を野放しにはできず───俺と総悟が仕方なく追いかける破目になった。狭い用水路で人数ゾロゾロ引き連れての行動は相打ちの危険も高く、最小限のリスクを負うにはこれが一番有効だったからだ。


そして運悪く、俺のほうが先にあの爆弾娘を見つけちまった。ホント、災難としかいいようがない。







02/12 18:04
[銀魂]




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-エムブロ-