傷んだ梅の実をあえて選ぼうとする神楽に、銀時は首を傾げた。
屁怒呂さんの家になる梅の木から、梅酒用の青梅をいくつかお裾分けしてもらった帰り道である。
神楽は裏庭の垣根あたりに落ちているじゃっかん黄ばんだ青梅を拾っている。
「綺麗なのもらったじゃん」
「…ウン」
そう生返事をするが、神楽はまた地面に落ちた青梅を選り分けていく。
「あのー、枝から取っていいですよ」
家から屁怒呂さんが顔を出してニコニコ手を振ってくる。
「ウン」
「いや、ウンじゃなくて」
銀時はあきれたように神楽の謎行動を観察する。
「アダムとイブごっこアル」
「え?」
神楽が拾った梅の実を口にあて、銀時が注意する前に、カリッと噛んでうっすらと微笑った。
「罪の果実をいっしょに喰うネ」
神楽と顔を合わせた銀時に、「ん」と青梅が口許へはこばれる。背伸びした少女に、齧った時の持ち手のまま押しつけられたため、神楽の小さな歯跡がねずみの悪戯のように果肉を削っているのが見てとれた。
(……また変な遊びおぼえてきたな…)
青梅は生で食べると毒だと注意したことがある。…いや、毒なのは梅の種の中身か…。
たしか…梅の字は「母」の字を含むことから、中国ではつわりのときに梅の実を食べる習慣があるとか聞いたような気がしたような…。
「早く」
罪の果実以上に罪深い神楽に、銀時はうっすらと笑って、唇を追ってきた青梅に歯を当ててやる。
そのまま神楽を見つめながら、少女が下の歯で削った傷口に上の歯を引っ掛けて小さく齧りついた。
瞬間、青臭い、苦く酸っぱい果肉の味が口にひろがる。遅れてきた爽やかな香り。
神楽が秘密めいた微笑いで銀時を見ている。
今年の青梅は実にいい塩梅である。
梅酒だけでなく、神楽のために梅のシロップも作ってやろうと、銀時は家までの短い帰り道を運命の女の手を引いて仲睦まじく帰った。
fin