空への一瞥、一度の愛撫







両親の価値観はイヤ。
過去の自分もイヤ。
でも、こんな生活は続けられない───。
アイツは私が傷つくのが好きだから。
ただそこに立って私が泣くのを聞いている。
それでいいの?
私は傷つくのが好きだから?

私はあなたが嘘をつくのが好き。
あなたが嘘をつくのが好きだから……。





しあわせの代償は
I apologize even though I know it's lies.






そりゃぁ、私だって正しい夢はみるのだ。
今の状況からさらってくれる人はいないかと。
でもあなたは夢の相手じゃない。
初めはその気だったけど。
間違いを正しいと感じてる限り私たちはまるで浮ついてる気分。
愛から遠ざかって、憎悪から間抜けな行為を繰りかえす。まるで悪夢を吸い込んでるみたいに。
でも苦しいほど好きなの、息が詰まりそうで。
さっきまで溺れ死にそうだった、でもあなたが私を救ってくれる、私がアイツのことが今は大嫌いだから。


“今の生活から逃げる気ある?”


変ね。一度だけ、
精神科医にも同じこと話したの。



“精神科医は何て?”



──こう言ったよ。
恐がってるから
行動できないんだって。


私はアイツから離れる、もう戻って来ないでって。
でも私たちはすぐ元に戻る、ほらまた始まった。
本当に馬鹿げてる、うまくいく時は最高にうまくいくのに。
でもうまくいかない時は本当に最悪。本当に侮辱された気分でブチ切れる。
あのクソ女は誰ヨ? 女の名前すら知らない。
アイツに手を挙げた。
簡単に殴り返される。
白い膚をけがす内出血はもうこれで何百個め?
こんな最低なことはもう二度としないで。
たぶんアイツは自分の力の強さをわかってないんだ。


今はお互い見てるだけでも気持ちが悪くなってくる。
絶対に相手を殴ったり、傷つけるようなことはしないっていつも誓うのに。お互いに唾を飛ばし合い、相手の顔に毒のある言葉を吐き捨てる。
お互いの髪を引っ張っり合い、爪でひっかき、倒れるまで殴って動けなくする。
我を忘れてそんなことをしている時。
あなたの顔がたまにチラつくよ。


もしも不満を感じるとしたら──
私が悪いの。
そうなの。
やっぱりアイツとは離れられないから……。


“どうして”


アイツと離れるのが怖いから。
今さら離れられない。


ここ数年……
あなたは自由なはずなのに私に縛られる関係だ。
愛してるけど、ドキドキは感じない。
寂しいの。
寂しいのよ?


あなたは私の一部で、永遠に大切なヒトだけど──
結局のところうまくいかなかった。
原因は?
わからない。


あなたと私は今も愛し合っているのにね。
永遠の愛だけど
なぜかうまく噛み合わないの。
完成しないから、ロマンチックなのね。
愛が完成しないのは──
アイツが邪魔してるから?
あなたが現れなくても──
私とアイツはいがみ合ってばかりだった。
でもあなたのお陰だよ。
少しは救われるから。
あなたは欠けていた要素。
私にとってはそうなの。
だってあなたは嘘でももう言ってくれないもの。
アイツと離れたほうがいいんだなんて。
みんな誰もわかってくれないことを、あなただけは解ってくれる。


あなたは…、いつか痣だらけの私の身体を見て言ったよね。
見られたのがほんとうはショックだった。


『お前も俺を見たろ?』
『私が?』
『俺が泣いてるのを見た』
『……うん』
『知ってた』
『今の私、どうかしてるの』
『お前を見たのは、きれいだったからだよ』
『…本当?』
『うん』
『私が気持ち悪くない?』
『ないよ』
『……あのネ、──初めて兄以外のヒトと寝たくなったの』
『うん』
『私が好き?』
『うん』
『私が可哀そう?』
『うん』
『わかってるくせに』
『……何を』


あなたが嘘をつくとき、私は罪を犯す人の顔に支配されてる。
あなたはほとんど息もできなくなるほど誰かを愛したことはある?
あなたといる時、あなたと会った時、お互いに何に惹かれたのかもわからないまま、ふわふわした暖かい気持ちになれる。
そう、冷たい気持ちに慣れてた私が。
それが本当はなんなのかは私にはわからない。
ただそれがどんな風に感じるのかはわかる。
今それは、私の手首に当たっているスチール製のカミソリ。
息ができない、でも私はまた繰り返す、あなたがいるうちは。
あなたがいるうちは────



次は絶対に自分を抑えるって約束する。
でもいつもそう、次なんてホントはあるかわからない。
人生はゲームじゃない、あなたにまた嘘をつく。


“次は許さない”


あなたもまた嘘をつく。
私はそんなあなたが好き。
そんなあなたが好き。











fin
アイツは私のことが今は大嫌いだけど。


たとえば、一口の冷たい水、空への一瞥、一度の愛撫。 きみのいない未来だけ。



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09/14 20:04
[銀魂]




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