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【NWR】海賊船長と花屋の娘の邂逅

 首都郊外農耕区画の花屋「ソレイユ・ルヴァン」でのワンシーン。



「という訳で素敵なお嬢さん。俺と夜のクルージングでもいかがかな?」
「……何が『という訳で』なのかよく分からないんですが、お買い上げは以上でよろしいですか?」
「ああ。君のように美しい、この赤い情熱の薔薇を100本いただこう!」
「ありがとうございます! では、領収証の名前は『バッカナーレ様』でよろしかったですか?」
「おう、よろしく頼む! ところで可愛いお嬢さん、君の名前を教えてくれないかい?」
「私の名前、ですか……。フルールと申します」
「フルール! なんと美しい響きだ……!」
「ど、どうもありがとうございます」
「どうだい可憐なお嬢さん、この後俺と一緒に夜のクルージングでも?」
「あの、ええと、まだ仕事がありますから……」
「そう釣れない事を言わないで。夢のような楽しいひとときが、君を待っているというのに」
「あううう、そんな事言われても……ってああ、しむら……じゃなかったお客様!後ろ、後ろっ!」
「え、後ろ?」
「我輩の妹分に手を出すとはいい度胸ニャ!」

 バキッ☆

「ぎゃああああ!」
「きゃあっ! 申し訳ありませんお客様! ちょっとリコリス、大切なお客様に対してなんて事するのよ!」
「フルールを悪い虫から守るのが我輩の役目ニャ」
「よくやったリコリス。君の行動は賞賛に値する。軍で言うならば二階級特進モノだ」
「わっ、いつから居たんですかユリウスさんっ!」
「くっ……しかし俺はこのくらいでめげねえぞおぉおお……!」
「気が付かれましたかお客様! ああっ、後頭部に大きなコブが! 本当に申し訳ありません〜!」
「……こ、これはかなり美味しいシチュエーションなんじゃねえか?」
「ごめんなさいごめんなさい! どうしよう、何かお詫びをしなくちゃ!」
「心優しいお嬢さん。そうだな、一晩ナイトクルージングに招待させてもらえれば……」

 パァン☆

「どわあああぁあ!」
「ちっ、私としたことが狙いを外したか……運が良かったな貴様」
「きゃあああ! お客様に発砲しないでくださいユリウスさん!」
「ちょ、耳! 今耳掠めたぞオイ! うわっ何か血出てやがるし!」
「脳天を打ち抜かれなかっただけマシだと思え」
「いつから農耕区画はこんな物騒な場所になったんだ!?」
「わあああん本当にごめんなさ〜い! もうこうなったら最終奥義・東洋秘術ハラキリでお詫びをするしか!」
「落ち着くんだフルール! 意味を分かって言ってるのか!」
「お、落ち着いてくれ麗しいお嬢さん! ハラキリ良くない!」
「女性を泣かせるとは何事ですか。この豆粒脳味噌船長」
「おわっ、チェレブラーレてめえいつからそこに!」
「このピンクの猫に後頭部をどつかれた辺りからずっと」
「見てたんなら助けやがれえぇえええ!」
「自業自得でしょう。全く、食材の買出しに出かけた筈が何故薔薇を100本も買い占める事態になっているのです。私に分かるように500文字以内で説明なさい」
「……後で作文にして提出する」
「よろしい。おや、所で貴方はもしや……先週の『週刊チェス☆フレンズ』で巻頭カラーを飾っていたユリウス・シュレンドルフではありませんか?」
「いかにもその通りだ」
「え、ユリウスさん雑誌に載ったんですか!」
「こ、これは、是非一勝負お願いしたいですね……! 我々の船にご足労頂いても構いませんか?」
「フルールが一緒なら構わないよ」
「問題ありません。何でしたらそちらの猫もご一緒でも」
「ただの猫じゃないニャ。小天使猫だニャ」
「これは失礼しました」
「おい、てめえ船長の俺を差し置いて何を勝手に」
「わあ、私船って初めてなんです! うふふ、楽しみだなぁ……」
「……まあ、いっか。とりあえず当初の目的は達成出来たし」
「あ、それと。100本の薔薇は船長の自腹で購入してくださいね。間違っても経費で落とそうとは思わないように」
「………………」

【NWR】願い事ひとつ

「行方不明の師匠を見付けだすこと」

 ──今年の目標は何ですか?
 きっぱりと、迷いの無い口調でコルトが答えた。

「そして、逢えたら思いっきり、ぶん殴ってやるの」

 これもまた迷いの無い口調で言い放った為に、フルールとリコリスが同時に目を丸くした。
 クルーエルだけは無表情のままだったが、その眉間には僅かに皺が寄っている。

「ぶん殴るだニャんて、新年から物騒すぎるのニャー!」
「別にいいでしょ。1年以上何の連絡も寄越さない、師匠が悪いんだから」

 ティーカップに注がれた紅茶を飲み干すコルト。
 フルールが故郷から取り寄せたという、特製の茶葉を使って淹れたものだ。ほんのりと口内に広がる甘みに、ほっと息を吐く。
 苦笑を浮かべるフルールに、不審そうな顔のリコリス、相変わらず仏頂面のクルーエル。
 新年早々、妙な組み合わせでティータイムを過ごす事になってしまった、と秘かにコルトは思った。
 しかしここは傭兵の集い場「Bar Blue Kid's」である。この場所ではままある光景なので、誰も口に出して突っ込むような真似はしない。
 あのクルーエルでさえも慣れてしまったらしく、不機嫌そうな顔をしながらも、特に文句を口にしたりはしなかった。

「でも、心配なのよね、師匠さんのことが」
「……当たり前でしょ。年中のほほんお花畑の師匠が、余所様に迷惑掛けてるんじゃないかと思うとね」
「フニャー。素直じゃないニャ」
「分かったような口聞かないでよ」

 誤魔化すようにティーカップを口許に運ぶコルトだが、既に空である事に気付く。
 その様子を見ていたクルーエルが鼻で笑った。大方リコリスと言いたい事は同じなのだろう。
 その余裕ぶった顔を何とか壊してやろうと、コルトの口から飛び出したのは憎まれ口。

「素直じゃないのは、あんただって同じでしょ」
「……何が言いたい」
「まぁまぁ、お二人とも。新年だし仲良くしましょう、ね?」

 にこにこ微笑んでいるフルールも、コルトに言わせれば師匠と同じ、のほほんお花畑っ子である。

「うふふ。コルトちゃんも、自分で言っちゃったわね。素直じゃないのは同じ、って」
「……!」

 ──そのお花畑に思いがけない形で反撃され、言葉を詰まらせたコルトであった。
 以前、フルールと共にリゾットを作った時も覚えた既視感が蘇る。
 このお花畑にはかなわない……なんてコルトが考えているなどと、きっとフルールは夢にも思っていない。
 穏やかな空気に絆されて、自然と素直な想いが、コルトの口を吐いて出た。

「……あたしは、師匠に逢いたいの」

 あの時の不思議な暖かさを思い出し、コルトの表情が少しだけ綻む。

「逢えたら、思いっきりぶん殴って……それで、許したらまた一緒に、地味に暮らしていくの」
「コルトちゃん……」
「ぶん殴るのは譲らない。あたしの気が済まないから」
「そうね、それも、いいんじゃないかしら。師匠さんもきっと、笑って許してくれるわ」

 コルトの物騒とも言える台詞に、さらっと同意を示すフルールだが、それが激励であることは、リコリスもクルーエルも十分に承知していた。

「力になれる事があったら、何でも言ってね、コルトちゃん」
「ニャー! 我輩も協力するのニャ!」
「手を貸してやらんでもない……あの時の借りは、必ず返す」

 あの時──Dr.JK絡みの性格逆転事件を、クルーエルはまだ水に流せないらしい。
 リゾットの材料費を出させたことだし、コルトとしては片付いたつもりだったのだが、向こうがその気ならば、せいぜい利用させてもらう事にしよう。
 思いがけない形で励まされてしまって、コルトの顔に少しだけこそばゆそうな微笑が浮かんだ。

「…………ありがと」
「ニャ? 何か言ったかニャ?」
「何でもない。遠慮なく頼らせてもらうから、今後ともよろしくね」

 (新年のスタートとしては、悪くないかもね)
 微かな紅茶の残り香が、コルトの鼻腔を心地よく刺激した。
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