「ぼくたち、手を繋いで生まれて来れたら良かったのに。」

きみの言葉で、夢が覚める。そして、きみの声が、夢であったのだと知る。寝ぼけ眼で、光の差し込む窓を眺めたあと、ベッドから降りた。きみがどんな道を歩もうと、ぼくは生活をしなければならない。

夢の中、その言葉は、「愛しているよ。」ということなのかな、とぼくは思った。もしそうなのであれば、「ぼくも愛しているよ。」ときみに伝えたかった。そうして、ポケットからきみの手を攫って、「生まれた後でも、繋ぐことは出来るよ。」と言って、きみを笑わせたり、なんて。緩く染めた頬。

あっという間にぼくらは大人になってしまうのに、誰もそのことを恐れないんだな。

夢の中、言葉の真意について問うと、きみは俯いた。そして、「これはぼくなりの贖罪なんです。」ときみはぼくの手を取った。「あの日、手を離してしまったのは、ぼくの方なんです。だから、あなたと逸れてしまった。生まれた後でも出会えたけれど、でも、」きみはぼくの掌を優しく包んだ。「ぼくらはひとつではなく、それぞれ別の心臓を持ってしまった。そのことに対する、贖罪です。」
思いがけない言葉だった。

手のひら、開いて。
ここには、何もないよ。
(ほんとうだ。)
(ほんとうだ、何もない。)

なんの理由もなく、生まれてしまったぼくらだ。

夢の中、「愛しています。」という言葉は、そろそろかな、なんて。緩く染めた頬。きみがくれた贈り物の、サテンのリボンを解いたあとに、残ったのは日常だけだった。きみがくれたものの中に、「愛しています。」という言葉は、どこにもなかった。だから、「ぼくも愛しています。」という言葉や、その先の未来や、きみの微笑みは、訪れることは無かった。
もう、やめようか。

誰にでも訪れる、淡く輝く朝方。
きみが大人になったあとも、続いていく音楽。